【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

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第三章 葛藤

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 ユリアーナはベンチから二人の様子をぼんやり見つめていた。シモンが何かを言ってファライナがくずおれる。
 その様子で、シモンから告げられた言葉でファライナが彼の言葉に反応して傷付いたのだと分かった。
 少し冷たい風が流れているけれど、はっきりと言葉を運んでくれたのはファライナの婚約解消という言葉だけだった。
 後は声が小さいからなのかユリアーナには分からなかった。

 しばらくするとシモンが頽れたファライナの肩を、目線も合わさず立ったまま優しく叩くのが見えた。
 そうしてぼんやりと顔を上げたファライナはきっと自然と目の端に捉えたのだろう、ユリアーナの居るベンチへと目を向けて目を見開いた。

「イヤーーーーー」

 その叫びは風に乗せられなくともユリアーナにしっかりと届く、叫んだファライナ彼女はそのまま倒れてしまった。
 彼女は忘れたのだろうか?
 ユリアーナをこの場に連れてきて彼女にベンチそこで待つように言ったのはファライナ自身だったのに。

 シモンはファライナが叫ぶ前にユリアーナに気付いた、ファライナの視線の先を目で追ったからだ。彼もそこに居るはずのないユリアーナを見て驚いていた、だが途端にファライナの叫び声が耳をつんざき彼女が倒れるのを慌てて支えた。
 そのまま大きく嘆息してファライナを抱き上げる、シモンはゆっくりとユリアーナの居るベンチへと近づいて来た。

「どうして?」

「ファライナ様に一緒に来るように言われました」

「はぁ、そうか。彼女はやはり自分の都合のいいように記憶を改竄する癖があるようだね」

「それを確かめたかったのですか?」

「いや、ここで会うのは急にファライナから呼び出されたからだよ、呼び出された時点で彼女が記憶を改竄しているのだと既に分かっていた。今後は兄が追究する予定だから連れ帰らないと」

「そうですか」

「ユリアーナ嬢、申し訳ないが送ることは出来ないが馬車の手配をしよう」

 そう言ってシモンが斜め後ろを振り返ると鐘が置かれたガゼボの近くから3人の騎士が飛び出てこちらへと走ってきた。
 彼らにいくつかの指示を出し、一人の騎士にファライナを預けた。

「ユリアーナ嬢、馬車までエスコートさせて欲しい」

 シモンの言葉にユリアーナは驚きながらもうなずいて彼の腕にそっと手を添えた。
 時計台の丘は少し高台にあるから二人で歩く距離は短くはない、その短くない道程を二人は交わす言葉がお互い見つけられず終始無言のまま馬車まで歩いた。

「アトルスの滞在期間はいつまで?」

「明日には立ちます」

「そうか⋯気を付けて」

 馬車に乗り込む寸前に交わした言葉には何の約束も含まれることはなかった。
 馬車に乗ったユリアーナは見送るシモンを窓越しに見つめて、言えぬ言葉の代わりに唇を噛んだ。

 馬車はゆっくりと公爵邸に向かって出発した。


 ◇◇◇


 ゲートラン公爵家の応接室では来月公爵を継承予定のセルシオとショーズ侯爵が向かい合っていた。
 2時間前に公爵家の騎士が倒れたファライナを運び込んできて、それと同時にゲートラン小公爵に呼び出されたのだった。

「この度は娘がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 まだ継承前のセルシオは侯爵よりも身分は下だった、その格下相手に頭を下げ謝罪する行為は本来なら侯爵にとっては屈辱である筈だが、そんな事を構っていられるほど今の状況は安易に捉えられない。
 彼は未来の公爵で、そしてその家に対してショーズ侯爵家は不快と思われる行為をしていたのだから。

 シモンとの婚約の継続を願った、その事が2つめのショーズ侯爵の間違いだった。
 カインがファライナの前から姿を消した時に、公爵家から申し出が合ったその時が最後のチャンスだったのだ。

 そうすれば相手に真摯に謝罪をする機会も与えられたのかもしれない。

 だがもう遅い。
 そしてファライナは自分に都合のいいように脳内で変換していく事を漸くショーズ侯爵は目の当たりにして絶望する。
 今までは聞かされても他人事の様に捉えていた、侯爵にそこまで不都合がなかったからだ。
 それに娘は妻と同じでは出来た。それも自身の目を曇らせてしまった要因でもあった。

「漸く理解してもらえたかな?彼女は上手に自分の都合のいいように記憶を改竄する。実害がなければそれも個性として捉えられないこともない。だが実際に被害にあっているものがいる」

「はい」

「それは私達が彼女を理解していたからではない、我々も気付いていなかっただけだ。カインが彼女達を見つけていなければ今も分かっていなかったな。それは侯爵にとっては災難だったか?」

「⋯⋯⋯いえ」

「そうだろうな、そこは理解してもらえて良かった。そうでなければ時間が経って私の目の届かないカインに完全になっていたら彼に殺されていただろう。今も正直ギリギリなんだよ。止めるのも苦労する、カインにはまだ婚約解消は告げていない。告げればゲートランうちに迷惑がかからないと思って犯行に及びそうだ。それはこちらとしても本意ではない。カインを犯罪者にしてたまるか!」

 セルシオは侯爵に投げつける様に言葉を吐いた。侯爵は黙って俯いたままその言葉達を受け止めていた。

「で、ファライナ嬢の処遇は今後どうするつもりなんだ?既に少なくとも二人に使

「⋯⋯⋯⋯はい」

「片方は目が見えない、片方は耳が聞こえなくなった。周辺は調べたのかい?命までは奪っていないようだったが」

「⋯⋯⋯」

 侯爵は迷っていた、娘の所業を詳しく調べて行くうちにあと3人確認できた。これをセルシオに伝えれば娘の罪は大きくなる。二人だけなら修道院に入るくらいで手を打てるかもしれない。
 だがそれ以上となると王家にも報告が行く、いくら相手が平民でもショーズ侯爵家の存続まで危ぶまれる。

「侯爵、貴方は相手が平民だから何をしても許されると思っているのか?だが少なくとも一人は貴族だっただろう?君が娘の犯行を知らずに没落させたんだからね。犯行時まだルーシーは男爵家の籍に入っていたんだよ。彼女は平民ではなかった、その事も都合よく貴方まで忘れてしまったのかな?ルーシーはファライナのせいで耳が聞こえなくなったんだよ」

 貴族から貴族への犯罪。
 いくらルーシーが男爵家の令嬢格下であってもゲートラン公爵家が一時は庇護しようとしていた相手だ。

 ショーズ侯爵は隠す事は出来ないと悟り残り3人の事も含め全てをセルシオに話した。



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