前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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案の定、我には姿の見えぬゴーレムとやらに我が突進してもぶつかるなんて事はなく、綺麗にすり抜けた。

ぶつかる直前リィ達が喚いたが、無視。我、超心配されてる。ちょっと嬉しい。
前世も今世も、我が柱にぶつかろうが階段から落ちようが心配なんてされなかったし。

前世配下には遊んでないでちゃんとしてと言われたし、料理長は我がぶつかって転んだと聞けば、何でぶつかった相手方や物の方をぶっ壊さずに自分の方が傷付いているのだと怒られた。その後手当をしてくれるのだが、呆れは感じつつも心配の色は無かった。ショック。

さて、それはさて置き、今は聖剣とやらの行方だな。恐らく今まで踏み入れたもの達は皆、先程のリィ達のように幻影に囚われて財宝が例え目の前にあっても気付かなかったのだろう。何故我だけ無事かというなら、…強いて言うなら、この魔力量だろうか。幻術というのは所詮小細工なので、かけた者よりも力が強い者には効かないからな。

家々をひとつづつ回るのでは埒が開かないので、我の影に魔力を混ぜ把握の手を広げていく。四方八方のあらゆる建物に向けて。建物の影は繋がっているからな。どれかと繋がりさえすれば、我と繋がる。繋がってしまえば何が何処にあるのか把握するのは容易い。

お宝の類は街の中央に集まっているらしいな。中心部に向けて建物も大きく、そして部屋数も増えていくことから貴族とか豪商クラスの邸宅と判断。

…やはり、この街自体が幻影なのだな。

外見は全て、同じ形同じ大きさの四角い家々に見えるが、魔力でなぞればあるべき場所にあるべき家が無い事も、そもそもキューブ型の家など1つもないし、誰もいないのではなく、生きている者は誰もいないという事が容易く分かった。

魔力を目に集中すれば、この迷宮…この街の本当の姿が見える。
恐らく、滅んだ当時の街並みが。

相当栄えたのであろうこの街の大通りに出て、進む。ボロボロの服を着た骸…最早灰と化した骸骨が彼方此方に転がっている。中心部へ向かう毎に平民から、衛兵、貴族と段々服装が変わり数が増えているが、結局のところ骸である事に変わりはない。

「…懐かしいな」

懐かしい景色だ。戦場ではよく見た景色だ。
懐かしい魔力だ。そこかしこから漂い、恐らく目的の物に向かって濃くなっていくその呪いも。とてもよく、覚えがある。

数十年どころか、数百年を経ても残る呪いなど、相当恨んだのだろう。此処まで恨むほどの事を、この国を作った勇者がやらかしたのだろうから、我の知ったことではないが。

そもそもここの勇者、歴代の中で1番堕落的で卑しくて強欲で傲慢で、我大嫌いだった。我のところに来る道中では全力で嫌がらせしてやったし、魔王城では器物破損した分殴って身包み剥がしてパーティーメンバー共々全裸にして王都に送り返してやった。女人にはきちんと配慮して、聖女はサキュバス達の正装(超際どいボンテージ)姿にしてやった。

思い出に浸りつつも足は止めない。
我、呪いも無効だから此処にきても問題無いし。リィとかコリー達連れてきたら一瞬でゾンビ兵になっただろうな。呪いで。


たどり着いた先は案の定、金の装飾だらけの成金丸出しな趣味の悪い王城で、玉座の間まで骸は続く。
王座を乗せた小高い階段の上には、恐らく王であろう価値ある宝飾品に身を包んだ骸骨が、剣に胸を貫かれた状態で床に磔にされていた。正に王座から引き摺り下ろされてトドメ刺されましたと言った感じだ。

絵画として残したいな!斬新!我の好み!タイトルは簒奪王の衰勢で!!

楽しくなったので近づいてみた。
階段を上がっていけば、そのガイコツがよくみえる。刺さっているのは予想通り勇者の剣だ。ただし、この呪いの大元もコレだがな。最早聖剣とは言えない呪いの代物だな。この剣の柄から切先までびっしりと呪いが巻きついてる。貫かれたであろうガイコツの骨も、剣から移ったであろう呪いに侵食されている。

ふくく。愉快。コレがあの小生意気なクソガキ勇者だと思うとより愉快。末路がこれとは情けない!末代まで笑える。……あれ?コイツの末代、もうガイコツか?

そこら中に転がってる中に血縁いるだろうか。まあ、結局何処を見てもガイコツだからどれか分からんのだが。


……現実逃避をやめて、再度元聖剣を見る。…腹立つ。へし折りたい。呪い食らってだいぶボロボロだし、我しかコレがまだ剣の形をしている所を見てないから折っていいだろうか。
まあ、折るにしろ、何にしろ、一度コレに触らなくてはいけない。

だがこういうのはアレだろう?触った途端来るだろ?絶対来るだろ?料理長も言ってたぞ。宝にはトラップが付き物だと。見つけたらとりあえず塩撒いておきなさい、と。しかし、残念ながら塩は先ほどの朝食で使ってしまった。

だから我好みのガイコツのポーズを見て笑っていたのだが、コレを持って帰ることが目的である以上、結局触る事に変わりないから致し方ない。

「では、……失礼」


一応料理長に言われた通り祈ってから(我、魔王なのに何に祈ると言うのだろうな?)、思い切って剣に触れた。

途端に吹き始める嫌な風。剣を中心に巻き起こったのは黒い竜巻。我が飛び退き、警戒する先。竜巻が消えて玉座にそれは現れた。

鋭い牙があるわけではない。目もなければ、そもそも顔と呼べる部分もない。ただ闇が形を取っていると言うしかないそれが、我を見下すように聳え立った。

……ああ、料理長の言う通り、ちゃんと塩撒けばよかった。

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