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しおりを挟む「いやっほー!!」
「あまり身を乗り出しすぎておちるなよ?」
分かってる!と元気よく答えるマリムだが、絶対分かってない。だってさっきより身を乗り出して変わって行く街並みを楽しんでいるし。
「アリス様、果実水をご用意致しました」
「ありがとう」
「一応、あの野生児の分も」
「わーい!」
いいのかマリム。野生児言われてるが。…悪食とどっこいどっこいか。
マリムがエディンに到着した明朝、飛空艇モドキで我らは王都へと出発した。年相応にはしゃぐマリム。はしゃいでもいいからあまり危ない事はしないでもらいたい。料理長は我以外が落ちそうになっても助けてはくれんのだし。
料理長が用意してくれた果実水とクッキーのおかげで、何とか飛空艇の縁の部分から引き離す事に成功。我の両隣は埋まっているので、1人掛けのソファーで大人しく飲み物を手にして、
「ぷはぁ!」
…一気に飲み干した。流石悪食。入っていた氷や果物(タネ入り)まで一気に飲み干しやがった。
良い子のみんなは真似しないでくれ。絶対にだ。
「マリムはどのくらいでエディンに来たのだ?」
「えーっと…大体5日かなぁ。それでもSランクの特権使って、街から街までの間は魔獣車使ったから、かなり早いと思うよ?おかわり!」
「…」(料理長、マリムを完全無視)
「料理長、おかわりがあるならマリムにもう一杯作ってやって欲しい」
「喜んで。アリス様のお代わり分はいくらでもございますので、遠慮なく言ってくださいね」
料理長は手早く作り、マリムの目の前に置く際に、何か呟いた。マリムは今度は大人しく、ストローで中身を啜り始めた。…うん、アレだな。多分食材に失礼だからちゃんと味わえと注意したのだろう。多分。
「……5日か。それは長旅だったな」
「これでもかなり早いよ。アリスちゃんも災難だよね。折角王都に行ったのにすぐに逆戻りでしょ?そういえば、アリスちゃん達、どうやってエディンまで魔獣達より早く着いたの?」
「…この飛空艇モドキで」
「いや、うん、それは分かるんだけど、だとしてもこの速さで…まさか3日かからずにたどり着ける訳ないでしょ?」
「着けるぞ。これ全力じゃないし」
「…うん?」
マリムが笑顔のまま固まった。
「この飛空艇モドキを動かしているのは我だ。その気になれば王都まで半日かけずにたどり着ける。今回はゆっくりだが。スタンピードのあの時は全速力を出した」
ぎぎぎ、とマリムが錆びた人形の首のような有様で料理長を見る。料理長は静かに頷く。
「まあ、このモドキを使わずとも料理長や我なら、冒険者のバリケードを突き破り、エディンに魔獣達が流れ込む寸前くらいになら間に合ったと思うぞ。通常料理長は3日で行けるようだし、我も2日程度で着いたし」
「……一応確認なんだけど、」
2人とも、人間だよね?と何故か疑われた。怒っていい?
翌日王都に着き、飛空艇モドキの回収の為に首を長くしてギルドで待っていた商人に返却。大変役に立ってくれたので、多少チップをはずんでおいた。
ついでに何故か自分の商会に所属しないかと熱烈なオファーがあったが、料理長が見事にカード。ぼろぼろになっても暫く諦めなかった。往生際が悪過ぎる…と、流石の我も引きかけた所でケロッと対応を変えて、
「またのご利用をお待ちしております」
と、商人は上機嫌に去っていった。まあ、多分もう借りないとはおもうのだが。
「アリスちゃん、いいのー?長期レンタルプラン物凄くプッシュしてたけど」
「アリス様なら乗ると踏んで、珍しく客に有利な条件でしたが、よろしいのですか?」
あの商人、アリス様が一声かければ秒で飛んできますよと料理長が言う。それはそれで怖い。我からどんだけ金の匂いがしているんだ。
「いい。アレを借りなくても私1人なら短時間でどこへでも行ける」
"一度行った場所以外には飛べない"という転移魔法の原則により、かかっていた制限ももう関係ないしな。
この国変な形してるから、王都からエディンまでが1番遠いのだ。それ以外の端っこの街までは馬車で3日あれば着くらしいし。マリムがそのくらいで行けると言う事は、我ならもっと早いだろう。
……というだけの話なのだが、その発言に何を思ったのかルシアが人目も憚らずに我の腰に抱きついて泣き出すし、リィはどこまでだって着いて行くんだから!と頭にしがみつくし、マリムは我と手を繋いで遠くに行くくらいなら食べるよ!?とよく分からん脅しをかけてくるし、料理長に至っては……
「アリス様が、遠くへ…?結婚…?相手はどこの馬の骨…?」
と、何やら勝手に話が飛躍していた。包丁持ったまま落ち込まないでくれ、料理長。流石に怖いぞ。お陰でリィ達が正気に戻ったが。
『あのぅ、アリス様。料理長様は何故あんなにもアリス様関連の事となると様子がおかしくなりますの?』
「しらん。寧ろ我が知りたい」
『依存し過ぎててヤバそうな感じヨネ』
「アリスちゃんと会ってから、"将軍"の様子がおかしいんだけど。いつもあんなんなの?」
絶対違う。
私の知っている料理長は、いつも冷静沈着。紳士かつ包容力のある最強の料理人だった。……と、言葉にすると、先程までの様子は幻だったのではないかと思うほどに凛としてその場に控えていた。うん、料理長。料理長は是非ともカッコいい料理長でいてくれ。
和気藹々としていた我々の前に漸くその人は現れた。……我、別に暇でそこに待機していた訳では無いぞ?
「何だかとても賑やかだが……。私も混ぜてくれるか?」
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