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しおりを挟む「ふむ……成る程。オークは豚と似たような味なのだな。味付け次第では確かに美味かもしれん」
料理長が餞別にとくれた料理ノートに、豚料理のレシピの肉はいざとなればオークで代用可能と書き込む。ただし、脂身が多い為、使用する量に注意。
ミリア達や助け出した冒険者達は意識を取り戻した後、私に冒険者になれだとか、礼をさせろだとか煩かったので、とりあえず約束の肉の捌き方教えろと言って、さっさとその場を離れた。
全力疾走して、ミリアを助けた野営地を通りこして、暫く走り続け、救出活動をした頃にあった月が消えて日が昇る頃逃げ切ったと判断して足を止めた。
待ちに待った肉を捌き、漸く食せたものの、味付けは塩胡椒だったので、まだ美味いとまでは言えない。
「やはり料理人に弟子入りするのが良いか……?」
いやしかし、弟子入りするなら制服が可愛いところがいい。
「せっかくの女体だからな。飾ってこそというものだろう」
魔王たるもの、好みにはうるさいぞ。もう魔王ではないがな!
そんな動機で進む事数時間。……眠い。
流石に夜通し歩いたのはよろしくなかったか。
「ん?」
右前方に羊の群れが見えた。
もしや、牧場か何かか?
牧場といえば、新鮮なミルクやチーズやバター。場所によってはアイスまであるという、とても魅力的な場所だ。
羊は放牧なので、牧羊犬と呼ばれる犬が、その羊を誘導したり、羊を盗む悪い奴が出ないように見張っているらしい。
最初に聞いたときは、犬なんて可愛らしい生き物に、その何倍もある羊を追い立てたりする事が出来るのかと甚だ疑問だった。
しかし、こうして側に来て現実に見てみると……。
「なんと。牧羊犬とはオオカミのことだったのか」
確かに、オオカミも犬といえば犬だろう。納得だ。しかもあのオオカミは、通常の大型犬よりも数倍の大きさ。大人の背ほどもある。
羊くらい丸呑み出来そうだ。
「アレを扱えるほどのテイマーがいるとは、この牧場はさぞ栄えて「んなわけあるか!アンタさっさと隠れろ!食われるぞ!!」ん?」
声が聞こえたのが早いか。それともその犬が牙を剥いて我にかかってくる方が早かったか。というか、どういう事だろうか。
「いくらオオカミとはいえ、犬に食われる人間などおらぬだろうに」
料理長が言っていた。動物は主人がいれば、その者には逆らわぬものだと。逆らうのは躾が足りぬ証拠だと。
配下の者も言っていた。飼われてる生き物が牙を剥いてかかってくるなら、それは主人の落ち度。
2人とも言っていた。そんな事をする犬(下僕)には、「おすわり」から教え直すべきだと。
だから我はいたって普通に、飛びかかって来た犬におすわりと言ったのだ。
そして犬は我の目の前におすわりしている。おすわりというか、伏せ?耳をぺたりと伏せて心なしか怯えているような……。
「む。そんなに怖がらなくとも良い。きちんと言うことを聞けた犬は可愛がるぞ」
言うことが聞けたらちゃんと飼い犬は褒めてやれと言われているからな。まあこの犬は我の犬ではないのだが。
「お、おい、アンタ……」
「何だ。ここの牧場主か?」
どうやら先ほど我に、食われるから逃げろと言った声の主だな。見てみれば恐怖で今にも腰を抜かしそうな状態で近づいてくる。まあ、近づくと言っても、十数メートル離れた所までだが。
「見知らぬ人間が近づいて来たくらいで飛びかかるように躾けたのか?どこかの牧場では犬に羊を追わせて見事な統率を取る姿を見せると言う催し物をする所があるというが、ここではやっていないのか?」
伏せたままの犬を撫でつつそう問えば、牧場主の男は怯えたようにこの犬を見ている。
「し、躾も何も!そのバカでけえウルフは魔物だぞ!!ついさっきそいつが急に現れて羊たちを追い回したんだっ!!!」
顔色悪く、恐怖で震えつつ、いつでも逃げ出せるような距離を取りながら、そいつと指差されているのは、今我に撫でられて腹を見せているこの犬だろうか?
『バウッ(さっきは怖かったけどこのテクニシャンな子はともかくとして……あの牧場主失礼ね!アタシをウルフ如きと一緒にしないでちょうだい!!)』
「……ウルフ如きと一緒にするなと怒っているが?」
「……は?」
牧場主にはどうやら聞こえなかったらしい、その声。周りを見渡しても特に人間はいない。……うむ。成る程、成る程。
『クウゥ(あら、アタシの声が聞こえてるの?)』
うつ伏せになった犬……オオカミが私を見上げながら小首を傾げる。……うん、ちょっと可愛い。
『ウォン(アタシ、フェンリルなの。話が通じそうな子が見つかってよかったワ♡ね、通訳してくれない?アタシお腹減ってるんだけど、この辺で話ができる人間が居ないの)』
ふむ……。
「牧場主よ。どうやらこの……彼女はフェンリルだそうだ」
親切にウルフじゃないと教えてやったと言うのに、牧場主は気絶して倒れた。
「バゥ(あら、失礼ねえ。アタシ、人間を食べる趣味は無いワヨ!)」
んもう!と、憤る彼女。三人称は彼ではなく彼女で正解だったらしい。ここでも料理長の知識が役に立った。
性別に、気を使うなら、心まで。(by.料理長)
「……腹が減っていると言ったか?主食は?やはり肉か?」
『ウォン(まあお肉は大事よね。美味しいし。けどそれ以上にやっぱりお野菜には気を使わないと!ここの裏手の野菜が美味しそうだから分けて欲しくて持ち主探してたら、アタシの事を見て逃げるし、羊を盾にするし、また逃げまくるし。
と思ったら近い距離に人がいたじゃない?)』
美容と健康に気を遣っているらしい。いい事だと思うぞ。サキュバス達も気を遣っていた。歳を重ねると若い時にどれだけ頑張ったかがモノを言うらしい。
「それで逃げられたら困る為に飛びかかって来たのだな?つまり食べる気は無かった、と?」
弾かれるように勿論そんな気は無いですと断言したので、我に飛びかかった無礼は許そうではないか。
『バウッ(ねえ、食べ物持ってたらくれない?勿論お礼はするワ。アタシ、尽くしちゃうタイプなのよ?)』
「それは構わぬが。今持っている食べ物といえば、ウサギ肉やクマなのだが……」
『クウゥン(あら、いいじゃないウサギ肉。淡白だけど脂が美味しいのよ。問題は小さいから、1匹くらいじゃ満足しない事だけど)』
「それなら問題ないぞ。親子で数匹狩ったからな」
本当は売ろうと思っていたが、腹が減っているのは可哀想だし、なかなかの良い毛並みを堪能したからな。礼だと思おうではないか。
しかし取り出したウサギを見て、フェンリルは無言だった。いや、一瞬の沈黙の後、唐突に遠吠えをした。
『(これのどこが、ウサギよぉおおおお!?)』
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