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しおりを挟む「んー…やはり、紺のリボン?」
『ワフ…(黒じゃイマイチ映えないものねぇ)』
「だがこの黒は上等だぞ。金糸で刺繍されていれば我の髪にもリィの毛並みにも映えるぞ」
『まあそうだろうケド、自分で縫えるほど器用なのかしら?』
「んー…」
ブティックで悩み抜いた我の現在の格好は、襟の大きな白ブラウスに、青のミディ丈サスペンダーなフレアスカート、ストッキングは黒、靴は青の編み上げブーツ。ケープ型のコートを羽織っている。髪はリボンで結い上げた。リィの首にも同じリボンが可愛く結んである。
既に自動状態回復魔法をかけてあるため汚れなど付かない。対魔対物完全防御魔法もかけているからそう簡単に我に怪我をさせることもできんな。軽く城を買える程には価値が上がってしまったが、まあ良いだろう。
「さてはて、次は何処へいこうか」
『その前に今日の宿の予約取りなさいよ。またあの冒険者達のオモチャは嫌ヨ』
「分かった分かった」
実は昨日コリー達の部屋に泊まった際、リィが従魔ではなく、我のペットに間違われた。まあ、小型犬程の大きさしか無いから仕方がないといえば仕方がないが。
宿までの道すがら見かけた例の店の前も静かなものだ。……昨日見かけた時よりかなり酷い事になってはいるが、既にあの性悪そうな男達はエルサ殿に回収されたようだな。パタパタと走り回る音がしている。中を片付けているようだ。
『チョット、ご主人?何考えてるのかしら?』
「興味本位だ。許せ」
ドアはまだ吹っ飛んだものが入り口横に立てかけられている状態で、どうやら店部分だけでなく、住居スペースも若干壊されてしまっているようだ。これでは生活すら儘ならぬだろうに。
「邪魔するぞ」
中もまだまだ酷いな。照明は割れてる、机椅子は足が折れたり天板が真っ二つになっていたり、床は顔料がベットリと付いているし、所々床板や壁も壊れてる。ついでにドアも壊れてる。
中では覇気のない人間が2人、壊れた備品を運んだり箒で床を履いたりしていた。…夫婦、だな?2人揃って我を見ていたが、すぐに男の方が前に出てきた。
「あ、あの…、すみませんが、どんな御用でしょうか?うちには今何もないんですが…」
そんなことは、見てわかる。
「2つ程確認したい。この建物が直るとするなら、直ぐにでも洋食屋を再開するつもりか?」
「え?あ、ああ。常連も来てくれるからね」
「うむ、よし。では、片付けを手伝ったら、少しの間、私に料理を教えてくれるだろうか?勿論店も手伝おう」
2人は顔を見合わせて、その後おずおずと首を縦に振った。
両手に集めた魔力を合わせるように胸の前に手を回す。今世で使うのは初めてだが、前世では割と得意だった魔法だからな。問題なかろう。
「《【回帰】セヨ》」
身体の中を魔力が巡って、足元から周囲に広がって行く感覚。我の魔力がその物質に触れた側から、ひとりでに正しい場所へと戻って行く。欠けた壁は破片が穴を埋めてヒビすら消えて、やがて破れた壁紙が伸びていき壁を覆う。割れたテーブルの破片も、ランプの破片も、全て壊れる前の状態に戻って行く。
そう、これは無機物への時間の回帰魔法。有機物への時間の回帰魔法はヒールとか回復とか呼ばれるものだな。我は使わなかったが、無機物への方はよく使った。
だって勇者が来るたび、城が半壊するんだもん。何であいつら建物ぶっ壊して来るんだよ。もっとお行儀良く戦って我が前に来いよ。…うん、まあ過ぎたことだからもういいや。兎に角、そう言うわけで我はこの魔法が物凄く得意になった。
「うむ。腕は鈍っておらんな」
満足。
「こ、これは…一体…?」
「ゆ、夢…?」
2人は身を寄せ合って怯えていた筈だが、いつの間にか荒れ果てる前の元に戻った店内を見て目を輝かせていた。
「ついでに外装も直してある。白ベースに色も塗りなおしてあるが、何か他に注文は?」
「い、やいやいや!なんだかよく分からないでけど十分ですっ!どうしようもなくて途方に暮れていたところなんです!ありがとう!!」
「本当にもう居住スペースまで荒らされて今日の夜もどうしようかと困っていたの!本当にありがとう!」
お、おおお?ここまで感謝されると逆に怖い。というか迫って来なくていい。圧がすごい。
「れ、礼には及ばん。それより料理を教えてもらいたい」
「「それは勿論!」」
材料の買い出しとか準備するから明日の昼間においでと言われた。うむ。そういうことなら。
店を後に、跳ね橋へと戻る。今日はまだ埋まってなかった。きちんと宿を取って、ついでに食事も頼んだ。
『一体どう言うつもり?料理を教えてもらうためだけにあれだけの魔法は釣り合い取れないワ』
「そうか?あの魔法、思っているよりも魔力消費は少ないぞ。我の魔力が触れたものに対して、元に戻れと命令しているだけの魔法だからな」
『…何と比べて消費量が少ないのかしら?』
「《地獄の業火》とか《輪廻転生》とか《時空間転移》とか?」
『それは普通の魔法じゃ無いから。余程の一大事にしか使わない大技だから。本当にいい加減にしてご主人サマ』
なんか知らんが怒られた。料理は大事なんだぞ?生きて行くために必要な食!それを美味しくするための技量!…そっちじゃない?飯の大切さを知らないと死ぬぞ?大丈夫なのか?
リィと薬草を着々と集めつつ、時偶遭遇したウルフをリィに気遣いながら討伐しつつ、料理による食料の効果増大について話し合った。リィは何故か終始そう言うことじゃ無いと呟いていた。
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