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しおりを挟む「…うーむ。"居る"な?」
「"居ます"ね」
『"居ります"わね』
『"居る"ワよ』
「えっと、何が…?」
コリー達がに決まっておろうが。
これだけ念入りに目隠しの魔法が展開されていて気付かないなど、嘆かわしい事だ。Bランクの偵察など大した事無いな。
と、言いたいところだが我は我慢した。リィが黙ってろって目で言うから。
我らは今、コリー達が消えたという町と次の町の中間地点の森の奥にいる。何故って。ここにコリー達が居るからに…。何度も言わすな。
我が以前コリー達に仕掛けて位置を探るのに利用した影を再利用したのだ。僥倖だったな。あの時忘れずに影を回収していたら、現在地の特定すら危うかった。
一緒にいるのはギルマスではもちろん無い。話に出てきた捜索隊の、曰く、"探知に最も優れている"冒険者だそうだ。
「ど、どこに居るって言うんだ!デタラメを言うのもいい加減に…ヒッ…!」
「今のは、誰に向かっての言葉だ?」
ほら。キャンキャン喚くから料理長が怒ったじゃないか。我の言葉はともかくとしても、料理長が言うんだから疑うな。
「も、勿論将軍に向けたものでは無いですッ!」
「…ほう?では」
「ハイッ!そっちのちびっ子にぐぅえあッ!」
…そして迅速に口を閉ざすことを勧める前に物理的に口が閉じた。
「この俺の目の前でアリス様を侮辱するとは、余程殴られたいらしい」
料理長、激おこ。別に侮辱というほどの事は言われてないのだが。あと、そのセリフ、殴る前に言ってやってくれ。
「あー…、料理長、そいつはこの程度の魔法も見破れない節穴なんだから、私の実力を把握できなくて当然。私は気にして無いよ」
「ですが…。……承知いたしました」
料理長は渋々と追撃のために振り上げていた腕を下ろした。その手にはその辺で拾った草の束。ほら、料理人にとって手は大事な商売道具。痛めるわけにはいかないだろう?だから殴るのにだって気を使う。つまり、武器を使う。
しかし、料理長がその腰に下げた剣や、接近戦時に使うグローブを使うと最悪身体と魂が分離しちゃうかもしれないから、その辺の草で代用したらしい。葉っぱ大きめだし、いいビンタになったと思う。
『エエ、草とは思えない程いい音だったワ』
『気付いたら振り抜かれていたって感じですわ。お見事!』
情けない事にBランク冒険者は片頬を腫らして泡吹いて気を失っていた。…弱ッ。
「致し方ありません。偵察が出来るためBランクですが、実際の実力はCランク中堅くらいでしょう」
何とも言えない気持ちで見ていたら、我の心を汲み取ったのか、料理長が庇ってやった。
コイツで中堅、…中堅…か?
…それを聞いてより微妙な心境になってしまったが、一先ず足手纏いになりそうなので放置して進む事にする。
「……うむ。こっち」
「一応上手く魔法を使っていますね」
「必要最小限の目眩しで隠したいところは完璧に隠す。確かにいい腕」
魔法自体が拙くさえなければな。
我や料理長を騙すには幼稚すぎる隠蔽魔法だし、リィの鼻を誤魔化せていないし、ルシアに対しては精霊故に魔力に過敏である事から隠している事がバレバレ。
さくさく進んでぱっと見は木々生い茂る行き止まり。奥には大きな川が流れている。我と料理長なら問題無いが、向こう岸に渡るには少々幅がありすぎる。
「いい加減、小賢しいな」
魔力を纏わせた拳で、虚空というかこの辺り一帯に幻覚を纏わせている空間自体を殴る。
ビシリと硬めのガラスにヒビが入ったような感覚の後、それは音を立てて崩壊する。
幻術の途切れたその空間には、小屋が出現する。コリー達はこの中だろう。
「アリス様、私が先に」
料理長が剣を構えて前に出る。心配せんでも小屋の中にはミエラ達以外の反応は無いのだが。まあいいか。
料理長が入り口付近から罠の類がないことを確認しつつ扉に手をかける。そちらにリィも集中してるので、万が一の心配はない。
我はまるで余所見をするような自然体で、くるりと小屋に背を向けて、折り重なる木々に隠れて様子を伺う何某かに向けて嗤ってみせる。気付いているぞと意味を込めて。
何某は一目散に逃げ出した。追う価値はないな。どうせ捕まえたところで、我の捕縛下から離れた瞬間逃げ果せるのだろうし。
『アリス様?3名とも無事ですわ』
「そうだろうな」
『?』
「何でもない」
小屋に入ると、3人は横並びの椅子に縛り付けられていた。死んではいないが気を失っている。今すぐ見てわかる異常としては栄養失調、程度だな。
「リィ、運べるか?」
『任せなサイ』
料理長が縄を切って1人ずつリィの背中に乗せていく。その間に我は小屋の中を見渡すものの、当然ながら犯人を示すようなものは何もない。後はコリー達の回復を待ってからだな。
「アリス様、完了です」
「うん。…あのBランク冒険者つれて戻ろうか」
道中でまだ気を失っていた冒険者を拾って(勿論料理長が)引きずってエディンまで帰還する。すぐ様コリー達はギルド内の治療室へ。
ギルマスへの報告も済ませ、やることはやった。
「だが…犯人の手がかりは無しか…」
「いや、そうでもない」
「!何か見つけたんですか!流石は"将軍"…!」
「見つけたのは私ではない。アリス様だ」
着いてからずーっと黙っていた我にギルマス、エルサ、料理長、リィ、ルシアからの視線が刺さる。
うーむ。あまり認めたく無いから黙っていたのだが、事実だろうし致し方あるまい。
「喧嘩を売られているのは我だ」
「「「え」」」
あの森の中、我に見つかり逃げたのは、連日我に奇襲をかけていた男だった。
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