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しおりを挟む「木、ですか?」
「うん。木」
この辺でいいか。
我らは今、王都から程近い森の近くにいる。広い場所が必要だったのでな。
…うむ、まあ木だからな。それなりに大きい。ゾドムが切って一部持ってけばといったくらいには大きい。
目測でゾドムを縦に8人分の高さはあった。
それ全体を飲み込んだので、出すには広い場所を要するのだ。ただ少々、問題があった。
我が収納してる間に、どうやら収納空間内に充満した我の余分な魔力を取り込んでデカくなったようなのだ。それ故に余計に広い場所が必要でな。
「…あ」
「え」
『ハァ!?』
うむうむ。流石、我が魔力を養分にしていただけはある。
「…アリス様、よくこんな物、収納してましたね」
うん。我も驚きで内心首を傾げている。
「絶対こんなに大きくなかった」
8ゾドムが20ゾドムになっていた。
発光が前より強い気がする。料理長は前に出て、木を観察している。……ほう。
「心眼とは、珍しい」
『心眼ですっテ?』
鑑定系の能力だな。大変稀有なもので、確か魔力値くらいまでは測れたはずだ。
本来超強敵が現れ、死闘を繰り広げた際に稀に境地に至り獲得する事ができる能力のうちの一つだな。
心眼というだけあって心を読むとも言われているが、真偽の程は定かでは無い。
まあ、料理長なら持ってても何ら不思議はない。それを使ってじっくりと観察している。
「料理長、これ何かわかる?」
生憎と、我、魔王という長い長い魔生の間にしたガーデニングは、せいぜい果物の木の栽培ぐらいだから、他の植物なんて知らんのよ。
我に分かるのはそれが持つ性質や能力、体力、魔力値その他諸々という事だけである。その気になれば何を考えているかまで分かるだけ。
ただそれだけである。
うーん、つまりだな、とある果物があり、それがどれだけ甘くて美味しくて毒がない上に美肌効果や疲労回復効果があるものだと分かっていても、それが何という名前の果物かは知らんという感じだ。
「……私も、生きた実物を見るのは初めてですが、……恐らく聖霊樹の類かと」
精霊樹。まさかのここで精霊樹。
「……この木、二つの性質持ち…?」
多分、我の魔力を吸ったせいだと思うのだが。
料理長は驚いた様子。
「アリス様は、それすらも見えているのですか…。残念ながら私程度ではこの木の性質までは把握出来ておりません。
ですが、魔力で育つ木があるとすれば、それは精霊が眠っている精霊樹のみです」
知り合いの精霊研究者に聞いた話なので間違い無いですと断言された。いや、別に我は料理長を疑うなんてことしないぞ!
その言葉にまじまじと木を観察する。
流木が如き白色の幹や枝は、生命力を感じさせない。実際、恐らく木としては死にかけのからっからな状態なのだろう。が、しかし、その枯れ果てた中に、我の魔力が流れ込んで、…なにやら元々この中で眠って死に向かっていたであろう精霊自身の魔力と混ざり始めている。
…魔力的に、我と精霊って相性あまり良くないんだが、食あたりというか、魔力あたりしないのだろうか。それとも何でも食べて生きてやるという雑草根性だろうか。よいぞ。我、そういうめげない奴、嫌いじゃない。
「…そうか、精霊樹か」
前世では精霊が眠るような世界ではなかったから、我が知らなくても当然だ。
そうかそうか、精霊か。基本的に穏やかで、可愛らしいものだったな。下位の精霊は物凄く小さいか光の粒みたいなもので、我が身じろぎしただけで飛んでいくくらいだった。しかし上位にもなると、人形をとり、力の大きさによってその体の大きもかわっていた。
我が見た事のあるのは、最大でも人間の子供サイズだった。可愛かったぞ。白い肌、持つ性質により変わる髪色と瞳、自我がある個体は感情も豊か。
悪戯が得意で、我と共に人間界では妖精の悪戯といわれる迷子案件を増大させたり、幻覚魔法対決をしたり…楽しかったなぁ。幼な子と遊ぶと、純粋に心が洗われたものだ…。
……何故かその後、配下達には怒られたけど。我は魔族として強すぎて、精霊達は一緒にいると疲れてしまうそうなのだ。
因みに、幻覚魔法で勇者一行を揶揄って遊ぶことについては全くもって怒られなかった。いぇい。
そういえば、精霊には今世でまだ一度も会っていないな。上位はともかく、下位にすら。
清い場所にしか住まないあの子らは、余程現世が気に入らんらしい。まあ文明は発展したものの、余計に欲まみれだから当然と言えば当然なのだが。
「アリス様?」
今世なら、種族的に人間ではあるアリスなら、精霊とも良き隣人となれるだろうか?
「お前はどう思う?」
聖霊樹の中にいるであろう精霊に我が問いかけ直接手を触れた時、それは起こった。
既に取り込まれている魔力が蠢いた。
白と黒が均等に混ざる途中で、逆らった黒が白を覆ってのみこむように。取り込まれている我の魔力が、精霊の残滓のような魔力を食らった。
焦って離れるものの、マズイと思った時には遅い。
木はみるみるうちに縮んでいく。やがて我が初めてこの木を見た時と同じくらいの大きさに戻ってしまった。
我何もしてないからな!……やってないからな!!
「…アリス様、根元をご覧ください」
「え」
料理長が示した場所には、白と黒の花弁が混在する花が一輪、咲き誇っている。それは揺れて、リンと冷たい音を立てたように見えた。
そして、風が吹き荒れた。
「アリス様!」『ご主人!』
料理長と元の大きさに戻ったリィが我の前に入って戦闘態勢を取った。そんなに焦らんでも。
『深潭の君の気配がする…』
暴風が止んだ時、そこには花ではなく、精霊がいた。あの花をそのまま女性にしたような姿で、我はそれを見た事があった。
あの時、迷宮から出た際に。
『やっと、気付いてくださった…!』
その精霊は、虚な瞳に我の姿を捉えると、花もはじらうような顔に感涙を浮かべて、我との間に入っていた筈の料理長やリィが反応するよりも早く、我に縋り付くように抱きついた。
…残念ながら、花の香りはしなかった。
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