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帰国編
【63】
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「ねぇやっぱり避暑って無理があるわよね。最早寒いんだけど」
マリー、カリーナそして新婚旅行から戻ったミリナとセレナ。
ユメール侍女オールスターズ勢揃いで溜息を付く。
王領の中でも北に位置するナリシティはモンマルトルと隣国の国境でもある。
夏になれば王家の避暑地とも知られ中々に賑わいを見せる場所だ。
だが今は春、やっと眠っていた草木が芽吹く頃。
遠くに見える山の頂上付近には、見えない振りをしたくなるなごり雪も見える。
此処に着いてからのこの愚痴は毎朝の恒例に成りつつあった。
「ユメール様、今日は如何されますか?」
セレナが予定のないユメールに予定を聞く。
驚く事に行けと言われて此処ナリシティに来たがユメールへの予定は丸でなかった。
外遊の予定すら組まれておらず、毎日の予定はユメールの気持ち次第である。
フムと小首を傾げ腕を組み思考を飛ばすユメールは頭の中では(本日の予定、予定、何しようかしら?)と只管考えていた。
此方に来て領内の視察は4日かけて終わらせたし、ピクニックにも行ったが寒くて途中で引き返した。
読書も持参した本は概ね読んでしまった。
「んー⋯⋯そうだ!料理をしてみたいわ」
「料理ですか?」
「えぇ!クッキーを焼いてみたかったの。できるかしら?もし上手に出来たら騎士達に差し入れとかしてみたいわ」
「それは良いですね、皆喜ぶと思います」
マリーの賛同を得て、其れから侍女ーずはバタバタと忙しなく動き始めた。
「ユメール様、私達は交代で鍛錬に参ります」
護衛騎士達も交代で扉の中と前に居てくれるのだが、このナリシティ領の代官は元王宮騎士団の副団長を担っていたハルマンであるから、皆少しでも指南頂こうと我先にと訓練場に行っているそうだ。
初夏の頃なら丁度良い気候でもっと楽しめただろうに、寒さ故に楽しみも半減しているユメールは(私も体を鍛えようかしら?)と絶対マリーに反対される事を考えていた。
厨房に初めて足を踏み入れたユメールは未知との戦いであった。
先ず小麦粉を振るう段階で躓いた。
あまりにも大雑把に振ってしまって辺り一面を粉が飛び舞う。
そしてお決まりの
「ハクション!」
そしてまた舞い始める。
「ユメール様やはり大雑把でしたわね」
「カリーナやはりって何?でもそういう貴方も結構飛んでるわよ!」
小麦粉を振るうだけで皆で和気藹々と楽しめる。
王都の喧騒や帝国だのモンマルトルだの王女だの皇子だの、全部の悩みを忘れる程にユメールは楽しい一時を過ごすのであった。
小麦粉に無駄な時間を費やしたが、ナリシティの料理長も優秀だったので、彼監修の元しっかりとお昼にクッキーとサンドイッチは出来上がった。
結局ユメールが手を出したのは小麦粉を振るう事と、丸めたクッキーを等分にスプーンで分けて皿に盛っただけだったが、王女がここまでするのは初めてにしては上出来だろう。
当のユメールも大変満足して、自分が焼いた気になっていた。
訓練場の食堂に出来上がったものを置くと、ズラリと騎士達が列を成す。
そこまでするつもりはなかったが、こんな所にまで着いてきてくれた皆を労うのも王女の勤めと、一人一人に配ってゆく。
皆が「ありがとうございます」って言ってくれる言葉がユメールの胸に染みる。
(今度はもっと沢山作ってこよう!)
殆ど人任せだったにも関わらずユメールは決心したように手を握りしめる。
斜め後ろに控えていた料理長は嘆息するが、キラキラ笑顔のユメールに「またお願いね」と言われて目尻を下げて何度も頷いたのだった。
マリー、カリーナそして新婚旅行から戻ったミリナとセレナ。
ユメール侍女オールスターズ勢揃いで溜息を付く。
王領の中でも北に位置するナリシティはモンマルトルと隣国の国境でもある。
夏になれば王家の避暑地とも知られ中々に賑わいを見せる場所だ。
だが今は春、やっと眠っていた草木が芽吹く頃。
遠くに見える山の頂上付近には、見えない振りをしたくなるなごり雪も見える。
此処に着いてからのこの愚痴は毎朝の恒例に成りつつあった。
「ユメール様、今日は如何されますか?」
セレナが予定のないユメールに予定を聞く。
驚く事に行けと言われて此処ナリシティに来たがユメールへの予定は丸でなかった。
外遊の予定すら組まれておらず、毎日の予定はユメールの気持ち次第である。
フムと小首を傾げ腕を組み思考を飛ばすユメールは頭の中では(本日の予定、予定、何しようかしら?)と只管考えていた。
此方に来て領内の視察は4日かけて終わらせたし、ピクニックにも行ったが寒くて途中で引き返した。
読書も持参した本は概ね読んでしまった。
「んー⋯⋯そうだ!料理をしてみたいわ」
「料理ですか?」
「えぇ!クッキーを焼いてみたかったの。できるかしら?もし上手に出来たら騎士達に差し入れとかしてみたいわ」
「それは良いですね、皆喜ぶと思います」
マリーの賛同を得て、其れから侍女ーずはバタバタと忙しなく動き始めた。
「ユメール様、私達は交代で鍛錬に参ります」
護衛騎士達も交代で扉の中と前に居てくれるのだが、このナリシティ領の代官は元王宮騎士団の副団長を担っていたハルマンであるから、皆少しでも指南頂こうと我先にと訓練場に行っているそうだ。
初夏の頃なら丁度良い気候でもっと楽しめただろうに、寒さ故に楽しみも半減しているユメールは(私も体を鍛えようかしら?)と絶対マリーに反対される事を考えていた。
厨房に初めて足を踏み入れたユメールは未知との戦いであった。
先ず小麦粉を振るう段階で躓いた。
あまりにも大雑把に振ってしまって辺り一面を粉が飛び舞う。
そしてお決まりの
「ハクション!」
そしてまた舞い始める。
「ユメール様やはり大雑把でしたわね」
「カリーナやはりって何?でもそういう貴方も結構飛んでるわよ!」
小麦粉を振るうだけで皆で和気藹々と楽しめる。
王都の喧騒や帝国だのモンマルトルだの王女だの皇子だの、全部の悩みを忘れる程にユメールは楽しい一時を過ごすのであった。
小麦粉に無駄な時間を費やしたが、ナリシティの料理長も優秀だったので、彼監修の元しっかりとお昼にクッキーとサンドイッチは出来上がった。
結局ユメールが手を出したのは小麦粉を振るう事と、丸めたクッキーを等分にスプーンで分けて皿に盛っただけだったが、王女がここまでするのは初めてにしては上出来だろう。
当のユメールも大変満足して、自分が焼いた気になっていた。
訓練場の食堂に出来上がったものを置くと、ズラリと騎士達が列を成す。
そこまでするつもりはなかったが、こんな所にまで着いてきてくれた皆を労うのも王女の勤めと、一人一人に配ってゆく。
皆が「ありがとうございます」って言ってくれる言葉がユメールの胸に染みる。
(今度はもっと沢山作ってこよう!)
殆ど人任せだったにも関わらずユメールは決心したように手を握りしめる。
斜め後ろに控えていた料理長は嘆息するが、キラキラ笑顔のユメールに「またお願いね」と言われて目尻を下げて何度も頷いたのだった。
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