前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

文字の大きさ
2 / 136

2.

しおりを挟む
「さて、先ずは身なり……だが」

晴れて自由の身となった私は領地なんぞは早々に抜けて、魔物の森と呼ばれて冒険者も依頼が無ければ近づかない場所を訪れていた。

今の格好はシャツにスラックス、ブーツ、フード付きのマントと申し訳程度の武器としてナイフを装着していた。
布の質はいいものだが、特別な魔法がかかっているわけでもない、なんの変哲も無い攻撃力も防御力もゼロのただの布である。

正直な話、平民でも街の外に出るなら、もっと重装備だ。これはせいぜい安全な街中に出かける程度の服装でしかない。

ここに前世魔王の力を発揮してプレミア価値が付くようにしてもいいのだが、街に着き次第着替える予定なので、一先ずはこのままだ。

皆、魔王と聞けば闇属性魔法だという(まあ、事実、毒無効や呪い無効や精神干渉系魔法といった、魔王が得意とした魔法というのは、総じて闇属性に位置する)が、それ以外の魔法を使えないはずがないだろ。

魔王は実を言えば全ての魔法が使えた。単に勇者と呼ばれる人間が光魔法を多用しまくり、それに対抗するのに闇魔法が1番使い勝手が良かっただけである。なので必然的に闇属性魔法ばかりを使う結果となり、魔王と言えば闇属性!みたいな風潮が出来たのだろ……できちゃったみたいなんだよねー!

……前世魔王として数世紀生きていたせいか、偶に口調が乱れる。というか、魔王口調の方が慣れ親しんでいるので、もうそっちでいいだろうか。いいよね。だってもう貴族じゃないし。

「ふむ……」

鏡を創り出して写った顔をみるが、まあ、悪くはない中性的な顔立ちだ。年齢が年齢なだけに、少年か少女かはこの格好では見分けがつかないだろう。
そして性別が女なのは僥倖だった。生前は配下のバンピールやインキュバス達を着せ替え人形にしてたが、今は人形にして遊ぶ相手も居ない事だし、自分を使うにしろ男の身体では似合わない服があるだろう?

女性物の服にはロマンが詰まっている。どうせなら似合う身体になってみたかったからな。

だが……この森の中では服を買うというのも出来ぬから、今は仕方あるまい。
着ている服に自動修復魔法を、身体には強化魔法をかけてから森の深部へと向かう事にする。

「自分を着せ替えるにも金がいるからな」

身なりを整えるために先ず一仕事と行こうか。


~数時間後~

「うむ。これだけあればまあ、一夜の宿程度ならなんとかなるだろう」

我が目の前には、の親子から始まり、番いのや、テンプレなオークたちが転がっている。

どうやってとったのかといえば簡単で、おすわりと言った(魔法で重力倍加して地面に叩きつけて押さえつけて、さらに……中身をちょちょいとした)だけだ。
欠損や傷もない為、グロ耐性無い人間にも優しい見た目である。えっへん。

魔王として君臨していた頃は、身体が食事を必要としなかった為、オーク肉など食べたことが無かった。聞いた話では美味らしい。と、言うわけで食いたいのだが

「……ふむ、人間はこれをどう捌いてどの部分を食らうというのだ?というか、よく食おうとなど思ったものだ」

二足歩行をして、棍棒や剣を振り回す人型の豚顔という印象しか受けなかった。肌は灰色に近い色をしているし、よくよく考えてもこれを美味そうなどとはかけらも思えないのだが。

仕方がないので、新たに丁度夕陽に向かって飛んでいたを手早く石を投げて仕留めて、頭と尾羽は貴族たちにも人気という事で、価値がある為残し、その残りを焼いて食べた。とりの捌き方は料理長から習っていたからな!

うむ。中々美味だった。

それにしても、美味いと言われている肉(オーク)が目の前にあるのに食えないとは、なんという悲劇だ。これは調理できる者の所に弟子入りでもして、腕を磨くか……?

(因みに、前世は色々と規格外な魔王で今世は令嬢として非常識な為、自ら働く事になんの躊躇もありません)

荷物を適当に空間を開いて収納して、我は森を抜けた先を進んでいた。夜だから動かず野営?何を馬鹿なことを。どこの世界にせっかくの夜を楽しまない魔王がいるのだ。(早寝早起きの健康優良児的魔王がいたらごめんなさい)

……どこかに料理人は居ないものか。ん?……誰か野営しているな。人間か。複数人いるな……。1キロほど先にいるのか。成る程成る程。

オーク肉の捌き方知ってるといいな。


「……とは思っていたが、まさかオーク肉を捌く前に人間を裁く事になるとは思わなかったぞ」

野営地をこっそり伺えば、日を囲んで贅を尽くしたような料理を食らっている男たちがいた。そこから少し離れた所に馬と、荷車、そして捕らえられているらしい女性がいた。

……これは、あれだろうか?よくある、商人が道すがら襲われ……みたいなあれだろうか。む。ではヒーローはどこだ。キョロキョロと周りを見渡すが、こんな見渡す限り草原みたいな場所に都合よくヒーローなどいるわけはなかったな。……ちょっと残念。

仕方がないので我が自ら品のない食事をしていた男どもを捕らえて簀巻きにした。

助けてやった女は一部始終を見ていたため、いたく感動した様子で我に感謝を述べた。

……もしかしてこれ、我がヒーロー?

しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

処理中です...