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元夫の事情
義姉
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テーラー子爵が帰ったあと私は母に帰る事を再び告げた。
「そうね、また会えるわよね」
「お母様一緒に住むのですから⋯迎えに来ます」
私の決意表明に母は一瞬だけ目を伏せて穏やかに微笑んだ。
昨夜打ち明けてくれたこと。
母は最近またあまり体調がよろしくないそうだ。
父や兄は知らないが義姉は知っていて労ってくれていると聞いた。
「ライナに手紙を預かってくれないかしら?」
「えぇ勿論よ」
ロイドを間にして二人で手を繋いでいたのだけど、ここでロイドが急に手を振りほどいて前に走り出した。
「ロイド!」
ロイドが止まった先にあったのは彫刻だった。
「ははうえ~てぇがありましぇん」
自分の腕を擦りながら痛そうに顔を歪めて訴えるロイドに笑ってしまう。
その彫刻は昔からここにあったのかしら?
このヴィーナス像を私は知らない。
「本当ね、でもこれは芸術家の思いなのかも」
「げえじゅちゅかにょおもい?」
「そうよ、作った人にしか解らない思い、でも美しいわね」
「うちゅくちぃ」
「えぇそうね、これは私が嫁いだときにはもうあったのよ」
「そうなのですか⋯」
「えぇ」
母が嫁いだ時よりも前にあった子爵家の彫刻。
私は知らずに生きてきた。
ロイドがいなければ未だに知らなかったのかも、いえ一生知らなかったのかもしれない。
まだ自分の腕を擦りながら彫刻を眺めてるロイドを抱き上げながら
「義伯母様に会いに行きましょうか」
「おばちゃま?」
私は母の案内で義姉の部屋を訪ねた。
「昨日はお話し出来なくて失礼しました、帰る前にお礼を述べたくて参りました」
私の言葉に義姉は驚きながら母を見たけれど、何故なのかしら?
昨日からの歓迎してない雰囲気やテーラー子爵の訪いの対応にお礼を言ったとき、いちいち驚く義姉が不思議だと思った。
「私の方こそお話し出来なくてごめんなさい、もう帰られるの?」
「はい少し街を回ってお土産も買いたいので、それから帰ります」
「そう⋯ですか。では案内を付けましょう」
「いえそれには及びませんわ、私3年前まで王都に住んでいたのですから大丈夫です」
「では、こちらへも来ていただいたら良かったのに」
「ここには誰も居ないと聞かされてましたし、敷居も高かったので」
笑いながら私が答えると義姉はまたまた驚いた顔で母を見た。
この顔はひょっとして義姉の癖なのかな?
「ロイド義伯母様にお礼とお別れのご挨拶をしましょう」
「おわかれーちょうでちゅか」
ロイドはまたソファから立ち上がり何故か、そしてどこで覚えたのかカーテシーをした。
「おばちゃまありがちょうごじゃいまっちゃ。ちゃようにゃら」
義姉はまたまた驚いた顔をしていたけど突然「ブッ」と吹き出した。
「ロイド君は凄いのね、とてもしっかりしてるし可愛いわ、ロイド君素敵なご挨拶ありがとう。またいらしてね」
「はい!」
ロイドが手を真っ直ぐ上げて大変良い返事を返してた。
義姉の部屋を出ようとしたら義姉が私の手をギュッと握って言った。
「本当にまたいらして、そして何か困ったら遠慮なく言ってね」
「お気遣いありがとうございます⋯⋯そうですね困ったら、ロイドが困ったら助けて下さいますか?」
「勿論よ、でもマリナ様が困った時も頼って」
「⋯えぇ、あの、母を頼みます。迎えに来るつもりですがそれまではお願いします」
義姉は戸惑った顔をしたけれど微笑んでくれた。
昨日の態度の真意は解らないけれど今日はとても感じのいい方だと思えたし、何より母を大事にしてくれていると聞いたから、きっといい人だと思った。
渋る父と兄を放っといて私はロイドとモルトワ子爵家を後にした。
ロイドと手を繋いで歩きながら甥たちのお土産は何にしようとか考えていたらロイドに服をツンツンと引っ張られた。
「どうしたの?」
「ははうえ~ぼくぅあれ」
ロイドが指差していたのはカフェだった。
大きな看板にクリームの乗ったパンケーキの絵が書いてある。
「パンケーキ食べたいの?」
照れたように頷くロイド。
あまりこういうお強請りをされた事がなかったからちょっと新鮮だった。
母と二人の生活ということが3歳のロイドにどこまでわかっているのか解らないけれど、あまり我儘も言わない子だったから、ずっと言われたらきっと辟易するけれど今日くらいはいいかな。
「じゃああそこ行ってみましょう」
「いいにょ?」
「えぇでも今日だけね」
「うん!あっ、はい!」
ロイドと連れ立ってカフェに入った。
荷物が旅行鞄で大きかったからか奥の端の席を案内された。
4人がけのソファ席だった。
気の利く店員がメニューを渡してくれる。
「パンケーキはサイズがあるのね、この小さいのとホットミルク、それから珈琲をお願いします」
ロイドは周りをキョロキョロと見渡す。
「ははうえ~おいちちょうでちゅね」
きっと2つ横の席の方のパンケーキが目に入ったのだろう、だけど小声で口元に内緒話をするように言うロイドを抱きしめたくなった。
運ばれてきたパンケーキに興奮して鼻の穴が膨らんでるロイドを眺めながらフゥフゥとミルクを冷ましていたら昨日のカイルを思い出した。
そして疑問に思う。
何故彼は王都に居たのだろう?
「そうね、また会えるわよね」
「お母様一緒に住むのですから⋯迎えに来ます」
私の決意表明に母は一瞬だけ目を伏せて穏やかに微笑んだ。
昨夜打ち明けてくれたこと。
母は最近またあまり体調がよろしくないそうだ。
父や兄は知らないが義姉は知っていて労ってくれていると聞いた。
「ライナに手紙を預かってくれないかしら?」
「えぇ勿論よ」
ロイドを間にして二人で手を繋いでいたのだけど、ここでロイドが急に手を振りほどいて前に走り出した。
「ロイド!」
ロイドが止まった先にあったのは彫刻だった。
「ははうえ~てぇがありましぇん」
自分の腕を擦りながら痛そうに顔を歪めて訴えるロイドに笑ってしまう。
その彫刻は昔からここにあったのかしら?
このヴィーナス像を私は知らない。
「本当ね、でもこれは芸術家の思いなのかも」
「げえじゅちゅかにょおもい?」
「そうよ、作った人にしか解らない思い、でも美しいわね」
「うちゅくちぃ」
「えぇそうね、これは私が嫁いだときにはもうあったのよ」
「そうなのですか⋯」
「えぇ」
母が嫁いだ時よりも前にあった子爵家の彫刻。
私は知らずに生きてきた。
ロイドがいなければ未だに知らなかったのかも、いえ一生知らなかったのかもしれない。
まだ自分の腕を擦りながら彫刻を眺めてるロイドを抱き上げながら
「義伯母様に会いに行きましょうか」
「おばちゃま?」
私は母の案内で義姉の部屋を訪ねた。
「昨日はお話し出来なくて失礼しました、帰る前にお礼を述べたくて参りました」
私の言葉に義姉は驚きながら母を見たけれど、何故なのかしら?
昨日からの歓迎してない雰囲気やテーラー子爵の訪いの対応にお礼を言ったとき、いちいち驚く義姉が不思議だと思った。
「私の方こそお話し出来なくてごめんなさい、もう帰られるの?」
「はい少し街を回ってお土産も買いたいので、それから帰ります」
「そう⋯ですか。では案内を付けましょう」
「いえそれには及びませんわ、私3年前まで王都に住んでいたのですから大丈夫です」
「では、こちらへも来ていただいたら良かったのに」
「ここには誰も居ないと聞かされてましたし、敷居も高かったので」
笑いながら私が答えると義姉はまたまた驚いた顔で母を見た。
この顔はひょっとして義姉の癖なのかな?
「ロイド義伯母様にお礼とお別れのご挨拶をしましょう」
「おわかれーちょうでちゅか」
ロイドはまたソファから立ち上がり何故か、そしてどこで覚えたのかカーテシーをした。
「おばちゃまありがちょうごじゃいまっちゃ。ちゃようにゃら」
義姉はまたまた驚いた顔をしていたけど突然「ブッ」と吹き出した。
「ロイド君は凄いのね、とてもしっかりしてるし可愛いわ、ロイド君素敵なご挨拶ありがとう。またいらしてね」
「はい!」
ロイドが手を真っ直ぐ上げて大変良い返事を返してた。
義姉の部屋を出ようとしたら義姉が私の手をギュッと握って言った。
「本当にまたいらして、そして何か困ったら遠慮なく言ってね」
「お気遣いありがとうございます⋯⋯そうですね困ったら、ロイドが困ったら助けて下さいますか?」
「勿論よ、でもマリナ様が困った時も頼って」
「⋯えぇ、あの、母を頼みます。迎えに来るつもりですがそれまではお願いします」
義姉は戸惑った顔をしたけれど微笑んでくれた。
昨日の態度の真意は解らないけれど今日はとても感じのいい方だと思えたし、何より母を大事にしてくれていると聞いたから、きっといい人だと思った。
渋る父と兄を放っといて私はロイドとモルトワ子爵家を後にした。
ロイドと手を繋いで歩きながら甥たちのお土産は何にしようとか考えていたらロイドに服をツンツンと引っ張られた。
「どうしたの?」
「ははうえ~ぼくぅあれ」
ロイドが指差していたのはカフェだった。
大きな看板にクリームの乗ったパンケーキの絵が書いてある。
「パンケーキ食べたいの?」
照れたように頷くロイド。
あまりこういうお強請りをされた事がなかったからちょっと新鮮だった。
母と二人の生活ということが3歳のロイドにどこまでわかっているのか解らないけれど、あまり我儘も言わない子だったから、ずっと言われたらきっと辟易するけれど今日くらいはいいかな。
「じゃああそこ行ってみましょう」
「いいにょ?」
「えぇでも今日だけね」
「うん!あっ、はい!」
ロイドと連れ立ってカフェに入った。
荷物が旅行鞄で大きかったからか奥の端の席を案内された。
4人がけのソファ席だった。
気の利く店員がメニューを渡してくれる。
「パンケーキはサイズがあるのね、この小さいのとホットミルク、それから珈琲をお願いします」
ロイドは周りをキョロキョロと見渡す。
「ははうえ~おいちちょうでちゅね」
きっと2つ横の席の方のパンケーキが目に入ったのだろう、だけど小声で口元に内緒話をするように言うロイドを抱きしめたくなった。
運ばれてきたパンケーキに興奮して鼻の穴が膨らんでるロイドを眺めながらフゥフゥとミルクを冷ましていたら昨日のカイルを思い出した。
そして疑問に思う。
何故彼は王都に居たのだろう?
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