【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

文字の大きさ
63 / 80
第三章 葛藤

63

しおりを挟む
 シモンの言葉は俄に信じられなかった。

「えっ?」

「婚約を解消したんだよ」

 ユリアーナは思わず聞き返してしまって同じ事を2度聞くことになった。

 どうしよう
 どうすればいい?
 嬉しくて嬉しくて叫びたい!

 ユリアーナの本当の心はシモンの言葉に喜びで震えている。
 だけど、では?

 今までのシモンとカイン、ファライナの関係がユリアーナの脳裏をグルグルと回る。

 (シモン様はファライナ様を好きではなかった?では私のした事は⋯どうしましょう)

 ユリアーナは3日前にファライナから手紙を受取、即座に返事を送った。
 その時はシモンがファライナを好きだと思っていたから、二人で話し合ってほしい、シモンにきちんと向き合ってほしい。そんな事を書いて送った、送ってしまった。
 その舌の根の乾かぬうちに自分の気持ちを言う?
 それは⋯それは⋯。
 ユリアーナにはその場で答えが出せなかった。
 ただ付いて出た言葉は疑問だった。
 何故、今解消なのだろう?
 こんな事を言ってはなんだけれど、ファライナとカインの行いは傍目から見たら充分に解消、ないし破棄、無効はもっと前に出来てもおかしくはない。

 どんな事情で今なのか⋯。

「どうしてですか?」

「どうして?」

「何故⋯⋯⋯⋯今?」

「あぁ、それは君と向き合いたいから」

「えっ?私ですか?」

「そうだよ、君とちゃんと向き合いたいと思った。それには私が婚約している事は良くないから。あぁだからといって君がこの婚約を壊したわけじゃないし、君が私を受け入れてもらえなくても責任なんか感じる必要はないんだ。ただ私の中のケジメとして解消したにすぎない」

 シモンの言葉でユリアーナは自分の勘違いに気付いた。シモンがファライナを想っているという事がユリアーナの勘違いだったのだ。

 ユリアーナが俯いて何も言わなくなったのを見て、シモンは一人語りを始めた。ユリアーナに説明するようにゆっくりと話し出した。

「私は始めからこの婚約はどうして結ばれたのだろうと、何の為に結ばれたのだろうと疑問だった」

「君も知ってる通り我が家は薬草や薬、そういった物を昔から生業にしている。そうして才能ある人に支援して薬師や研究者も多数輩出してきた。そんなゲートランが今更別の事業に手を出したりする必要は全く無い、だったら支援かといえばショーズ侯爵家は金銭に困っている訳でもない。ファライナと私は、お互い好き通しでもない。何らかの理由はあるのかもしれないけれどそれを誰も私には教えてくれなかった」

「私は昔から、物心ついたときから薬師になりたかった。可愛がってくれた人が薬師の見習だったこともあって、彼女が勉強している所もよく見ていたんだ。それで興味を持ってね、だから爵位に拘りもなかったから。平民になるとかならないとか考えてもいなかったんだ。平民になるならそれでもいいか位にね」

 いつの間にか俯いていたユリアーナは少しずつ顔を上げていき、シモンの話に耳を傾けていた。そんなユリアーナにシモンはそう言って微笑んだ。

「平民ですか?従属はお持ちではなかったのでしょうか?」

 他家の爵位の話など本来なら失礼千万ではあったが、ユリアーナは聞いておきたいと思った。

「あぁゲートランには3代前には全ての従属爵位を兄弟に与えて、そこはそのまま一族で継承されてるんだ。もう取り上げたりなんて出来ないからね」

「そうだったのですね」

 公爵となれば一代公爵ではない限り、どこの家もそれなりに従属爵位を持っているのが普通である。斯く言うロッサルト公爵家にも“セルト子爵”という従属爵位が存在する。

 従属爵位は大体嫡男が家督を継ぐまで名乗ることが多い。その後は嫡男以外の男子に与えたりもするが、あまりそういう事は多くはない。従属爵位を持ったまま家督を継ぐのが一般的だ。だがおそらくゲートラン公爵家では嫡男以外に与えて、そこがそのまま一族として成り立っていったのだと考えられた。
 今後、従属爵位を王家から与えられるとなれば、何かの功績が認められた場合か、王女が臣籍降嫁した時の手土産位しかないものと思われる。

 (シモン様は受け継ぐ爵位がなかったのね)

 その時にユリアーナの中で浮かんだのは“婿養子”という言葉だった。ユリアーナとファライナは嫡女だから婿養子を貰う、大体それは貴族の次男以降になる事が多い。
 お相手のメリットはやはり貴族籍を無くさないということだ。

 ゲートラン公爵家ではきっとそれがファライナとシモンとの婚約だったのだなと思った。

「わかったかい?そうか、君は嫡女だから直ぐに浮かぶよね。でもね、私は元々そこに拘りがなかったから到底そんな事は思い浮かばなくて。それにファライナが最初からあんな感じだったから、カインと婚約を結び直すんだろうとずっとそう思っていたんだ。両親にも兄にもそう言っていたんだけどね。どうやら私の為に結んだ婚約だったらしくて、解消なんて考えてもらえなかった様だ。でもそれでも婚姻までは行かないだろうと勝手に思っていたんだよ。だって私はファライナとの未来なんて想像すらしていなかった、歩み寄ろうなんて全然浮かばなかった、婚約者失格だよね。ただ兄やカインは違う目的があったらしくてね、ふぅ」

 一気に話したからだろうか、シモンは大きく嘆息してソファの背凭れに体を預けて天井を見上げた。

 その姿をユリアーナは見ながら今聞いた話をもう一度頭の中で整理した。

 そういえばオスカーと婚約していた時も当のオスカーよりも伯爵夫妻の方がユリアーナに手紙を送ってくれたりしていたなと思い至った。
 ユリアーナはお茶会にも参加しないから、手紙くらいしか交流なかったけれど、気にかけてくれていたなと思い出す。

 伯爵夫妻もオスカーの行く末を心配していたのだろうと思えた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...