護衛騎士が勝手に侍ります(泣)

maruko

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帰国編

【68】

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ユメールは今羞恥の渦の中にいる。
悋気ではないと言い張り色々御託を並べたが、アントリックと話し蓋を開ければ結局は己の悋気が原因だった。
(あの時寄り添っていれば⋯⋯)
そう思わずにはいられない、たったそれだけの事が出来ないユメールは自分の心が恐ろしくなった。

(恋する女が愚かなのは止められない自分の心なのだろうか⋯⋯お姉様)

ユメールは姉の愚かな行動を思い出す、そして二人は紛れもない姉妹だったと、似た者姉妹だったと感じた。

ただユメールはマルデリータの行動に圧倒されて為す術もなく逃げ帰ったが、王女としては正解でも其れは辛うじて正解なだけだった。

その前にやるべき事は沢山あったのに、きっとその頃は自分でも気づかぬ悋気の嵐の中で王女ではなくただの貴族令嬢だったのだろう。
それでは、結局なりふり構わぬマルデリータと同じではないか、ただプライドがブレーキになってくれただけだ。

恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい

穴があったら入りたいとはこの事だろう。
穴とは如何やって掘るのだろうか?騎士達は掘ってくれるだろうか?
羞恥のあまりどんどんと思考がとんでもない方向へ向かうユメールを止めたのはアントリックだった。

「ユメ、まだまだ情けない私だが、もう本当に耐えられないのだ。母上には無い物ねだりと言われて最低男と罵られたが、其れでも!其れでも私はユメを欲するのだ」

(最低男とは?皇妃様私の味方をして下さったのね)

ユメールは皇妃の温かさに胸が熱くなる。

「⋯まだお応えでき兼ねます」

「何故?」

アントリックの問いは尤もだ。
この期に及んでまだユメールは足掻こうとしている。
ユメールが躊躇する理由、其れは⋯アルフォンスだった。

(何故お兄様はこんなお膳立てを?)

アルフォンスの謎の思考がユメールのストッパーになっていた。

「皇帝がこの国に来る事はご存知であられますか?」

「父上が?」

「はい、帝国建立以来初の事だそうです」

「其れは⋯知らなかった」

「今我が国は選択を迫られてるのか迫っているのか私には解らないのです。勝手にお返事ができません」

「⋯⋯私のせいだな、ユメが躊躇するのは私の態度のせいなのだろう?」

「いえそうではありません、私の態度のせいなのですわ」

「?」

「私にが足らなかったのです、貴方を好きなだけで帝国に付いて行ってしまって。それならば石に齧りついてでも、悋気で有るならばその身を引き裂かれても留まるべきだったのに帰ってきてしまいました。その為に陛下第一王子を迷わせてしまいました」

「迷わす?」

「そうです、今後のこの国と帝国の有り様を私の為に修正してくれようとしてるのだと思います」

「どういう事か解らぬ」

「貴方も皇帝も自覚がお有りではないのでしょう、サザン帝国はモンマルトルを軽んじておられます。無意識に⋯」

「其れは軍隊派が!」

「いえそうではありません、軍隊派だけでは有りませんのよ。だから無意識にと言っています。今までは何の繋がりもなかったからただ形ばかりの友好国としてお互いに大使を赴任させるだけだったから問題はなかったのです、帝国がこちらを軽んじていてもモンマルトルには其れを知る事がなかったので⋯」

「⋯⋯」

「でも私は知ってしまいました、兄や陛下はもっと前からご存知であったのかも知れません、ですが私と皇子の為に送り出してくれたのに、私はその優しさに父や兄としての優しさに後ろ足で砂を掛けてしまいましたの。だから今後は国としてモンマルトルの王女として帝国に嫁ぐのが最善なのか如何かを陛下と第一王子に決めて頂かねばならないのです。私はマルデリータ様や姉の様に形振り構えない行動ができないのです。王女としての矜持が其れを許しません。でも本当は矜持を捨てて貴方の側に居るべきだったのに⋯⋯相反する気持ちもあるのです。ごめんなさい、ごめんなさいアンティ。私の軽率な行いがどんな結果を生むかはまだ解らないのです」

ユメールは自分の気持ちを正直に話した、アントリックに付いて帝国に行くように背中を押してくれたのはアルフォンスだった。
アルフォンスはユメールの気持ちがアントリックに有る事が解ったから妹の為にそうしてくれたのに、耐えられなくなったユメールは帰国してしまった。
一つチャンスを与えられたのに政略ではなく恋愛で嫁げるチャンスを。
其れを潰したのは他でもないユメールだった。
今後はモンマルトルの国王と第一王子が帝国と友好を結ぶのが益とするならばおそらく政略として嫁ぐ事が叶うだろう。
だが皇帝がモンマルトルを軽んじているままならば国王や王子は帝国とは今のままで良いと結論を出すかもしれない。
そうなれば婚姻を結ぶ事は出来なくなる。

その話を聞いたアントリックは絶望した。

「やはり私のせいだ!もっとユメと話すべきだった。自分の中で結論の出ない事を話しても解ってもらえぬと勝手に決めて、だから空気だ何だとお門違いの事を言ってしまったんだ。そのせいで」

「私はもっと貴方に寄り添うべきだったのに、私のせいでも有るのです。私、貴方が、アンティがマルデリータ様に絆されているのを気付いていたのに、紛れもなく其れは悋気だったのに認めたくなくて、貴方に寄り添えなかった。だって貴方に絆されて好きになったのは私なのだから、今度は絆された貴方がマルデリータ様を選ぶのが怖かったの」

「ユメ⋯⋯」

「怖かった!アンティを取られると思って怖かったの!ただそれだけだった、その一言が言えなかった。ごめんなさいごめんなさい。貴方に⋯貴方の動き一つ一つに一喜一憂する自分を解っていても認められなかったの、恥ずかしくて!そんな事を考えてる時に図書室での貴方の様子を見ていたら⋯怖かったの怖くて怖くて⋯」

ユメールは初めて形振り構わないという事がどういう事か身を持って知った。
涙は止まらず言葉もただ怖いというだけで脈絡もなく。
ただ己の気持のみを相手に押し付けるように話す。
女の最大限の武器である“涙”を使って。

其れでも胸の渇きは治まらない、あとからあとから渇いてくる。
苦しくて苦しくてこんなにもアントリックを恋い慕っていた自分を初めて知り、その自分の行いにも恐怖を感じていた。

いつの間にかアントリックはユメールの隣に寄り添っていた。
優しく抱きしめ背中を擦る。
其れは何時もマリーがしてくれていたユメールの安定剤だ。

「ユメ、今更で格好もつかないが今度こそ私を信じてくれまいか?」

「⋯⋯は、い」

恋人達の逢瀬は続くが皇子と王女としての立場ゆえ二人の行く末は国のトップに今後は委ねられる。
アントリックは次代の皇子としてもユメールを欲すると誓ってくれたのだった。


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