51 / 80
第三章 葛藤
51
しおりを挟む
「ユリアーナ様、公爵家の話をシモン様は殆ど把握しておりませんでした」
カインの声に憤って睫毛を伏せていたユリアーナはスッと顔を上げた。
「では今はご存知?」
「私が話しました。ただある程度の話です、全てではありません。元々シモン様は貴族に拘っていらっしゃいませんでしたので、その点のみで話しております」
「そう」
「ただファライナに関しては薄々気付いていたようです」
「そう、ねぇファライナ様は如何して愛されていないと思ってらしたのかしら?私が聞いてもしょうがないとは思うのだけど」
「ファライナの愛されていないは、自分が思ってるよりもということです」
「ええっ?では愛されているのはわかっているけどそれでは足りないと思ってるということ?」
「はい、それに私が公爵家から命じられて彼女の側にいたのは、あくまでもシモン様とファライナの橋渡しの役目のみでした。そのように私も行動しておりましたので、ただそれをややこしくしたのはファライナ本人です。それは公爵家も如何したものかと。如何あっても可怪しいですからね」
「でも、私貴方を出迎えに来たというファライナ様にお会いしたことがあるのよ」
「それはいつですか?」
「昨年の春頃、私がアトルスに着いたその日です」
「それは⋯まさか!ユリアーナ様、おそらくですがファライナは貴方を見に行かれたのかと思います。私を出迎えるなんて事ありませんから」
「えっ?私その時はまだシモン様にお会いしておりませんわ。関係ないと思うの⋯で」
そこまで言ってユリアーナは、一つの可能性に思い至って驚愕した。
「まさか、ダイナス様」
「申し訳ありません、おそらくですがユリアーナ様の事をゲートラン公爵家は前もって把握していたのだと思います」
「そんな前から?」
ユリアーナはシモンとの出会いまでダイナスが画策していた事に、背筋が薄ら寒くなった。彼は一体何がしたかったのか。いや、あの時も一瞬はお見合いかもと思った筈、だけど薬草の事があったから⋯。何方にしても普通に紹介するではユリアーナが警戒すると思ったのは否めない。だからあんな紹介の仕方をしたのかもしれない。
グルグルとあの時の事をユリアーナが考えていたら、突然ノックの音がしてマールが扉を開ける。
入ってきたのは父ユリシーズであった。
「ユリアーナ、部屋を変えなさい」
その言葉で、小声で密かに話していたつもりだった話が、廊下に漏れていた事にユリアーナは思い至り、自分の迂闊さに恥じ入った。
ユリアーナとて、まさかここに来てダイナスが絡んてるなど思いも依らなかったのだが、それは言い訳に過ぎなかった。
「カイン殿済まない。これ以降は私も同席致す。部屋を移って頂くが宜しいか?」
「はい、公爵様の仰せのままに」
カインが立ち上がり胸に手を当てて礼をすると、いつの間にかアルホーンも居てそのまま勅使専用の部屋へと案内されていった。
残されたユリアーナにユリシーズが苦笑しながらも軽い叱責をした。
「ユリアーナ、幾ら屋敷の中でも迂闊すぎる。他家の秘密を聞くならば慎重にならなければならない。基本だぞ」
「申し訳ありません、お父様」
「まぁ次から気をつければ良い。廊下に漏れ聞こえていた声は、私とアルホーン、それにエレーヌしか聞いておらん。今日は私達が壁になったからな」
ユリアーナは思わず自分の顔が赤くなるのが分かった。一体幾つまで自分は親に心配をかけるのかと、不甲斐なさに恥ずかしくなったからだ。
父に連れられて応接室に向かうと既に母がカインの対面に座って待っていた。
もうロッサルト公爵家総出でカインを尋問するような物で、ユリアーナはカインに申し訳なくて穴があったら入りたい、そんな心境だった。
◇◇◇
「カイン殿、今は幸せか?」
ユリシーズの言葉にカインはしっかりと頷いた。
それでユリアーナ達は少しは救われた気になった、彼が巻き込まれたのはゲートラン公爵家の思惑だったけれど、そこにはダイナスまで関わってしまったから、少なからずユリアーナは責任も感じた。
「私は、ゲートラン公爵家の方達を恨んだりしていない事だけは、ご承知おき下さい。私の様に男爵家の三男は殆ど行き場はありません。護衛騎士のような格好はしていましたが、そこそこにしか剣の才もなく文官ほどの知恵もない、そんな私を側に置いてくださり役目を与えて、そして行く末を案じ今の仕事も紹介してもらったのです。感謝こそすれ恨んでも憎んでもいません。恨むのはファライナのみです。彼女がややこしくしただけですから」
「君が納得してるならそれでいい、これからも商会との付き合いがあるからなよろしく頼む。これは結婚祝いだ」
ユリシーズはそう言ってカインに祝いを渡し、彼は恐縮しながらも受け取り宿に帰って行った。
彼が帰ったあと、その場に夕食を運んでもらい親子3人でこれまでの話を纏める事にした。
「ダイナス様の目的はエンバーにいい格好をしたかっただけなのね」
エリーヌの言葉にユリシーズは頷いた。
ユリアーナは早くに両親に相談すればよかったと、今ほど後悔したことはなかった。
カインの情報
ユリシーズの情報
エリーヌの情報
ユリアーナの情報(これはあまり役に立たなかった)
この部屋に移ってこれだけの情報を出し合ったら、しっかりと背景が分かり、ユリアーナの疑問も簡単に解決した。
ゲートラン公爵家とショーズ侯爵家の婚約やその事については、あちらが元々勝手に色々とお互い画策していたのだが、そこにダイナスが入り込んでユリアーナを巻き込んだ事で、余計にややこしくなったというのが結論だった。
ダイナスの件は、ユリアーナがオスカーと婚約を解消したところから始まったのだ。
それがなければ彼はどうしていたんだろう?
聖国などに行かず大人しく第二王子の責を全うしたのだろうか?そんな詮無いことをユリアーナは考えていた。
「ユリアーナ、貴方気にしなくていいわ。ダイナス様に利用され巻き込まれたのは貴方よ」
母の言葉にユリアーナは少しだけ救われた。
カインの声に憤って睫毛を伏せていたユリアーナはスッと顔を上げた。
「では今はご存知?」
「私が話しました。ただある程度の話です、全てではありません。元々シモン様は貴族に拘っていらっしゃいませんでしたので、その点のみで話しております」
「そう」
「ただファライナに関しては薄々気付いていたようです」
「そう、ねぇファライナ様は如何して愛されていないと思ってらしたのかしら?私が聞いてもしょうがないとは思うのだけど」
「ファライナの愛されていないは、自分が思ってるよりもということです」
「ええっ?では愛されているのはわかっているけどそれでは足りないと思ってるということ?」
「はい、それに私が公爵家から命じられて彼女の側にいたのは、あくまでもシモン様とファライナの橋渡しの役目のみでした。そのように私も行動しておりましたので、ただそれをややこしくしたのはファライナ本人です。それは公爵家も如何したものかと。如何あっても可怪しいですからね」
「でも、私貴方を出迎えに来たというファライナ様にお会いしたことがあるのよ」
「それはいつですか?」
「昨年の春頃、私がアトルスに着いたその日です」
「それは⋯まさか!ユリアーナ様、おそらくですがファライナは貴方を見に行かれたのかと思います。私を出迎えるなんて事ありませんから」
「えっ?私その時はまだシモン様にお会いしておりませんわ。関係ないと思うの⋯で」
そこまで言ってユリアーナは、一つの可能性に思い至って驚愕した。
「まさか、ダイナス様」
「申し訳ありません、おそらくですがユリアーナ様の事をゲートラン公爵家は前もって把握していたのだと思います」
「そんな前から?」
ユリアーナはシモンとの出会いまでダイナスが画策していた事に、背筋が薄ら寒くなった。彼は一体何がしたかったのか。いや、あの時も一瞬はお見合いかもと思った筈、だけど薬草の事があったから⋯。何方にしても普通に紹介するではユリアーナが警戒すると思ったのは否めない。だからあんな紹介の仕方をしたのかもしれない。
グルグルとあの時の事をユリアーナが考えていたら、突然ノックの音がしてマールが扉を開ける。
入ってきたのは父ユリシーズであった。
「ユリアーナ、部屋を変えなさい」
その言葉で、小声で密かに話していたつもりだった話が、廊下に漏れていた事にユリアーナは思い至り、自分の迂闊さに恥じ入った。
ユリアーナとて、まさかここに来てダイナスが絡んてるなど思いも依らなかったのだが、それは言い訳に過ぎなかった。
「カイン殿済まない。これ以降は私も同席致す。部屋を移って頂くが宜しいか?」
「はい、公爵様の仰せのままに」
カインが立ち上がり胸に手を当てて礼をすると、いつの間にかアルホーンも居てそのまま勅使専用の部屋へと案内されていった。
残されたユリアーナにユリシーズが苦笑しながらも軽い叱責をした。
「ユリアーナ、幾ら屋敷の中でも迂闊すぎる。他家の秘密を聞くならば慎重にならなければならない。基本だぞ」
「申し訳ありません、お父様」
「まぁ次から気をつければ良い。廊下に漏れ聞こえていた声は、私とアルホーン、それにエレーヌしか聞いておらん。今日は私達が壁になったからな」
ユリアーナは思わず自分の顔が赤くなるのが分かった。一体幾つまで自分は親に心配をかけるのかと、不甲斐なさに恥ずかしくなったからだ。
父に連れられて応接室に向かうと既に母がカインの対面に座って待っていた。
もうロッサルト公爵家総出でカインを尋問するような物で、ユリアーナはカインに申し訳なくて穴があったら入りたい、そんな心境だった。
◇◇◇
「カイン殿、今は幸せか?」
ユリシーズの言葉にカインはしっかりと頷いた。
それでユリアーナ達は少しは救われた気になった、彼が巻き込まれたのはゲートラン公爵家の思惑だったけれど、そこにはダイナスまで関わってしまったから、少なからずユリアーナは責任も感じた。
「私は、ゲートラン公爵家の方達を恨んだりしていない事だけは、ご承知おき下さい。私の様に男爵家の三男は殆ど行き場はありません。護衛騎士のような格好はしていましたが、そこそこにしか剣の才もなく文官ほどの知恵もない、そんな私を側に置いてくださり役目を与えて、そして行く末を案じ今の仕事も紹介してもらったのです。感謝こそすれ恨んでも憎んでもいません。恨むのはファライナのみです。彼女がややこしくしただけですから」
「君が納得してるならそれでいい、これからも商会との付き合いがあるからなよろしく頼む。これは結婚祝いだ」
ユリシーズはそう言ってカインに祝いを渡し、彼は恐縮しながらも受け取り宿に帰って行った。
彼が帰ったあと、その場に夕食を運んでもらい親子3人でこれまでの話を纏める事にした。
「ダイナス様の目的はエンバーにいい格好をしたかっただけなのね」
エリーヌの言葉にユリシーズは頷いた。
ユリアーナは早くに両親に相談すればよかったと、今ほど後悔したことはなかった。
カインの情報
ユリシーズの情報
エリーヌの情報
ユリアーナの情報(これはあまり役に立たなかった)
この部屋に移ってこれだけの情報を出し合ったら、しっかりと背景が分かり、ユリアーナの疑問も簡単に解決した。
ゲートラン公爵家とショーズ侯爵家の婚約やその事については、あちらが元々勝手に色々とお互い画策していたのだが、そこにダイナスが入り込んでユリアーナを巻き込んだ事で、余計にややこしくなったというのが結論だった。
ダイナスの件は、ユリアーナがオスカーと婚約を解消したところから始まったのだ。
それがなければ彼はどうしていたんだろう?
聖国などに行かず大人しく第二王子の責を全うしたのだろうか?そんな詮無いことをユリアーナは考えていた。
「ユリアーナ、貴方気にしなくていいわ。ダイナス様に利用され巻き込まれたのは貴方よ」
母の言葉にユリアーナは少しだけ救われた。
719
あなたにおすすめの小説
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】あなた方は信用できません
玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。
第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる