前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

文字の大きさ
5 / 136

5.

しおりを挟む


「ふむ……成る程。オークは豚と似たような味なのだな。味付け次第では確かに美味かもしれん」

料理長が餞別にとくれた料理ノートに、豚料理のレシピの肉はいざとなればオークで代用可能と書き込む。ただし、脂身が多い為、使用する量に注意。

ミリア達や助け出した冒険者達は意識を取り戻した後、私に冒険者になれだとか、礼をさせろだとか煩かったので、とりあえず約束の肉の捌き方教えろと言って、さっさとその場を離れた。

全力疾走して、ミリアを助けた野営地を通りこして、暫く走り続け、救出活動をした頃にあった月が消えて日が昇る頃逃げ切ったと判断して足を止めた。

待ちに待った肉を捌き、漸く食せたものの、味付けは塩胡椒だったので、まだ美味いとまでは言えない。

「やはり料理人に弟子入りするのが良いか……?」

いやしかし、弟子入りするなら制服が可愛いところがいい。

「せっかくの女体だからな。飾ってこそというものだろう」

魔王たるもの、好みにはうるさいぞ。もう魔王ではないがな!

そんな動機で進む事数時間。……眠い。
流石に夜通し歩いたのはよろしくなかったか。


「ん?」

右前方に羊の群れが見えた。
もしや、牧場か何かか?

牧場といえば、新鮮なミルクやチーズやバター。場所によってはアイスまであるという、とても魅力的な場所だ。

羊は放牧なので、牧羊犬と呼ばれる犬が、その羊を誘導したり、羊を盗む悪い奴が出ないように見張っているらしい。
最初に聞いたときは、犬なんて可愛らしい生き物に、その何倍もある羊を追い立てたりする事が出来るのかと甚だ疑問だった。

しかし、こうして側に来て現実に見てみると……。

「なんと。牧羊犬とはオオカミのことだったのか」

確かに、オオカミも犬といえば犬だろう。納得だ。しかもあのオオカミは、通常の大型犬よりも数倍の大きさ。大人の背ほどもある。
羊くらい丸呑み出来そうだ。

「アレを扱えるほどのテイマーがいるとは、この牧場はさぞ栄えて「んなわけあるか!アンタさっさと隠れろ!食われるぞ!!」ん?」

声が聞こえたのが早いか。それともその犬が牙を剥いて我にかかってくる方が早かったか。というか、どういう事だろうか。

「いくらオオカミとはいえ、犬に食われる人間などおらぬだろうに」

料理長が言っていた。動物は主人がいれば、その者には逆らわぬものだと。逆らうのは躾が足りぬ証拠だと。
配下の者も言っていた。飼われてる生き物が牙を剥いてかかってくるなら、それは主人の落ち度。
2人とも言っていた。そんな事をする犬(下僕)には、「おすわり」から教え直すべきだと。

だから我はいたって普通に、飛びかかって来た犬におすわりと言ったのだ。

そして犬は我の目の前におすわりしている。おすわりというか、伏せ?耳をぺたりと伏せて心なしか怯えているような……。

「む。そんなに怖がらなくとも良い。きちんと言うことを聞けた犬は可愛がるぞ」

言うことが聞けたらちゃんと飼い犬は褒めてやれと言われているからな。まあこの犬は我の犬ではないのだが。

「お、おい、アンタ……」
「何だ。ここの牧場主か?」

どうやら先ほど我に、食われるから逃げろと言った声の主だな。見てみれば恐怖で今にも腰を抜かしそうな状態で近づいてくる。まあ、近づくと言っても、十数メートル離れた所までだが。

「見知らぬ人間が近づいて来たくらいで飛びかかるように躾けたのか?どこかの牧場では犬に羊を追わせて見事な統率を取る姿を見せると言う催し物をする所があるというが、ここではやっていないのか?」

伏せたままの犬を撫でつつそう問えば、牧場主の男は怯えたようにこの犬を見ている。

「し、躾も何も!そのバカでけえウルフは魔物だぞ!!ついさっきそいつが急に現れて羊たちを追い回したんだっ!!!」

顔色悪く、恐怖で震えつつ、いつでも逃げ出せるような距離を取りながら、そいつと指差されているのは、今我に撫でられて腹を見せているこの犬だろうか?

『バウッ(さっきは怖かったけどこのテクニシャンな子はともかくとして……あの牧場主失礼ね!アタシをウルフ如きと一緒にしないでちょうだい!!)』
「……ウルフ如きと一緒にするなと怒っているが?」
「……は?」

牧場主にはどうやら聞こえなかったらしい、その声。周りを見渡しても特に人間はいない。……うむ。成る程、成る程。

『クウゥ(あら、アタシの声が聞こえてるの?)』

うつ伏せになった犬……オオカミが私を見上げながら小首を傾げる。……うん、ちょっと可愛い。

『ウォン(アタシ、フェンリルなの。話が通じそうな子が見つかってよかったワ♡ね、通訳してくれない?アタシお腹減ってるんだけど、この辺で話ができる人間が居ないの)』

ふむ……。

「牧場主よ。どうやらこの……彼女はフェンリルだそうだ」

親切にウルフじゃないと教えてやったと言うのに、牧場主は気絶して倒れた。

「バゥ(あら、失礼ねえ。アタシ、人間を食べる趣味は無いワヨ!)」

んもう!と、憤る彼女。三人称は彼ではなく彼女で正解だったらしい。ここでも料理長の知識が役に立った。

性別に、気を使うなら、心まで。(by.料理長)

「……腹が減っていると言ったか?主食は?やはり肉か?」
『ウォン(まあお肉は大事よね。美味しいし。けどそれ以上にやっぱりお野菜には気を使わないと!ここの裏手の野菜が美味しそうだから分けて欲しくて持ち主探してたら、アタシの事を見て逃げるし、羊を盾にするし、また逃げまくるし。
と思ったら近い距離に人がいたじゃない?)』

美容と健康に気を遣っているらしい。いい事だと思うぞ。サキュバス達も気を遣っていた。歳を重ねると若い時にどれだけ頑張ったかがモノを言うらしい。

「それで逃げられたら困る為に飛びかかって来たのだな?つまり食べる気は無かった、と?」

弾かれるように勿論そんな気は無いですと断言したので、我に飛びかかった無礼は許そうではないか。

『バウッ(ねえ、食べ物持ってたらくれない?勿論お礼はするワ。アタシ、尽くしちゃうタイプなのよ?)』
「それは構わぬが。今持っている食べ物といえば、ウサギ肉やクマなのだが……」
『クウゥン(あら、いいじゃないウサギ肉。淡白だけど脂が美味しいのよ。問題は小さいから、1匹くらいじゃ満足しない事だけど)』
「それなら問題ないぞ。親子で数匹狩ったからな」

本当は売ろうと思っていたが、腹が減っているのは可哀想だし、なかなかの良い毛並みを堪能したからな。礼だと思おうではないか。

しかし取り出したウサギを見て、フェンリルは無言だった。いや、一瞬の沈黙の後、唐突に遠吠えをした。

『(これのどこが、ウサギよぉおおおお!?)』
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

処理中です...