【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

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第三章 葛藤

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「ユリアーナ様、公爵家の話をシモン様は殆ど把握しておりませんでした」

 カインの声に憤って睫毛を伏せていたユリアーナはスッと顔を上げた。

「では今はご存知?」

「私が話しました。ただある程度の話です、全てではありません。元々シモン様は貴族に拘っていらっしゃいませんでしたので、その点のみで話しております」

「そう」

「ただファライナに関しては薄々気付いていたようです」

「そう、ねぇファライナ様は如何して愛されていないと思ってらしたのかしら?私が聞いてもしょうがないとは思うのだけど」

「ファライナの愛されていないは、自分が思ってるよりもということです」

「ええっ?では愛されているのはわかっているけどそれでは足りないと思ってるということ?」

「はい、それに私が公爵家から命じられて彼女の側にいたのは、あくまでもシモン様とファライナの橋渡しの役目のみでした。そのように私も行動しておりましたので、ただそれをややこしくしたのはファライナ本人です。それは公爵家も如何したものかと。如何あっても可怪しいですからね」

「でも、私貴方を出迎えに来たというファライナ様にお会いしたことがあるのよ」

「それはいつですか?」

「昨年の春頃、私がアトルスに着いたその日です」

「それは⋯まさか!ユリアーナ様、おそらくですがファライナは貴方を見に行かれたのかと思います。私を出迎えるなんて事ありませんから」

「えっ?私その時はまだシモン様にお会いしておりませんわ。関係ないと思うの⋯で」

 そこまで言ってユリアーナは、一つの可能性に思い至って驚愕した。

「まさか、ダイナス様」

「申し訳ありません、おそらくですがユリアーナ様の事をゲートラン公爵家は前もって把握していたのだと思います」

「そんな前から?」

 ユリアーナはシモンとの出会いまでダイナスが画策していた事に、背筋が薄ら寒くなった。彼は一体何がしたかったのか。いや、あの時も一瞬はお見合いかもと思った筈、だけど薬草の事があったから⋯。何方にしても普通に紹介するではユリアーナが警戒すると思ったのは否めない。だからあんな紹介の仕方をしたのかもしれない。

 グルグルとあの時の事をユリアーナが考えていたら、突然ノックの音がしてマールが扉を開ける。
 入ってきたのは父ユリシーズであった。

「ユリアーナ、部屋を変えなさい」

 その言葉で、小声で密かに話していたつもりだった話が、廊下に漏れていた事にユリアーナは思い至り、自分の迂闊さに恥じ入った。
 ユリアーナとて、まさかここに来てダイナスが絡んてるなど思いも依らなかったのだが、それは言い訳に過ぎなかった。

「カイン殿済まない。これ以降は私も同席致す。部屋を移って頂くが宜しいか?」

「はい、公爵様の仰せのままに」

 カインが立ち上がり胸に手を当てて礼をすると、いつの間にかアルホーンも居てそのまま勅使専用の部屋へと案内されていった。

 残されたユリアーナにユリシーズが苦笑しながらも軽い叱責をした。

「ユリアーナ、幾ら屋敷の中でも迂闊すぎる。他家の秘密を聞くならば慎重にならなければならない。基本だぞ」

「申し訳ありません、お父様」

「まぁ次から気をつければ良い。廊下に漏れ聞こえていた声は、私とアルホーン、それにエレーヌしか聞いておらん。今日は私達が壁になったからな」

 ユリアーナは思わず自分の顔が赤くなるのが分かった。一体幾つまで自分は親に心配をかけるのかと、不甲斐なさに恥ずかしくなったからだ。

 父に連れられて応接室に向かうと既に母がカインの対面に座って待っていた。

 もうロッサルト公爵家総出でカインを尋問するような物で、ユリアーナはカインに申し訳なくて穴があったら入りたい、そんな心境だった。


 ◇◇◇


「カイン殿、今は幸せか?」

 ユリシーズの言葉にカインはしっかりと頷いた。
 それでユリアーナ達は少しは救われた気になった、彼が巻き込まれたのはゲートラン公爵家の思惑だったけれど、そこにはダイナスまで関わってしまったから、少なからずユリアーナは責任も感じた。

「私は、ゲートラン公爵家の方達を恨んだりしていない事だけは、ご承知おき下さい。私の様に男爵家の三男は殆ど行き場はありません。護衛騎士のような格好はしていましたが、そこそこにしか剣の才もなく文官ほどの知恵もない、そんな私を側に置いてくださり役目を与えて、そして行く末を案じ今の仕事も紹介してもらったのです。感謝こそすれ恨んでも憎んでもいません。恨むのはファライナのみです。彼女がややこしくしただけですから」

「君が納得してるならそれでいい、これからも商会との付き合いがあるからなよろしく頼む。これは結婚祝いだ」

 ユリシーズはそう言ってカインに祝いを渡し、彼は恐縮しながらも受け取り宿に帰って行った。
 彼が帰ったあと、その場に夕食を運んでもらい親子3人でこれまでの話を纏める事にした。

「ダイナス様の目的はエンバーにいい格好をしたかっただけなのね」

 エリーヌの言葉にユリシーズは頷いた。
 ユリアーナは早くに両親に相談すればよかったと、今ほど後悔したことはなかった。
 カインの情報
 ユリシーズの情報
 エリーヌの情報
 ユリアーナの情報(これはあまり役に立たなかった)
 この部屋に移ってこれだけの情報を出し合ったら、しっかりと背景が分かり、ユリアーナの疑問も簡単に解決した。

 ゲートラン公爵家とショーズ侯爵家の婚約やその事については、あちらが元々勝手に色々とお互い画策していたのだが、そこにダイナスが入り込んでユリアーナを巻き込んだ事で、余計にややこしくなったというのが結論だった。

 ダイナスの件は、ユリアーナがオスカーと婚約を解消したところから始まったのだ。

 それがなければ彼はどうしていたんだろう?
 聖国などに行かず大人しく第二王子の責を全うしたのだろうか?そんな詮無いことをユリアーナは考えていた。

「ユリアーナ、貴方気にしなくていいわ。ダイナス様に利用され巻き込まれたのは貴方よ」

 母の言葉にユリアーナは少しだけ救われた。






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