63 / 136
63.
しおりを挟むコリー、ミエラ、ルナが消息不明。
その知らせを受けたのは、翌日なんとか話を飲み込んだギルマスから召集を受けた時である。といっても、驚かなかったが。
「料理長がいってた」
そう。前日、料理長が教えてくれたのである。といってもあの3人という特定はしておらず、エディンから王都への要人護衛の為にエディンへ向かったCランクパーティーが行方不明という話を聞いていただけだが。
そういや、コリー達、エディンで任務あるからって出発してたな。途中すれ違う事が無かったので、てっきり既にエディンに到着しているのだと思っていたのだが、行方不明になっていたらしい。
「一応どの町まで行ったのかは分かっているんだが、町を出た後からの消息が不明だ」
「得意先の知り合いの所に寄っていくと言ってたぞ?」
「…その得意先には話を聞いたが、知らぬ存ぜぬで調査が進まん。そもそも、その得意先の貴族の知り合いっていう奴が、消息を絶った地点から次の町までの間に居たっていう確証が無い」
「……というと?」
エルサ殿が地図を取り出し、説明する。
「彼女達が最後に立ち寄った町がここ。そして次の町までは草原と森と川しかありません」
「森の中に家があるとか?」
「そんなものがあるとするならすぐに分かります。あの3人が消えたと報告を受けてすぐに調査隊を派遣しましたから」
検索に長けたベテランのBランク冒険者達です。と、言われても我にはイマイチ分からんが、料理長が納得しているので、例え森の中に隠れるように住んでいたとしても見つからないはずがない事は理解した。
「……その得意先の貴族は今どこに?」
「一応エディンの別荘で待機してもらってはいる」
曰く、いつぞやの小悪党と違って良識ある貴族らしく、未だに見つからないコリー達を心配はしている為、協力は惜しまない、と取り調べにも快く応じてくれたし別荘で無事の報せが来るのを待っているらしい。
「我が直接話を聞きたい」
あの勇者の剣をダメ元でコリー達に依頼したという人物だろうし。
それに、冒険者を子飼いにして危険極まりないと思われる迷宮に送り出す貴族が、本当に"良識ある"貴族か、気になるからな。別に違法とかでは無いだろうし、コリー達も定期的に仕事を貰えるから確かなお得意様ではあるのだろうが、我はイマイチ信用できない。
…こればかりは、一応貴族だったせいでもあるだろうが。
「…アリス様、私が聞いてきましょうか?」
料理長がそう申し出るのは無理もないことかもしれない。何せ、アリスの義母が最初にアリスに暗殺者として送り込んだのは子飼いの冒険者だったのだから。ほらな?冒険者を子飼いにする奴にろくなのは居ないだろう?
「問題ない。遅れも取らない」
そもそも余程のことがない限り、我に何かするのは不可能だ。
「…話を聞くのはいいが…相手は貴族様だからな?失礼のないようにしろよ?」
物凄く不安そうなギルマスに対して、我と料理長は至って普通に大丈夫だと応える。何故って。そんなの決まっておろう。
我、これでも元令嬢ぞ?
貴族に会って話を聞いて戻ってきたギルマスの部屋では、ギルマスが頭を抱えてうめいていた。
「詐欺だ…!」
まるで悪夢でも見たかのような有様だな。お気の毒に。悪い女にでも騙されたのだろう。
「アリス様、ハーブティーをどうぞ」
「うん。ありがとう」
「…ギルマスも、余ってますから良ければどうぞ」
「ありがとうございます……」
きちんと料理長の席もあるのだが、どうやら我の後ろに控えたいらしいので好きにさせよう。
どれどれ、我はティータイムをと思ったら、ギルマスが「違ぁああああう!」……と、急に声を上げた。
「何だ、元気じゃないか。ハーブティー要らないだろ」
「取り下げますね」
「要ります。すみませんでした…」
急に大人しくなった。情緒不安定か。ハーブティーは必要なようだな。動こうとした料理長を止めて、話の続きを促す。
「さっきの貴族との話だが…、一体どういうことだ?」
どういう事がどういう事だ。
「一応シロだな、あの反応だと」
「左様でございますね。どうやらあの迷宮に向かわせた事については多少何者かの誘導が入ったようですが、シロで間違いないかと」
つまり手がかりと言える手がかりはない。……だが…まあ、だからといって収穫がゼロだったわけでも無い。
「いつぞや潰した、儀式集団のマークと同じ指輪してた」
「関係ありそうですね。消息不明が誘拐の可能性を帯びてきました」
ギルマスは驚いて立ち上がったが、どうやら先程から聞きたかったのはそれでは無いようだ。では何なのか?
「嬢ちゃん、あんな綺麗な敬語使えたのか」
うん。これはあれだろうか。…ケンカ売られてる?買うぞ?
「当然だ。アリス様はそこらの貴族程度では相手にならない程高貴なお方なのだから」
「ハードル上げないで料理長」
我、所詮伯爵令嬢程度だから。元だけど。
我より先に料理長の方が挑発と捉えてギルマスに喧嘩売りそうだったので止める。いくらギルマスが鍛えたマッチョでも、料理長相手では瞬殺だろう。数日威厳も何もないサンドバッグ顔になる未来しかない。止めてやった我に感謝して欲しい。切実に。
「ともあれ、あの貴族の反応からすると、今回の消息不明事件に関しては本当に無関係だろう。
こうなってはコリー達が消えた地点から虱潰しに探す他あるまい。時間が経ち過ぎているからな、捜索範囲もそれなりに…、…広く…、……広く…?」
「…アリス様?」
…何か忘れているような。
それに答えをくれたのは、リィである。くれたというか、寝ぼけているのか構ってくれという意味で我の頭の上に顎を乗せたのだが。
重さに俯いた我の手元に影が広がる。影。
「……使う予定が無かったので、忘れてたな」
「いかがなさいましたか?」
心配そうな料理長には問題ないと断って、一息入れる為にカップを傾けスッとした香りが鼻を抜ける感覚を楽しむ。うん。少しスッキリ。
「コリー達の現在地なら特定できるぞ」
だからプライバシーの侵害について、今回は是非とも見逃してもらいたい。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる