眠れる森の聖女

maruko

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第一章

森のお供は⋯。

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森の中は奥に行くほど薄暗く見えるのだが、不思議な事にアミエルとスザンヌの2、3歩先の道筋が光るのだった。
その光に導かれる様に二人は前へと進んで行く。

「アミエル様、不思議ですねぇ」

「⋯⋯そうね」

スザンヌが独り言のように声を潜めながら話しかけてきた。
考え事をしながら歩いていたアミエルはスザンヌの言葉はちゃんと耳に届いていたが相槌を打つだけに留めていた。
アミエルの考え事とは森の生き物の事だった。
歩くたびに視線を感じるのだ、それもあちらこちらから。
その視線が人間の物だと思えないのは頭の上からも感じるからかもしれない。

(すっごく見られているのだけど一体何に見られているの?)

ずっとそんな事を考えて歩いていたら目の前に突然それは現れた。
白い狼の様に見えるのだが、狼が目の前に居るというだけで足が震えるほど怖いのにその狼はとても大きかった。
平民街で見かける様な一階建ての家一軒分ほどの大きさで、堪らずスザンヌが「ヒュッ」と息を呑んで腰が抜けたようにヘナヘナと座り込み始めた。
その拍子に手が離れそうになり慌ててアミエルは彼女の手をグッと握り引き上げようと力を入れた。

「あ、アミエル様申し訳ありません」

怖さで震えながらスザンヌが謝罪するけれど、アミエルの力では腰の抜けたスザンヌを引き上げるのが難しくて、手が離れないようにアミエルもしゃがむ事にした。
白い大きな狼は二人に襲いかかることはなく、ただ只管眺めている。
そのうち首を傾げて二人の前で伏せてしまった。
丁度行く道を塞がれた形になってしまいアミエルは途方に暮れる。

「聖女様、大きな狼が前に伏せてしまったのですけれど、どうすればよろしいでしょうか?」

暫く待ったが狼は微動だにせず、しかも目を閉じているのでひょっとして寝ちゃった?と感じイェナルに助けを求めてみた。

─え~あいつ迎えに行くと言っておきながら!ねぇ怖いかしら?怖いわよねぇ大きいもの。でも襲ったりしないから彼の前足に触れないかしら?─

イェナルはとんでもなく恐ろしい事を言ったけれど、そうしなければ道は塞がれたままなので、意を決したアミエルはスザンヌに声をかけた。

「スザンヌもう立てるかしら?」

「少々お待ちください⋯⋯よっこいしょ」

腰が抜けてから暫く経っていたからだろうか、スザンヌはヨロヨロとしながらも何とか立ち上がってくれた。
その頑張りに水を差してしまうのが申し訳なかったが、これからの行動を彼女に告げる。

「ごめんね、あの子に近付くのに付き合ってね」

「⋯⋯本気ですか?」

「えぇ聖女様に言われたの、大丈夫みたい、襲わないって仰ってたわ」

スザンヌの顔色は狼によって既に青くなっていたのだが、アミエルの言葉で徐々に青から白くなっていくのがわかった。
わかったけれどこればっかりはしょうがないと、腹を括ってほしいと告げると泣きそうな顔でそれでも頷いてくれた。
あからさまに怖がっているスザンヌに対して、聖女の指示に従って動くアミエルだが、決して平気なわけではない。
アミエルも怖かったけれど聖女を信じて、ソロリソロリと震えながらも狼に近づいて行った。

ソォーッと前足を擦ると狼は瞑っていた目をゆっくりと開いた。
そして前足を擦るアミエルの手に鼻を擦りこすり付けてくる。
その仕草を繰り返しされていたアミエルは不意に気付いた。
(もしかして⋯伏せたのは)

「背中に乗せてくれるつもりだったの?」

アミエルの言葉にそうだと言うように尚も鼻をスリスリとする。
アミエルはその白い狼の大きな背に登ろうと試みるが、スザンヌと手を繋いだままなので上手く行かない。
四苦八苦していたら狼が頭に乗れと言うようにまた鼻を擦りつけてきた。
どうやらの行動はアミエル達を案内する為にしていたようだ。
頭に乗るのは手を繋いでいても髭や耳、毛を掴むことで楽に登ることができた。
背中から登るよりも掴むところが多かった。
途中までブルブル震えていたスザンヌも、アミエルが狼に話しかけながら動いていたので、そのうち震えも止まっていて、今は「高くて気持ちいいですねぇ」なんて言っていた。
先程とは打って変わってご機嫌だ。

狼の頭から背中に移って二人は快適に森の道を進んでいった。
森の中は相変わらず薄暗いけれど木々の隙間から空も見えるようになった。
高い位置から見ているからかもしれない。
視線は相変わらず感じていたから、他にも生き物がいるのはわかっていたけれど、もう怖くも何ともなかった。

白い狼の背に乗せられて移動しながらその城に着いたのは、森に踏み入ってからかなりの時間が経っていたように思えた。

その城は元の壁の色がわからないほど蔦が絡まっていて森と一体化していたので、城門がなければ城だとは気付かなかったかもしれない。
城門から城の入り口までは10歩程しかなかった。
狼の10歩だからアミエルたちが歩いたらどれくらいだったかなと、何故かそんな事を考えていたら狼は入り口の前で止まり再び伏せをした。

大変だった登る時とは違って降りるときは「せぇーの」と言いながら、スザンヌと二人で背中から滑るように降りた。
それがとっても楽しくてアミエルとスザンヌは二人で

「「ありがとう」」

と、お礼を言うと狼はピクンと耳を片方だけ折って見せた。
それが「どういたしまして」と言われたようにアミエルは感じた。

入り口の扉は大きく狼くらいあったし、蔦が其処にも絡んでいたので、果たしてアミエルの力で開くのか?と不安に思いながら押してみると意外にもスンナリと開いた。
錆びたような音もせずに蔦が邪魔をすることも無く開いたので、アミエルは少しばかり拍子抜けしてしまった。

城の中に入りきってからスザンヌと手を離してみる。
聖女が言ったようにスザンヌは弾かれることなくこの場にとどまる事ができて、アミエルはホッとするのだった。

「あ~やっと会えたわねぇいらっしゃいませぇ」

その声は頭上から聞こえた。
見上げた先にはアミエルより少しだけ年上に見える銀髪の女性が微笑んで手を振っていた。




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