前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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事前の条件通り、コリー達とはその場で解散した。

我はエディンに戻る為に南下、コリー達は依頼主の元へ向かう為東に向かうそうだ。丸5日くらい歩くと王都があるらしい。暫くは彼方にいるので、訪れた際にはギルドを通じてでも声をかけてほしいと言われた。

聖剣(ばっちいの)を届けさせるので、お礼を兼ねて小袋に拾った宝石とかを入れて渡しておいた。食料?ありがとう、と笑顔でもらってくれたので、後でギルドに行く前に確認するようにと伝えて笑顔で見送って、我もリィと共に帰ることにした。


『…で、大切に仕舞い込んでるソレは何なのよ』

迷宮から出たのは昼も過ぎた頃。帰りも魔物を蹴散らしつつ走っている最中に、リィが声をかけてきたので立ち止まる。
ソレ、と言いながら我のポシェットに鼻先を近づけるリィ。

「気付いてたのか」
『聖剣との扱いが雲泥の差だったから、さっきは質問しなかったのヨ(機嫌も悪そうだったシ)』

そんなに気になるなら見せてやろう。そう思って気をつけてハンカチを取り出す。
指の先程の大きさの藍色がかった青の宝石のピアス。長年砂に晒されようが傷一つないつるりとした表面は、これに懇切丁寧にかけられた魔法のおかげなのは間違いない。

「美しいだろう?」
『…まあ、綺麗だとは思うケド』
「そうだろうそうだろう」

何せこれは、我が自ら取ってきた石なのだ。流石に加工は本職にやらせたが、最初から最後まで一度も我は目を離さなかった。我が配下に贈った耳飾りだ。……なぜあんな場所にあったのかは知らんが。

『でも、……"アンタ"は宝石で飾るにはまだ早いワヨ。……色気足んないもの』
「む。我とてそっち方面で着飾ればそれなりになるぞ!それに、この耳飾りは我が付けようと思って持って来たわけではなく……」

はたと気付く。そうだ。これは、前世の我が、配下にやったもの。しかし…我に、…アリスにとっては、馴染みのないただ綺麗なだけの耳飾り。付けようと思ったわけではない。しかし、手放すのも嫌だ。我はもう魔王ではないが、それでも、魔王としての過去がこれを手離すなと叫ぶ。……アリスとしては、許されない事だろうか。

『…ま、気に入ったならそれが理由でイイじゃない。ご主人サマは、冒険者。それが素材とか迷宮の鉱物とかを持って帰るのに理由は要らないデショ。
それより、アタシが言ってるのは、ご主人は中身は兎も角まだまだうら若き少女で、宝石で飾るには勿体無いってコトヨ』
「む?」

我の事、貶した?賛辞した?

『このアタシが認めたご主人だし?成長して外見と中身が釣り合うようになったら天真爛漫な妖精から妖艶な美女に様変わりするワよ。問題は色気抜群の美女には今着けてる大きなリボンは似合わないってことネ。宝石ならハマるケド。今のご主人には絶対リボンよ。異論はあるかしラ?』
「……ない」

我ももっとリボンとかフリルとかの服着たい。サキュバス路線は淑女あたりになってこそだと思っているからな。だからこそ童女か淑女か結論が出なかったのだ。
……待てよ?つまり…。

「…この耳飾りの石を、髪飾りの一部にリメイクすれば良いということか…?」
『天才』
「そう言う事なら街の雑貨屋が閉まる前に行かねばならんな!リィ!全速力で戻るぞ!」

そんなこんなでエディンへと帰還した我は、その後雑貨屋でリィと共にリボンの素材、結んだ時の大きさなどをじっくり吟味。無事納得のいく品を手に入れて、空いてる宿を探している最中、リィから、何か悩んでたみたいだけど結論出たの?と聞かれた。

…我、何か悩んでたっけ?

そう切り返せば案の定リィに呆れられたがまあいい。
我は価値ある一品を手に入れた…!

漆黒のサテンで出来たリボンは滑らかで光沢がある。我の黒髪に生えるよう、金糸で刺繍を凝らし、結び目の所に青色の宝石が光る。どこぞのご令嬢共が見たら強奪して、更に姉妹間で醜い争いを繰り広げそうな品だ。

……いや、待てよ?このリボンをちょっとこうして…。うむ。

「チョーカーにするのも、アリだな…!」
『悪くないワね』

我の肌、白いから黒は際立つ。いやしかし、それなら黒の単色、レースにする事でより宝石も目立つようにした方が…!

『そんなに悩むなら、チャームにして髪飾りとチョーカーで付け替え出来る様にすればいいじゃナイ。耳飾りに戻すのも楽そうだし』
「リィよ……。天才か?」

……とまあ、リィと共に宝石を付けた可愛いアクセサリーを追求し明け方まで白熱した議論を繰り広げた。些かテンション上がり過ぎた感は否めない。

そんな我らは丸一日宿で休眠を取り、翌日漸くギルドへと足を運んだ。借りまくった魔物やら素材を買取してもらう為にな。流石に爪とか牙とか毛皮は食えんし。骨なら煮て出汁に出来なくもないのだが。


「まあ、食材に成らないと言うのに金にはなるからいいか。不思議だな。宝石でも無い、ポーション等の効率良い素材でも無いのに、食い物以外に価値があるとは」
『ご主人のその食べ物以外への低評価なんなのヨ…』
「む!?それは心外だ。我、可愛いものに対してはきちんと評価するぞ!」

可愛いの価値は無限大!
時に食べ物さえも凌駕する!

「盗賊達の前に可愛らしい少女とジュエルベアを置いたら盗賊達は大喜びで少女まっしぐらだろう?鼻の下伸ばして舌舐めずりしてイヤラしい男共が群がるのは鳥肌ものだが、つまり可愛いが最強」
『アウト。その例えは精神衛生上よろしく無いと思うワ。百歩譲ってジュエルベアが解体済みであったと仮定しても、ご主人の言う通り、その2択なら前者を選ぶでしょうケド。
兎に角グレー通り越して黒な例えはダメよ。女の子デショ』

む。確かに。我、今可愛い子だもんな。

「失礼した。でも可愛いは最強なのだ」
『それは分かったワ』

ならよし。


満足してギルド会館に報告後、素材を売り渡した我の前に、突然それは現れた。

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