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しおりを挟むコリー達が出発した翌日早朝。我はしっかりベッドで睡眠をとって満足。うむうむ。今日も良い天気だ。
「さて、そろそろ行くか」
『あの子たち、昨日出てるからそろそろ着くんじゃないノ?』
リィを頭に乗せて街を出る。門番も最初は我の格好に戸惑い何度も身分証を確認の上ギルドまで連絡を入れたものだが、今となっては慣れたもので、気軽に見送ってくれるようになった。慣れとは恐ろしいな…。
まあそれはともかくだ。
「徒歩で向かっているらしいから、早くとも迷宮への到着は明日の朝だろう。追尾させているが途中乗りのもを使った様子はないしな」
先日別れ際にミエラの影にちょっとした仕掛けをしておいた。我の影の一部(とはいえ小指の先ほど)を千切って紛れ込ませておいたのだ。
まあ気付くはずもないだろう。たまに勘が鋭い奴がいるが、それも本当に高ランクのごく一部。少なくとも、Cランク程度では違和感すら持たれないだろうな。
「大した獲物とも遭遇していないようだから、もう少し早いかもしれんが…我の方が早く到着しそうだな」
『チョット。今追尾って言った?』
「…言ったな」
『何で?』
「いや…、とりあえず?」
『……どこまで分かるの?』
「基本的に位置。少し集中すれば周囲の様子や会話も聞ける。時間とその時の移動位置がわかれば、どのくらいの速度で進んでいるか分かるし、それによって移動手段も推定可能だ」
我、以前はこれで勇者の位置を把握して配下に伝えて気に入らない小賢しい下っ端を送り込んでいた。勇者の出立の際には毎回盛大にパレードを行っていたからな。勇者の通る街道には人が溢れており、我が紛れ込むのは簡単だった。
散々仕込んで来たが、気づいたのは数代前の本当に魔力も器量も桁違いの僧侶だけだったな。それも神のお告げとやらでだが。
少々思い出に浸っていたら、何故かリィがドン引きしている。どうした。
『アンタ…、絶対、それをプライベートで使っちゃダメよ。あの子たちと無事合流したら、やめてあげナサイ』
「ん?うむ。今回はギリギリまで我が街でゆっくりする為に仕込んだだけだからな、他で使う予定はないぞ?」
我、婦女子のプライベートは暴かない主義だ。勇者は基本男なので気にせず情報を取るだけとった。奴ら宿の中だとかなり油断するからな。暗黙の了解で襲わなかったが、正直そこから得た情報でいつでも殺せた。社会的に。
詳しくは言わんが、我の方がまだ健全だったと言っておこうか。
『…止めるべき?いえでも、この子悪用とかする頭は無さそうだし…。…けど乙女的には…。……よし、そうね。聞かなかったことにしましょ。アタシは何も知らなかった。これで完璧』
何やらブツブツとリィは呟いていたものの、自己完結したらしいので、当初の予定通り、我は北部の迷宮に向かって走り始めた。
……向かっているのは良いのだが、
「生き物多くないか?」
『それよりご主人がこのスピードで数時間休憩無しに息も切らさず走ってることの方がアタシは不思議ヨ』
「当たり前だろう。我、走ってないもん」
『は?』
「足は不審がられないように動かしているが、実際は地面スレスレを飛行しているからな」
魔物が多い。実に多種多様で、ウシやこの間我が狩った鳥の子供や、…獅子にヘビにブタにと…うむ。何だこの実に愉快な動物の巣窟は。
進行方向的に最短距離を進みたいが為、前を通過もしくは停留しているものに関しては容赦なく蹴り飛ばして進んでいるのだが、そろそろ蹴る足が疲れてきた。やはりベースが人間の身体だと、身の丈以上のウシを蹴り上げるのは中々の負荷らしい。
「リィ、蹴り飛ばして進むの疲れてきたから、そろそろ働いてくれ。一度殺気を込めて吠えてくれればいい。ここにいる中でリィより格が上の獣はいないようだから、それで解決。奴らが皆逃げていけば我ももっと早く進める」
『イヤよ。アタシが吠えて魔物たちが逃げて、それで誰かが襲われたらどうするワケ?』
居場所を追われて移り住んだ魔物が先住民を追い出して、その追い出された民族が周辺を襲ってというのはよくある話だ。…うむ。だからといって、我が障害物を避けて進むというのはいかがなものだろうか。嘆かわしいことだと思わないか?
『ご主人は圧倒的強者デショ?ならあの程度の魔物たち、見逃してあげなさいヨ。一寸の虫にも五分の魂ヨ!』
「うむ。確かにそうだ。どんなに小さな身体であろうと、命は命。我と変わらん」
『そうネ、だから早く通常の補装された道に戻って』
「ならば対等な命として、1匹残らず我の晩餐の食材にしてやろう」
料理長は言っていた。
「"大抵のものは食材になるのだから、邪魔になるなら敬意を持って己が血肉に変えるが吉"」
恐らくこの草原を通る者がいれば、ギルドに報告がされた上で討伐依頼が出るだろう。なら先に仕留めようが問題無し。幸い我が調理法を知らんのは獅子とヘビくらいだからな。他はきちんと美味しくいただくとしよう。
「リィ、仕方がないのでここらで軽い運動をしようと思う。逃すのがお好みでないと言うのなら、獲物が逃げないように道を塞ぐくらいはしてもらえるな?」
リィは渋っていたものの、それくらいなら、と引き受けて我の頭の上から飛び降りた。そしてすぐに本来の大きさに戻る。
周囲の獣たちも本能的に危険を察知し始めたのか、狩られる前にと反射的に身を翻す。
『チョット!?この美人を前にして逃亡するとかいい度胸してるワネ!!漢ならアタシを口説き落としてみなさいョォ!!!』
リィの遠吠えが響く。これ、魔獣たちに聴こえているのだろうか。予想外にリィがやる気になってくれたので、思ったよりも早く美味しい昼飯食えそうだな。
『ご主人!サボってないで早く!』
「うむ!」
その吠えに催促され、我も近場の鳥から包丁を入れ始めるのだった。
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