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第三章 葛藤
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シモンの言葉は俄に信じられなかった。
「えっ?」
「婚約を解消したんだよ」
ユリアーナは思わず聞き返してしまって同じ事を2度聞くことになった。
どうしよう
どうすればいい?
嬉しくて嬉しくて叫びたい!
ユリアーナの本当の心はシモンの言葉に喜びで震えている。
だけど、では?
今までのシモンとカイン、ファライナの関係がユリアーナの脳裏をグルグルと回る。
(シモン様はファライナ様を好きではなかった?では私のした事は⋯どうしましょう)
ユリアーナは3日前にファライナから手紙を受取、即座に返事を送った。
その時はシモンがファライナを好きだと思っていたから、二人で話し合ってほしい、シモンにきちんと向き合ってほしい。そんな事を書いて送った、送ってしまった。
その舌の根の乾かぬうちに自分の気持ちを言う?
それは⋯それは⋯。
ユリアーナにはその場で答えが出せなかった。
ただ付いて出た言葉は疑問だった。
何故、今解消なのだろう?
こんな事を言ってはなんだけれど、ファライナとカインの行いは傍目から見たら充分に解消、ないし破棄、無効はもっと前に出来てもおかしくはない。
どんな事情で今なのか⋯。
「どうしてですか?」
「どうして?」
「何故⋯⋯⋯⋯今?」
「あぁ、それは君と向き合いたいから」
「えっ?私ですか?」
「そうだよ、君とちゃんと向き合いたいと思った。それには私が婚約している事は良くないから。あぁだからといって君がこの婚約を壊したわけじゃないし、君が私を受け入れてもらえなくても責任なんか感じる必要はないんだ。ただ私の中のケジメとして解消したにすぎない」
シモンの言葉でユリアーナは自分の勘違いに気付いた。シモンがファライナを想っているという事がユリアーナの勘違いだったのだ。
ユリアーナが俯いて何も言わなくなったのを見て、シモンは一人語りを始めた。ユリアーナに説明するようにゆっくりと話し出した。
「私は始めからこの婚約はどうして結ばれたのだろうと、何の為に結ばれたのだろうと疑問だった」
「君も知ってる通り我が家は薬草や薬、そういった物を昔から生業にしている。そうして才能ある人に支援して薬師や研究者も多数輩出してきた。そんなゲートランが今更別の事業に手を出したりする必要は全く無い、だったら支援かといえばショーズ侯爵家は金銭に困っている訳でもない。ファライナと私は、お互い好き通しでもない。何らかの理由はあるのかもしれないけれどそれを誰も私には教えてくれなかった」
「私は昔から、物心ついたときから薬師になりたかった。可愛がってくれた人が薬師の見習だったこともあって、彼女が勉強している所もよく見ていたんだ。それで興味を持ってね、だから爵位に拘りもなかったから。平民になるとかならないとか考えてもいなかったんだ。平民になるならそれでもいいか位にね」
いつの間にか俯いていたユリアーナは少しずつ顔を上げていき、シモンの話に耳を傾けていた。そんなユリアーナにシモンはそう言って微笑んだ。
「平民ですか?従属はお持ちではなかったのでしょうか?」
他家の爵位の話など本来なら失礼千万ではあったが、ユリアーナは聞いておきたいと思った。
「あぁゲートランには3代前には全ての従属爵位を兄弟に与えて、そこはそのまま一族で継承されてるんだ。もう取り上げたりなんて出来ないからね」
「そうだったのですね」
公爵となれば一代公爵ではない限り、どこの家もそれなりに従属爵位を持っているのが普通である。斯く言うロッサルト公爵家にも“セルト子爵”という従属爵位が存在する。
従属爵位は大体嫡男が家督を継ぐまで名乗ることが多い。その後は嫡男以外の男子に与えたりもするが、あまりそういう事は多くはない。従属爵位を持ったまま家督を継ぐのが一般的だ。だがおそらくゲートラン公爵家では嫡男以外に与えて、そこがそのまま一族として成り立っていったのだと考えられた。
今後、従属爵位を王家から与えられるとなれば、何かの功績が認められた場合か、王女が臣籍降嫁した時の手土産位しかないものと思われる。
(シモン様は受け継ぐ爵位がなかったのね)
その時にユリアーナの中で浮かんだのは“婿養子”という言葉だった。ユリアーナとファライナは嫡女だから婿養子を貰う、大体それは貴族の次男以降になる事が多い。
お相手のメリットはやはり貴族籍を無くさないということだ。
ゲートラン公爵家ではきっとそれがファライナとシモンとの婚約だったのだなと思った。
「わかったかい?そうか、君は嫡女だから直ぐに浮かぶよね。でもね、私は元々そこに拘りがなかったから到底そんな事は思い浮かばなくて。それにファライナが最初からあんな感じだったから、カインと婚約を結び直すんだろうとずっとそう思っていたんだ。両親にも兄にもそう言っていたんだけどね。どうやら私の為に結んだ婚約だったらしくて、解消なんて考えてもらえなかった様だ。でもそれでも婚姻までは行かないだろうと勝手に思っていたんだよ。だって私はファライナとの未来なんて想像すらしていなかった、歩み寄ろうなんて全然浮かばなかった、婚約者失格だよね。ただ兄やカインは違う目的があったらしくてね、ふぅ」
一気に話したからだろうか、シモンは大きく嘆息してソファの背凭れに体を預けて天井を見上げた。
その姿をユリアーナは見ながら今聞いた話をもう一度頭の中で整理した。
そういえばオスカーと婚約していた時も当のオスカーよりも伯爵夫妻の方がユリアーナに手紙を送ってくれたりしていたなと思い至った。
ユリアーナはお茶会にも参加しないから、手紙くらいしか交流なかったけれど、気にかけてくれていたなと思い出す。
伯爵夫妻もオスカーの行く末を心配していたのだろうと思えた。
「えっ?」
「婚約を解消したんだよ」
ユリアーナは思わず聞き返してしまって同じ事を2度聞くことになった。
どうしよう
どうすればいい?
嬉しくて嬉しくて叫びたい!
ユリアーナの本当の心はシモンの言葉に喜びで震えている。
だけど、では?
今までのシモンとカイン、ファライナの関係がユリアーナの脳裏をグルグルと回る。
(シモン様はファライナ様を好きではなかった?では私のした事は⋯どうしましょう)
ユリアーナは3日前にファライナから手紙を受取、即座に返事を送った。
その時はシモンがファライナを好きだと思っていたから、二人で話し合ってほしい、シモンにきちんと向き合ってほしい。そんな事を書いて送った、送ってしまった。
その舌の根の乾かぬうちに自分の気持ちを言う?
それは⋯それは⋯。
ユリアーナにはその場で答えが出せなかった。
ただ付いて出た言葉は疑問だった。
何故、今解消なのだろう?
こんな事を言ってはなんだけれど、ファライナとカインの行いは傍目から見たら充分に解消、ないし破棄、無効はもっと前に出来てもおかしくはない。
どんな事情で今なのか⋯。
「どうしてですか?」
「どうして?」
「何故⋯⋯⋯⋯今?」
「あぁ、それは君と向き合いたいから」
「えっ?私ですか?」
「そうだよ、君とちゃんと向き合いたいと思った。それには私が婚約している事は良くないから。あぁだからといって君がこの婚約を壊したわけじゃないし、君が私を受け入れてもらえなくても責任なんか感じる必要はないんだ。ただ私の中のケジメとして解消したにすぎない」
シモンの言葉でユリアーナは自分の勘違いに気付いた。シモンがファライナを想っているという事がユリアーナの勘違いだったのだ。
ユリアーナが俯いて何も言わなくなったのを見て、シモンは一人語りを始めた。ユリアーナに説明するようにゆっくりと話し出した。
「私は始めからこの婚約はどうして結ばれたのだろうと、何の為に結ばれたのだろうと疑問だった」
「君も知ってる通り我が家は薬草や薬、そういった物を昔から生業にしている。そうして才能ある人に支援して薬師や研究者も多数輩出してきた。そんなゲートランが今更別の事業に手を出したりする必要は全く無い、だったら支援かといえばショーズ侯爵家は金銭に困っている訳でもない。ファライナと私は、お互い好き通しでもない。何らかの理由はあるのかもしれないけれどそれを誰も私には教えてくれなかった」
「私は昔から、物心ついたときから薬師になりたかった。可愛がってくれた人が薬師の見習だったこともあって、彼女が勉強している所もよく見ていたんだ。それで興味を持ってね、だから爵位に拘りもなかったから。平民になるとかならないとか考えてもいなかったんだ。平民になるならそれでもいいか位にね」
いつの間にか俯いていたユリアーナは少しずつ顔を上げていき、シモンの話に耳を傾けていた。そんなユリアーナにシモンはそう言って微笑んだ。
「平民ですか?従属はお持ちではなかったのでしょうか?」
他家の爵位の話など本来なら失礼千万ではあったが、ユリアーナは聞いておきたいと思った。
「あぁゲートランには3代前には全ての従属爵位を兄弟に与えて、そこはそのまま一族で継承されてるんだ。もう取り上げたりなんて出来ないからね」
「そうだったのですね」
公爵となれば一代公爵ではない限り、どこの家もそれなりに従属爵位を持っているのが普通である。斯く言うロッサルト公爵家にも“セルト子爵”という従属爵位が存在する。
従属爵位は大体嫡男が家督を継ぐまで名乗ることが多い。その後は嫡男以外の男子に与えたりもするが、あまりそういう事は多くはない。従属爵位を持ったまま家督を継ぐのが一般的だ。だがおそらくゲートラン公爵家では嫡男以外に与えて、そこがそのまま一族として成り立っていったのだと考えられた。
今後、従属爵位を王家から与えられるとなれば、何かの功績が認められた場合か、王女が臣籍降嫁した時の手土産位しかないものと思われる。
(シモン様は受け継ぐ爵位がなかったのね)
その時にユリアーナの中で浮かんだのは“婿養子”という言葉だった。ユリアーナとファライナは嫡女だから婿養子を貰う、大体それは貴族の次男以降になる事が多い。
お相手のメリットはやはり貴族籍を無くさないということだ。
ゲートラン公爵家ではきっとそれがファライナとシモンとの婚約だったのだなと思った。
「わかったかい?そうか、君は嫡女だから直ぐに浮かぶよね。でもね、私は元々そこに拘りがなかったから到底そんな事は思い浮かばなくて。それにファライナが最初からあんな感じだったから、カインと婚約を結び直すんだろうとずっとそう思っていたんだ。両親にも兄にもそう言っていたんだけどね。どうやら私の為に結んだ婚約だったらしくて、解消なんて考えてもらえなかった様だ。でもそれでも婚姻までは行かないだろうと勝手に思っていたんだよ。だって私はファライナとの未来なんて想像すらしていなかった、歩み寄ろうなんて全然浮かばなかった、婚約者失格だよね。ただ兄やカインは違う目的があったらしくてね、ふぅ」
一気に話したからだろうか、シモンは大きく嘆息してソファの背凭れに体を預けて天井を見上げた。
その姿をユリアーナは見ながら今聞いた話をもう一度頭の中で整理した。
そういえばオスカーと婚約していた時も当のオスカーよりも伯爵夫妻の方がユリアーナに手紙を送ってくれたりしていたなと思い至った。
ユリアーナはお茶会にも参加しないから、手紙くらいしか交流なかったけれど、気にかけてくれていたなと思い出す。
伯爵夫妻もオスカーの行く末を心配していたのだろうと思えた。
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