前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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「はじめまして。そしておめでとう。ここまで短期間でのSランク冒険者への昇格は、君が初めてだ。この緊急時において、君の存在は歓迎すべきものだ」


……王都冒険者ギルドのギルドマスターの執務室で紅茶を啜る我に最初に投げかけられたのがその言葉だった。

「……多重結界で身を守った上に対魔法結界を部屋に敷いて警戒しておいて、"歓迎"などとよく言えたものだな」

我が基本魔法しか使わんの知っててやってる。全くもって歓迎する気ねーだろ。と意味を込めた笑顔で応える。
今ここには我とギルマスしかいない。リィとルシアも料理長達と共に別室に待機させられている。…まあ、魔法封じ対策されても何も意味ないが。使おうと思えば使える。

さて、どうしてこうもギスギスとして、敵意にも似た警戒心を剥き出しにされなくてはならないのか。いっそ気に入らないと言う理由で闇討ちにこられた方が楽なのだが。腹パンして吊るせばいいし。

「…これに気付くとは…。やはり君は感知出来るのか」
「料理長……"将軍"やマリムでも気付くだろう」
「そうだな。確かに、ガドフのような特殊な目や、マリムのように感覚が異常な者なら気付くのは容易い。
だが君のそれは、例えるならば真の強者が拙い魔法を見ているのと同じようなものだろう?」

単純に格が違う。そう言う意味でならそうだろうな。

「私が今まで出会った強者と呼べる人間の中で、君程世界に不釣り合いな者はいないだろう。正直、Sランク如きと言ってしまえる実力がありそうだ」

そんな触れれば周囲の街諸共一瞬にして焦土にしそうな爆弾を目の前にして、警戒しないでいられる程、私は剛担でも無ければ節穴でも無い。とギルマスは言い切った。

うむ。まあ、尤もといえばそうなのだが、

「しかし、1つ言わせてもらいたいことがある」
「なにかな?」
「これ、そんなシリアスな話じゃ無いから仕切り直しを希望している気がする」

それはもう、切実に。



王都のギルマスとの初対面は物凄く警戒された上での面接だった。我が強者だって?そんな当たり前のこと言わずとも良いわ!

「そもそもこんなに小さくてか弱そうな童女を相手に警戒心剥き出しで、保護者友人達を遠ざけて、話をしようとするところからあり得んわ」
「え」
「我の心が広大で、年齢以上に落ち着きあってこそこうして話をしていられるが、これがただの童女であったなら、いくら貴殿が優しい顔の紳士の皮を被っていようと、大泣きトラウマ案件だぞ」

将来恋人にする相手を選ぶ際、優しい紳士を選べなくなったらどうする気だ!我は女の子達の味方!出来ることなら自分を第一に、大事に想ってくれる紳士と添い遂げてもらいたいものだ。

「い、いや、だが、しかし…君は普通の幼な子とは違うのではないかと、…思うのだが」
「普段できない事はいつになっても出来ない。女子供そして老人には親切・丁寧・優しく対応!習わなかったのか!?」

口ごたえは許さん。自分の方が先によろしく無い対応をしているくせに、我を普通でないと断じる資格はない!

「……すまなかった」
「あ"ん?」
「すみませんでした」
「うむ。よし。で?この我、アリス様にほかに何か言う事はあるか?」

ギルマスは少し悩んでから、君の正体について聞きたかった。と、直球勝負にでた。うむ。さっきの変に実力を試すような対応よりはよほど好感が持てる。

「正体も何も、死にかけてちょっと規格外な力に目覚めただけのただの子供だ」

アリスという少女は。
まあ、元魔王であっても、元というだけで今は人間だしな。

「…そうか。
正式にSランク冒険者として認めよう。これからよろしく頼む。君を含め、Sランク冒険者達には難易度の高い討伐案件が何件か溜まっている。先ずは近場のものからと思っていたのだが、早速すぎる指名依頼がある」

指名依頼というのは、確かAランク以上の冒険者に課されるもので、依頼者が依頼を受ける冒険者を指定でき、なおかつ冒険者側に拒否権がない最悪の制度と料理長が言っていたな。勿論ギルド側から内容について審査も入るし、相応しく無いと判断されれば弾かれて終わりなのだが。

「私が君の正体や強さを確認したかった理由も極端に言えばここに集約される」

ほう?

続きをどうぞ、と目で示せば、この国の英雄というか、超絶権力者が最近職務放棄続きで困っていると相談があり、だからといっておおいそれと手離せない人物である為、どうにかして更生を図っている最中だった。
しかしつい先日、我をSランク冒険者と認め、二つ名を決定しかけた所で、その話題の人物から待ったがかかった。
その人物は、放棄している仕事に着手してほしければと交換条件を持ちかけてきたらしい。

「……王宮特別魔術師、ラギア・グルヴェルが君を至急屋敷に連れてこいと仰せだ」




ラギア・グルヴェル。
この国の魔法の第一人者で、生まれた時から桁違いの魔力を持ち、才能は飛び抜けていた。魔法を使わせれば右に出る者はなく、魔法至上主義の魔導国の王から直々にオファーが来るほどの実力者。しかしそれを素気無く袖にしても、魔導国ですら下手に手を出せない正に、魔法の申し子。

魔導国の王すらも凌駕する、真の魔法使い。

「…と、私の中では言うに値するだけの人物だった。君に会うまでは」
「当然だ。アリス様は偉大なるお方だ。魔導国の現王など、アリス様の前には塵にも等しい事だろう」
『アリス様以上の魔法の使い手なんて存在するはずございません。そんな事を考えるだけで不敬ですわ。虫唾が走るとはこの事でございますわね』

別室待機に限界が来たらしいルシアが強行突破してきたのが少し前のこと。それを止める事を口実に我用のティーセットを乗せたワゴンを押しながら料理長も部屋に入ってきた。…で、指名依頼の話を盗み聞いていたらしく、ギルマスの発言に口を挟みまくっていた。(料理長は手際良く我に新しく紅茶を淹れながら)

『…2人とも、言いたい放題ヨね』
「うむ…」

言い募られているギルマスが可哀想だったので、ルシアと料理長を止める。別に我、最強である事に拘りがある訳ではないしな。

料理長の淹れた紅茶が美味しい。さっきまでと全然違う。やはりお茶は楽しく飲まねば。


「…酷い目にあった」

今、ルシアと料理長は何故か我についての討論会をしている。これの発端はギルマスがラギアなる人物を褒め称えるような言葉を連発して、2人の何かしらのツボもしくは地雷を踏んだせいなので、十分に反省してほしい。

特筆すべき事でも無いのでスルーしてたが、あの2人、飛空艇モドキに乗っている間、我に似合う服の系統の事で半日討論し続けたからな。我のお腹空いた発言が出るまで。
最早アリス過激派と化した料理長とルシアに対抗できる勢力など残っていない。リィはそもそも非参戦だし。我の頭の上でいつも通りだらっとしてたし。

……今回はどうやら我に似合う髪型についての討論にシフトしたようだ。もう勝手にして…。

「いつもこんななのか?特にガドフ…」

疲れ切っているギルマス。……それ、マリムも言ってたな。

とりあえず、

「そのラギアとやらについて、もう少し詳しく話が聞きたいから、暫く静かにしていてほしいのだが」
「『かしこまりました(わ)』」

なんの意味もない討論は、ぴたりと止んだ。
ギルマスは遠い目をしていた。
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