前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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コリー、ミエラ、ルナが消息不明。

その知らせを受けたのは、翌日なんとか話を飲み込んだギルマスから召集を受けた時である。といっても、驚かなかったが。

「料理長がいってた」

そう。前日、料理長が教えてくれたのである。といってもあの3人という特定はしておらず、エディンから王都への要人護衛の為にエディンへ向かったCランクパーティーが行方不明という話を聞いていただけだが。

そういや、コリー達、エディンで任務あるからって出発してたな。途中すれ違う事が無かったので、てっきり既にエディンに到着しているのだと思っていたのだが、行方不明になっていたらしい。

「一応どの町まで行ったのかは分かっているんだが、町を出た後からの消息が不明だ」
「得意先の知り合いの所に寄っていくと言ってたぞ?」
「…その得意先には話を聞いたが、知らぬ存ぜぬで調査が進まん。そもそも、その得意先の貴族の知り合いっていう奴が、消息を絶った地点から次の町までの間に居たっていう確証が無い」
「……というと?」

エルサ殿が地図を取り出し、説明する。

「彼女達が最後に立ち寄った町がここ。そして次の町までは草原と森と川しかありません」
「森の中に家があるとか?」
「そんなものがあるとするならすぐに分かります。あの3人が消えたと報告を受けてすぐに調査隊を派遣しましたから」

検索に長けたベテランのBランク冒険者達です。と、言われても我にはイマイチ分からんが、料理長が納得しているので、例え森の中に隠れるように住んでいたとしても見つからないはずがない事は理解した。

「……その得意先の貴族は今どこに?」
「一応エディンの別荘で待機してもらってはいる」

曰く、いつぞやの小悪党と違って良識ある貴族らしく、未だに見つからないコリー達を心配はしている為、協力は惜しまない、と取り調べにも快く応じてくれたし別荘で無事の報せが来るのを待っているらしい。

「我が直接話を聞きたい」

あの勇者の剣をダメ元でコリー達に依頼したという人物だろうし。

それに、冒険者を子飼いにして危険極まりないと思われる迷宮に送り出す貴族が、本当に"良識ある"貴族か、気になるからな。別に違法とかでは無いだろうし、コリー達も定期的に仕事を貰えるから確かなお得意様ではあるのだろうが、我はイマイチ信用できない。

…こればかりは、一応貴族だったせいでもあるだろうが。

「…アリス様、私が聞いてきましょうか?」

料理長がそう申し出るのは無理もないことかもしれない。何せ、アリスの義母が最初にアリスに暗殺者として送り込んだのは子飼いの冒険者だったのだから。ほらな?冒険者を子飼いにする奴にろくなのは居ないだろう?

「問題ない。遅れも取らない」

そもそも余程のことがない限り、我に何かするのは不可能だ。

「…話を聞くのはいいが…相手は貴族様だからな?失礼のないようにしろよ?」

物凄く不安そうなギルマスに対して、我と料理長は至って普通に大丈夫だと応える。何故って。そんなの決まっておろう。


我、これでも元令嬢ぞ?




貴族に会って話を聞いて戻ってきたギルマスの部屋では、ギルマスが頭を抱えてうめいていた。

「詐欺だ…!」

まるで悪夢でも見たかのような有様だな。お気の毒に。悪い女にでも騙されたのだろう。

「アリス様、ハーブティーをどうぞ」
「うん。ありがとう」
「…ギルマスも、余ってますから良ければどうぞ」
「ありがとうございます……」

きちんと料理長の席もあるのだが、どうやら我の後ろに控えたいらしいので好きにさせよう。
どれどれ、我はティータイムをと思ったら、ギルマスが「違ぁああああう!」……と、急に声を上げた。

「何だ、元気じゃないか。ハーブティー要らないだろ」
「取り下げますね」
「要ります。すみませんでした…」

急に大人しくなった。情緒不安定か。ハーブティーは必要なようだな。動こうとした料理長を止めて、話の続きを促す。

「さっきの貴族との話だが…、一体どういうことだ?」

どういう事がどういう事だ。

「一応シロだな、あの反応だと」
「左様でございますね。どうやらあの迷宮に向かわせた事については多少何者かの誘導が入ったようですが、シロで間違いないかと」

つまり手がかりと言える手がかりはない。……だが…まあ、だからといって収穫がゼロだったわけでも無い。

「いつぞや潰した、儀式集団のマークと同じ指輪してた」
「関係ありそうですね。消息不明が誘拐の可能性を帯びてきました」

ギルマスは驚いて立ち上がったが、どうやら先程から聞きたかったのはそれでは無いようだ。では何なのか?

「嬢ちゃん、あんな綺麗な敬語使えたのか」

うん。これはあれだろうか。…ケンカ売られてる?買うぞ?

「当然だ。アリス様はそこらの貴族程度では相手にならない程高貴なお方なのだから」
「ハードル上げないで料理長」

我、所詮伯爵令嬢程度だから。元だけど。
我より先に料理長の方が挑発と捉えてギルマスに喧嘩売りそうだったので止める。いくらギルマスが鍛えたマッチョでも、料理長相手では瞬殺だろう。数日威厳も何もないサンドバッグ顔になる未来しかない。止めてやった我に感謝して欲しい。切実に。

「ともあれ、あの貴族の反応からすると、今回の消息不明事件に関しては本当に無関係だろう。
こうなってはコリー達が消えた地点から虱潰しに探す他あるまい。時間が経ち過ぎているからな、捜索範囲もそれなりに…、…広く…、……広く…?」
「…アリス様?」

…何か忘れているような。

それに答えをくれたのは、リィである。くれたというか、寝ぼけているのか構ってくれという意味で我の頭の上に顎を乗せたのだが。

重さに俯いた我の手元に影が広がる。影。

「……使う予定が無かったので、忘れてたな」
「いかがなさいましたか?」

心配そうな料理長には問題ないと断って、一息入れる為にカップを傾けスッとした香りが鼻を抜ける感覚を楽しむ。うん。少しスッキリ。

「コリー達の現在地なら特定できるぞ」

だからプライバシーの侵害について、今回は是非とも見逃してもらいたい。


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