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第三章 葛藤
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ユリアーナはホームでマリアンナに別れを告げた。彼女は見送りには来れなかった義母から手紙を預かっていて、ユリアーナの低迷していた気持ちも少しは浮上するように思えた。
「お義姉様、またアトルスに来てくださいね!私に会いに」
マリアンナがユリアーナに両手を差し出しながら言った。ユリアーナはそれに応えてマリアンナにハグをする。ロッサルト公爵家の子ども達は度々この仕草をして義母にハグを強請っていた。勿論ユリアーナもだ。
懐かしいその仕草にユリアーナは慰められながらアトルスから出立した。
やはりシモンは来なかった。
分かっていても、何となく見送りに来てくれるのではないかと、少し期待していたユリアーナは自分の自惚れに自嘲した。
◇◇◇
屋敷に着き体を休めようとゆっくりとしていたら、執事のアルホーンがやって来た。
執務室に書類が溜まっているという。
思わずユリアーナはアルホーンを睨めつけた。
アトルスまでは特急寝台車で2日かかる、往復で4日だ。慌ただしい滞在だったから体も疲れているのに、直ぐに仕事をしろだなんて!
それでも今回の旅は完全にユリアーナの私用なので文句も言えない、目で恨み言を訴えながら渋々重い腰を上げた。
執務室の暖炉は消えていた。
「おかしいわ」
扉を開き部屋の冷たさに思わずユリアーナは呟いた。後ろから付いてきたマールも眉が上がる。
「お嬢様、火を起こします。お部屋は冷たいですのでサロンか自室でお待ち頂けますか?」
そう言ってマールがユリアーナの前に出ようとするも、そのままユリアーナは部屋へと入った。
「いいわ、移動が面倒なのもあるけど少し頭を冷やす必要もあるかもしれない」
今日は両親が揃いも揃って王室に呼ばれていると聞いていた。まだ帰ってくるまでには時間もある。晩餐までに少し頭を整理しようとユリアーナはソファへと進んだ。そこで“シモンの花壇”を思い出す。
ソファには座らず窓の方へと方向を変えた。
窓から外を見つめる。
屋敷に到着した時も今も雪は降っていない。
アルホーンの話では、昨日まで降っていたが、もう雪は降らずにこのまま春に向かうかもしれませんね、そんな事を言っていた。
囲いをしてもらったシモンの花壇を窓越しに見て、ユリアーナは「はっ」と息を呑んだ。
「マール、火は起こさなくていいわ」
「えっ?あっ!お嬢様何方へ!?」
「⋯⋯⋯庭に」
そう言ってマールを置き去りにそのまま部屋の外へとユリアーナは出ていった、マールは慌ててその後を追いかける。
使用人の出入り口から裏庭に出る。
そこからぐるりと回ってシモンの花壇へとユリアーナは向かった。
胸がドキドキといつになく逸る、足元が慌てていて覚束ない。
片方は胸元に片方は拳を握りしめ、一歩一歩と小道を踏む。丁寧で勤勉な庭師のおかげで、ロッサルト公爵家の庭園の小道に雪が積もる事は有り得ない。
いつもユリアーナは彼に感謝している。でも今日はまた違う感謝を示したい。
「はぁ~ふぅー」
シモンの花壇の前にやって来たユリアーナは大きく息を吸って吐いた。
アトルスに出発する時は、まだ少し色素の薄い緑の葉と茎しかなかった。
今それに先の方が赤い蕾がいくつも出来ている。
ユリアーナはそっと蕾の一つに触れてみる、それはまだ固かった、開くまではどれくらいなのだろう?
「赤い花なのね」
蕾に話しかけるようにユリアーナは呟いた。
途中で追い付いたマールも目を伏せていたが、ユリアーナの声で蕾に目が向かった。
「一気に出てきましたね」
そっとユリアーナに声をかけた。
ユリアーナは振り向いてマールに頷く、その目には涙が溢れていた。
マールはお仕着せの胸元からハンカチを取り出す、お嬢様に使うハンカチはポケットなどには仕舞わない。
ハンカチを受け取ったユリアーナはそれを握りしめ直ぐには涙を拭かなかった。
その涙の溢れた瞳で見る蕾はぼやけて先の赤一点しか映らなかった。
それでも眺めていたい、一分でも一秒でも長く。頬を伝う涙のスジが冷たい空気に触れ乾くけれど、あとからあとから流れるからユリアーナの頬は乾かない。
どれくらいの時間そうしていたのか
漸くユリアーナがマールから受け取ったハンカチを使った時には、空が少しオレンジに染まり始めていた。
(シモン様、もしもこの先貴方との未来が違えてしまっても私はこの花に慰められそうです)
ユリアーナはその蕾に“みちしるべ”と名を付けた。
✎ ------------------------
いつも読んでくださる海よりも広い心の優しい読者の皆様ありがとうございます🙇♀
『メリークリスマス🎄』
届きますように( ˶˘ ³˘˶)ちゅ♡
「お義姉様、またアトルスに来てくださいね!私に会いに」
マリアンナがユリアーナに両手を差し出しながら言った。ユリアーナはそれに応えてマリアンナにハグをする。ロッサルト公爵家の子ども達は度々この仕草をして義母にハグを強請っていた。勿論ユリアーナもだ。
懐かしいその仕草にユリアーナは慰められながらアトルスから出立した。
やはりシモンは来なかった。
分かっていても、何となく見送りに来てくれるのではないかと、少し期待していたユリアーナは自分の自惚れに自嘲した。
◇◇◇
屋敷に着き体を休めようとゆっくりとしていたら、執事のアルホーンがやって来た。
執務室に書類が溜まっているという。
思わずユリアーナはアルホーンを睨めつけた。
アトルスまでは特急寝台車で2日かかる、往復で4日だ。慌ただしい滞在だったから体も疲れているのに、直ぐに仕事をしろだなんて!
それでも今回の旅は完全にユリアーナの私用なので文句も言えない、目で恨み言を訴えながら渋々重い腰を上げた。
執務室の暖炉は消えていた。
「おかしいわ」
扉を開き部屋の冷たさに思わずユリアーナは呟いた。後ろから付いてきたマールも眉が上がる。
「お嬢様、火を起こします。お部屋は冷たいですのでサロンか自室でお待ち頂けますか?」
そう言ってマールがユリアーナの前に出ようとするも、そのままユリアーナは部屋へと入った。
「いいわ、移動が面倒なのもあるけど少し頭を冷やす必要もあるかもしれない」
今日は両親が揃いも揃って王室に呼ばれていると聞いていた。まだ帰ってくるまでには時間もある。晩餐までに少し頭を整理しようとユリアーナはソファへと進んだ。そこで“シモンの花壇”を思い出す。
ソファには座らず窓の方へと方向を変えた。
窓から外を見つめる。
屋敷に到着した時も今も雪は降っていない。
アルホーンの話では、昨日まで降っていたが、もう雪は降らずにこのまま春に向かうかもしれませんね、そんな事を言っていた。
囲いをしてもらったシモンの花壇を窓越しに見て、ユリアーナは「はっ」と息を呑んだ。
「マール、火は起こさなくていいわ」
「えっ?あっ!お嬢様何方へ!?」
「⋯⋯⋯庭に」
そう言ってマールを置き去りにそのまま部屋の外へとユリアーナは出ていった、マールは慌ててその後を追いかける。
使用人の出入り口から裏庭に出る。
そこからぐるりと回ってシモンの花壇へとユリアーナは向かった。
胸がドキドキといつになく逸る、足元が慌てていて覚束ない。
片方は胸元に片方は拳を握りしめ、一歩一歩と小道を踏む。丁寧で勤勉な庭師のおかげで、ロッサルト公爵家の庭園の小道に雪が積もる事は有り得ない。
いつもユリアーナは彼に感謝している。でも今日はまた違う感謝を示したい。
「はぁ~ふぅー」
シモンの花壇の前にやって来たユリアーナは大きく息を吸って吐いた。
アトルスに出発する時は、まだ少し色素の薄い緑の葉と茎しかなかった。
今それに先の方が赤い蕾がいくつも出来ている。
ユリアーナはそっと蕾の一つに触れてみる、それはまだ固かった、開くまではどれくらいなのだろう?
「赤い花なのね」
蕾に話しかけるようにユリアーナは呟いた。
途中で追い付いたマールも目を伏せていたが、ユリアーナの声で蕾に目が向かった。
「一気に出てきましたね」
そっとユリアーナに声をかけた。
ユリアーナは振り向いてマールに頷く、その目には涙が溢れていた。
マールはお仕着せの胸元からハンカチを取り出す、お嬢様に使うハンカチはポケットなどには仕舞わない。
ハンカチを受け取ったユリアーナはそれを握りしめ直ぐには涙を拭かなかった。
その涙の溢れた瞳で見る蕾はぼやけて先の赤一点しか映らなかった。
それでも眺めていたい、一分でも一秒でも長く。頬を伝う涙のスジが冷たい空気に触れ乾くけれど、あとからあとから流れるからユリアーナの頬は乾かない。
どれくらいの時間そうしていたのか
漸くユリアーナがマールから受け取ったハンカチを使った時には、空が少しオレンジに染まり始めていた。
(シモン様、もしもこの先貴方との未来が違えてしまっても私はこの花に慰められそうです)
ユリアーナはその蕾に“みちしるべ”と名を付けた。
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いつも読んでくださる海よりも広い心の優しい読者の皆様ありがとうございます🙇♀
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届きますように( ˶˘ ³˘˶)ちゅ♡
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