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しおりを挟む長い耳に、ふわふわとした体毛を全身にまとい、飛び跳ねて移動する。愛玩動物でもあるが、自然界では淡白ながらも柔らかく脂ののった食肉としても人気。
「ほれ、ウサギだろう。多少大きいからといって、仲間はずれにしてやるな。可哀想だろう」
『アナタには、そのウサギの額の角が見えていないの?金よ?金の角が生えてるのよ?そして多少大きいってどこが多少よ。子ウサギがこのアタシとほぼ同じサイズって普通じゃないワヨ!』
おお……吠える吠える。
「ふむ。だが、角が生えて居るからなんだ」
『だ・か・ら、金の角!ゴールドホーンラビット!
ただの角付きならともかく、色付き、しかも金色!』
ウサギごときで何故そこまで騒ぐのかと首を傾げたが、我もやっと理解した。角、しかも金の角のついたウサギ……つまり……!
「金の角は売れば儲かるという事だな?」
『そうだけどそうじゃないワヨ!このおバカ!!』
……我、そんなに変な事を言ったか?
目の前のオオカミはなにやら言葉が通じるのに意思疎通ができない、その苛立ちを込めて先程よりも響く遠吠えをした。
『常識が無いアンタにこのアタシが教えてあげるからよく聞きなさい!?
これは、ホーンラビットの上位種のゴールドホーンラビット!その角は純金で出来ていて、滅多にお目にかかれないの!!
しかも、無傷……外傷一つなく、角も綺麗に残ってる。
これをこのまま冒険者ギルドにでも持って行ったら、かなりの額になるのよ!
こんなものぽんと出して、アタシに何させる気っ!?』
いや、そんなの毛を触らせてくれた礼程度に思っていたのだが。
それに料理長も言っていた。卵を産ませる鶏に餌をやるなら、しかもその時鮮度の高い物と低い物があるなら、鮮度の高い、いい方を食わせてやれと。それは決して無駄ではなく、いい卵になって帰ってくるのだから、と。
……しまった。と、ここで漸く我は気付いた。
「出し惜しみせずにより大きい親ウサギを出せと言う意味だったのだな!?」
急いで子ウサギをしまって、親ウサギを取り出してどーんと置く。勿論グロ耐性が無い人間に優しい見た目だ!
……なにやらフェンリルが親ウサギを見上げて無言になっているが、その横で我は反省していた。猛省だ。
料理長すまん。我は少し旅に出て、どうやら豊かな心を忘れかけていたようだ。分け合うならば良い方を、大きい方を分け与える。それが大事だと、鶏の話で教えてくれたと言うのに……。
1人反省していたのだが、どうやらそのままガツガツ食う趣味は無いらしいフェンリルが、我の背を鼻で押した。わかったわかった。
「捌けばいいんだな?少し待っているがい『アタシの話を聞いていなかったのこのアンポンタン!』……我、あんぽんたんって初めて言われた」
というかあんぽんたんって何だ?
『誰が子ウサギじゃなくて親ウサギ出せって言ったのヨ!アタシは、こんなレアなものほいほい出すなって言ったの!早くしまいなさい!!』
「う、うむ。わかった」
どうやらお気に召さなかった訳ではないようなので、とりあえず子ウサギの方と入れ替える。今度は何も言われなかった。
代わりになりそうな食べ物……。あとはオークとくまだが……。
「オークと、くま肉、どちらがいい?」
『種族的に一般的な大きさで、レアな特徴の無いやつならどっちでもいいワ』
どっちも普通サイズだし、ツノも生えていないし、毛の色が違うこともない。よく分からない文句を言われることはないだろうと判断して、オーク肉(ここに来る前に食した残り)と、番いのクマの雄の方を出す。
フェンリルは少しの間、その周りを歩いて観察した後、先にオーク肉の方を食べた。普通だと言われた。普通を望んだのはそっちだろうに。
『このクマも……普通……だわ。じゃあ有り難く頂きます』
……捌かなくて良かったのか。フェンリルはクマの腕の部分に齧り付いて、……何故か牙を突き立てた状態で動きを止めた。ややあって、食べるのをやめて、じっと我を見た。
「気を遣わなくとも、我はグロ耐性あるからそのまま食っていいぞ?」
『ちげーよこのバカ』
飾り気もオブラートもなくどストレートにバカにされただと……!?
むう……。ではなんだと言うのか。
配下の言葉や料理長の言葉を思い出す。……特に思いあたりはない。
強いて言うなら、食事する姿を見られる事を好まない者がいると言うことくらいだが、フェンリルは我の目の前で普通にオーク肉食べたしな。それは無いだろう。
「今度は一体何が気に入らなかったんだ」
『これ、ジュエルベアよ』
「ほう?これが?」
『ああ良かった。流石にそれは知ってるのね』
「うむ。料理長が偶に狩ってきていた。だが普通に食用のクマだろう?」
『へえ……買って、ね。……一先ずアンタが結構な貴族なのは分かったわ。食べていいのね?』
我はそんな文字の違いには気付かなかったので、何故我が元とはいえ貴族と分かったのか疑問に思った。
まあ、勿論。どうぞと勧めると、フェンリルは先程までの遠慮は何処へやら。ガツガツと食べ始めた。
『(キロ10ジルドで取引される肉を買える家って事は、相当な貴族じゃない。どうしてそんな子がホーンラビットやらオークやらを狩ってるのかは知らないけど、訳ありね)』
我は更に毛並みを堪能していたので気付かなかったが、その時フェンリルは勝手な勘違いをしていたらしかった。
『(家を出されるときに、その料理長が大枚叩いて丸々一頭食料にってこの子に持たせたのね……。相当慕われてたんじゃない?この子……。
その食料を見ず知らずのアタシにあげちゃうなんて、本当にバカな子ね……)』
丸々食べて満足したらしいフェンリルが、我に向き合うと、静かに頭を下げた。
昔、配下の者が言っていた。獣の類、それも知性を持つものは気位が高く、忠誠を誓う相手にのみ頭を下げると。
つまり、これは我の配下に下るという意思表示だろうか。
『言ったでしょ。アタシは尽くすタイプなの。アナタ常識がおかしいワ。悪い人間にもすぐ騙されそう。だからアタシが助けてあげる。(料理長、アンタがこの子の為に用意した食料を、私が食べた。だからアタシは食料にはならないけど、アンタの代わりにこの子を助けるワ。)
ヨロシクね。主人サマ?』
(この時の我が知る由も無い事だったが、盛大な勘違いをした)フェンリルは、我の餌付けにより、我の配下に収まったのだった。
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