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しおりを挟む拝啓料理長。
いかが過ごしているだろうか。家を出てもうじき数ヶ月。今日の先程まで、きちんと料理長の教えを守り、平穏無事に過ごしてきた我は、ここに来てより、料理長の偉大さを噛み締めている。
我が聖剣に触れた瞬間現れた闇の化け物。
藁にもすがる思いで、(別に縋る気はないが何か役に立ちそうなものがないかなとは思った。)先程街中を通りながら影を使って収納した物を漁りに漁った。
すると!なんと!どこかの家の台所の調味料セットがあり、そこにあった塩を見つけたのだ!!!
そして撒いたら、溶けた!
しゅうしゅうと音を立てて小さくなっていったそれは、最終的に撒き散らした塩に隠れて見えなくなった。
料理長!ありがとう!!今度からはきちんと撒く用の塩と分けて持ち歩くと固く誓おう!!
るんるんと再度聖剣に歩み寄った我。あの黒いの消えたら聖剣についた呪いもそこかしこを侵食していた呪いも消えたな。……そこは消えなくてよかったのに。勇者の霊魂共々呪いに縛られてあと半世紀はこの世を彷徨ってほしいのだが。
塩に溶けた闇の残骸を見れば、山盛りの塩の中に何やら光るものが。
掻き分けて、見つけたのは、とても見覚えのあるものだった。
「……なぜ、こんなところに」
そこから我が何をしたのか、正直記憶はないのだが、気付けば我は聖剣を粉々にし、その場にあった勇者のガイコツに対して呪いをかけていた。先程までは"誰か"がかけていたこの迷宮全体への呪いを、一度解除して今度は我が呪ったという状況だな。
……はて、何でこうなったのだか。あれれ~?おっかしいぞ~?(見た目は可憐、中身は魔王)
まあいっか。剣は粉々だし、呪いは継続だし。我としては満足。剣をその辺で拾った麻袋にぶち込んで(たった今ぶっ壊したとバレないように所々風化させてさらに削っておいた)、我は拾った"それ"を傷が付かぬように手布で包んでから、腰に巻きつけたポシェットに閉まい、意気揚々ときた道を戻った。
……勿論道中ガイコツやら壁やらから、金や宝石、宝飾品の類を引っぺがしながら。
前世の行いを悔いるがいい。
リィ達と別れた場所まで戻ってみれば、リィが大変お疲れの様子で寝そべっていた。……ちょっと痩せた?
我を見つけると鬼気迫る勢いで側まで寄ってきた。
『ご主人無事ね!?』
「うむ。問題ない。それよりリィは大丈夫か?随分疲れているようだ」
アタシも問題ないワ。目を離すとすぐ何かやらかすご主人が近くに居なくて気が気じゃなかっただけヨと言われた。遠回しな言い方だが、もしかして我、心配されてた?やだ、キュンとしちゃう。お礼に回復魔法を纏わせた手でしっかりマッサージをしてやった。
『あの小娘達は先に外出てるワ。
急にゴーレムが消えたら、街の様子が一変してそこら中に人間の成れの果てが転がってるのを見て気分悪くなったそうヨ。また直ぐに元に戻ったケド、まだまだ青い子供にはショッキングな光景だったみたいネ』
……我が塩撒いたあとの一瞬呪解された時の事だろうか。それにしても、あの程度で気分悪くなるなど、冒険者として致命的ではないか?
「…首だけ吹っ飛んだ100のゴブリンの方がよほど精神に来そうだがな」
『ハァ。そこは同族だからに決まってるデショ。アタシだって同種の奴らが白骨化してそこら中に転がってたらビビるワよ。……ご主人は大丈夫なワケ?』
「毛程の恐怖も感じんな。寧ろその場でバーベキューまでいける」
料理長は言っていた。死者を弔う気があるなら、その場でバーベキューが1番だと。誰も寄ってこないから、肉食べ放題。邪魔されないと。
配下も言ってた。我と食事を共にする機会など先ず無いのだから、死後とはいえ、共に飯を食えたらそれは本望と。
『流石アタシのご主人…。肝の据わり方が異常だワ』
「…我、褒められてる?」
『褒めてるわ。一応』
そうか。ならいい。……一応?
それより、とリィが我の持っている麻袋に反応した。…リィが齧って楽しいものは入っていないぞ。
『何を拾ったのかしラ?』
「聖剣だ。元、聖剣と言うべきだろうがな」
かなりの刀鍛冶でも既に修復は不可能であろうそれを見せてやれば、リィも確かに元だわと納得した。剣の折れた所を確認しても我に何も言わないので、隠蔽工作は無事出来たと言う事だろう。我、凄い!
この一件に関しては多分誰も我を褒めてくれないので、自分で自分を褒めておこう。
『回収品で依頼の品の割に、扱い雑すぎない?』
「ん?そうか?」
袋に入れておいただけ、まだマシだと思うが。
『いつもなら収納するでしょ?』
「なんで聖剣なんぞを丁重に扱わねばならんのだ」
『…依頼品だからに決まってるデショ』
だとしても我、これを収納するのは嫌だ。あの男が生前最後まで使っていた手垢のついた剣なんなんて。ばっちい!
「汚いものは余程の価値がない限り拾っちゃいけませんって料理長にも言われたもん!!」
『もん、って…。いや、まあ確かに、ボロボロに壊れてて汚いと言えば汚いケド…。…せめて入れた袋を引き摺るのはやめなさい。コリー達が見たら卒倒するワ。ほら、重くて疲れたならアタシの背に乗せてもイイから』
「…ならちゃんと持つ……」
リィにこんなの(布越しとはいえ)乗せるのは絶対ヤダ。我、基本的にレディーには優しく紳士にがモットーだけど、コレはムリ。どうせ依頼主に持っていくのはコリー達なので、もうさっさと引渡してしまおう。
「早く外に出てコリー達に押し付けたい」
『どんだけヤなのヨ…』
リィが物凄く不思議そうにするが、我自身も不思議に思う程に忌避感があるのだ。やはり、コレを使っていた人間を知っているのが大きいな。
「……二度と手に取りたくない」
『(そんなに…?)』
外に出て直ぐ、コリーに元聖剣が入った袋を投げ渡して、急いで両手を浄化した。コリー達が何事かと我を見ていたが、もう知らん。我、依頼達成したから!あとは知らん!
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