前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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このエディンの北に位置する広大な砂地には、かつて栄えた大国があった。
その国名はダリオン。
莫大な魔力量と底なしの体力、そしてなにより剣の腕でその者の右に出る者がいないと言われ、僅か数名の仲間とともに偉業を成した英雄の名前からつけられた。

しかし、ある日、ある時。国は一瞬にして滅んだという。真っ暗な闇に国が包まれ、三日三晩、結界で外と隔てられ、中に入ることも、また出て来るものもいない。
やっと闇が晴れた時、その国は枯れ果てていた。
溢れかえっていた人々の姿はそこには無く、建物は朽ち果て、地面は割れて、魔物が好む悪い気ばかりが充満した呪われた土地となっていたという。

段々とその周辺にも影響が出始めた事により、各国の王たちが自国の精鋭達を派遣、その元国自体を呪いと見做して地下深くに封じた。残ったのはどれだけ手入れしても何も得られない広大な砂だけの土地。死の砂漠と名が付けられ、立ち入るものは居なくなった。

…が、しかし、最近になってその土地に迷宮が出来たという。学者達の調査によれば、かつて封印されていた呪いが強くなっているが封を破る事が出来ず、元々の封の中で暴走して…つまりダリオンという街自体を"魔化"させ、それにより、迷宮として成立してしまったのだろう。という事らしい。


……ダリオンか。そういやいたな。我に向かってきた勇者の中にそんな名前の奴が。我が魔王としての生活に飽きてしまった時の、一代前の勇者もそんな名前だった気がする。

コリーが本当にそんな街があったのかは御伽噺だけどと笑っているし、ミエラもルナも同調しているので、冗談だと思っておこう。御伽噺か。そうか。じゃあとりあえず突然変異で出来た迷宮に、後から人間が面白おかしい話をでっち上げたという事にしておこう。その方がいいだろう。御伽噺では無かった場合、その国を滅ぼしたのは"身内"な気がして居た堪れないからな。

「それで、ここからが本題。
その迷宮になってしまった元国にはかつての王が溜め込んだ黄金が今も眠っているという噂があって、それを密かに信じている貴族が王都には数多く居るんだ。
うちに指名依頼をくれる貴族もそうでね。そこからの依頼で、その迷宮にあるかもしれない"勇者の剣"を探してきて欲しいらしいんだ」

……"勇者の剣"とは、またピンポイントなものを所望することだ。
しかし、本当に御伽噺と思って、依頼者であろう貴族が年老いてきてるから妄言だろうとか小馬鹿にして居るコリー達の様子からすると、彼女らは知らないのだろう。かつて魔王がいた事も、それを倒そうと躍起になった王共や、魔王を討とうとした勇者という存在が本当にあった事も。
数百年程度で過去が虚構の御伽噺となるはずもない。数千年は経過して居るのだろうな。我が魔王として君臨した時代から。

図らずとも時代の違いを感じてしまう。これがジェネレーションギャップという奴なのだな!

「ただ、迷宮というだけあって、危険な事からそこの迷宮に入るには4人からという暗黙の了解があってね。私たちのパーティーは3人。1人足りなくて受けあぐねて居るんだ。一応その貴族は私たちの資金援助をしてくれてる関係で受けない訳にはいかないけど、決まりを守らないとその後の活動に支障が出るかもしれないんだ」

……依頼が貴族からという時点で、恐らく勇者の剣はその迷宮の中にあるだろうな。何せ、王侯貴族達は殆どが魔王討伐の為に金も人も注ぎ込んでいたのだ。今の貴族とてそいつらの子孫。あの金銀財宝に目が眩みまくっていた貴族たちなら、自分の子孫にいつか忘れた頃に勇者の国から勇者の遺品の金銀財宝奪ってしまえくらい言い残してそうだからな。
そこが貴族と平民の違いだな。

「…魔化していると言っていましたが、迷宮に踏み入れても問題無いんですか?健康面とかに」
「そこは問題ない。今までに何人も冒険者が入って無事に帰ってきてるからな」
「まあその人達も宝なんて見つからなかったみたいだから、今回私たちを行かせるのはただの悪あがきなんだろうけどね」

見つからない宝か。ふむ。面白そうと思わなくも無い。
アルバイトも特に入っていない。あとはどのくらいかかるのか、だが。

「ここから馬で1日半くらいかな」

となると、我の足ならその半分か。

『一緒に向かうとなれば、1日半移動にかかるワネ。ベッドで睡眠がとれないワ』

…それは嫌だな。我、しっかり眠りたいタイプだから。移動中の夜営とか火の番とかしたくない。よし。

「同行するのに条件を出してもいいですか?」
「どんな条件かな?」

コリーは顔を曇らせた。ああ、そう心配せんでも命を寄越せとは言わんぞ。

「現地集合、現地解散でいかがでしょう?」

ちらり…と、気絶してるルナに視線をやってから言えば、コリーとミエラはすぐに了承した。コリー達は明日出発したいという事なので準備があるからとそのまま解散。
因みにその後目を覚まして、当日我が現地集合・解散と聞いたルナは血の涙をながしたとか流していないとか。

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