91 / 136
91.
しおりを挟む"きれいはきたない"。
どんなに美しい髪だと褒めていても、
どんなに凛々しい顔立ちだと言葉を尽くしても、
どんなに功績を讃えていても。
捧げられる言の葉がどれだけ美しくとも、全て醜く歪んで聞こえた。
"きたないはきれい"
どんなに酷い侮辱であっても、
どんなに極悪な者の怨嗟の言葉でも、
どんなに鬱屈な嘲笑でも、
それらは全て、正しく、この身に届いた。
そのうち、歪む音は全て、本心の無い声だと思うようになった。
この世界は、…少なくとも、私を奉り崇めるその世界は、余りにも、嘘まみれで。悲しくて笑いが止まらなかった。嘲笑は嘲笑でも、自嘲しか出来なくなった。
そんな世界に長く居続けるには、私はまだ弱くて青かった。
幸いにも父はまだ健在で、私に束の間の自由をくれた。
荒くれ者の世界に身を置いたのは、今までの環境に対して私が疲れ切っていたせいなのは間違いない。それでも後悔しなかったのは、そこで自身が成長しているのが分かったから。なにより、その世界は一つの選択ミスで自分の命が危うくなる為、自分の選択を間違いにしない為に全力を尽くすことを身をもって覚えたからに他ならない。
それに、その世界では、言葉が歪むことはなかった。…全くなかったわけではない。だが、限りなく人と人とが本音で話すし、本気もあった。
私はここに来て、救われたのだ。
色々な出会いがあった。
今では炎槍と呼ばれているSランク冒険者に命を救われた事もあったし、悪食と呼ばれる少女を手助けした事もあった。
魔導国に縁が無いが規格外の魔力量とコントロール力を持つ青年にも出会い、何度か私のところにこないかと話を持ちかけたこともあった。
しかし、1番頭に残っているのは、妙な少女だ。駆け出しの冒険者の少女。
「自由とは良きものだろう?だがその自由とて、不自由の中にいた者にしか分からんのだ」
偶々立ち寄った村で疫病が流行っていて、原因となっていた魔物の討伐の為に私たちが訪れた際、同じく別の依頼で立ち寄っていた少女がそう言っていた。
彼女もまた私と似たような環境に身を置く人間だったのだろうか。
「自由を謳歌せよ。命に感謝を。そして何より、可愛いものと美味しいものに溢れていれば、世界は大体平和に回るのだ」
……だとしたら相当な変わり者だと思うが、彼女の言葉は、すべて、本心しかない言葉だった。
黒髪、紅目の変わった口調の冒険者の少女。囚われた冒険者を救出し、盗賊団を一網打尽、1人で100にも迫るゴブリンを倒しきり、ゴブリンキングすら単独で討伐し、すぐさまいなくなったというあの少女だと後から気付いた。
会えてよかった。本当に。
自由を讃える彼女より自由な人間もほかにいないだろうと思うほど、その少女は"自由"で、"強くて"、それ故に美しかった。
「自由とは簡単で難儀だな!」
世間話をするように、疫病の元になっていた有毒物質を撒き散らしている魔物を、道端の石を蹴るかのように、邪魔の一言で蹴り飛ばして仕留め、カラカラと笑って、依頼人だという老婆を連れて去っていった姿は、自由そのものと言えるだろう。
私は、目に焼きついたその"自由"に焦がれた。
あれほどの精神の極みに達するには、相当な年月を必要としそうだが、あんな幼い少女が既にその境地にいるのだと思うと、恐怖すら感じた。
その出来事は、それからの私を大きく変えた。
私は国を出て、自由に生きていると言いながら、どこか自分自身が嫌っていた者達と同じ物差しでしか世界をみていなかった。
そんな私の視点をぶち壊すような大きな衝撃だった。
私はその時からようやく、本当の意味で自由な冒険者として、歩き始めたのだ。
……しかし、自由も終わってしまった。
私は再び、見た目だけは美しく整えられた、嘘だらけの汚い世界へと連れ戻された。
ここを出たい。
こんな所にいたくはない。
しかしそれが出来ないのなら、…出来ないから、ならば、世界を変えるしかない。
絶望の果てに出た答えは、全て支配して、自分の一存で全てを決定し、裁き、理想郷を創り出す事だった。
その為には、自分がならなくてはならない。
強さと恐怖と何より自由を象徴する伝説の王に。
全ての魔法と時を統べて、世界の支配者、魔王に。
「火のバスティアン、水のクロウェン、風のエニスラ、光のヴァレイン、闇のエステドーラは揃った…」
側近として原始魔法の五家から、最も有能な者達を集めた。残るは"時"。無属性特化の伯爵家があるはずだ。しかし、その家に属する者は誰も、時空に干渉する魔法を使えなかった。そう簡単に揃わないからこそ、伝説であるのは分かっている。だからといって、諦める理由にはならない。
私は求め続け、探し続け、そして遂に糸口が見つかった。
「魔力量は少ないながら、コントロールは一族の中でも群を抜いており、小さな物であれば転移させる事が出来たそうです」
伯爵家から隣国の貴族家に嫁いだ令嬢がいたらしい。その令嬢は時空間魔法の片鱗を見せていたという。
「この国の元英雄にして元騎士団長ガドフ・ゼスタインが国を捨てて出ていった原因でもあります」
苦々しい表情で、宰相はそう言った。
「かなり手痛い損失だったようだな」
「はい…」
「それで?その令嬢はどうなった」
「伯爵家に確認したところ、既に…」
「……そう上手くはいかないか」
しかしその希望は、潰えるには早かったらしい。
「第二夫人として嫁いだ令嬢は、1人子供を産んでいたようです!
黒髪と紅目の、この国でも類を見ない非常に珍しい容姿を持つ女の子だと両親へ向けて手紙を送ってきたことがあると…!」
……どうして、私は今、あの少女を思い出すのだろうか。
「いや、確認を取ったが、既に亡くなったと…」
「だが葬儀を行った記録がなかった」
黒髪、紅目。
この国の始祖が遺した文献によれば、"魔王"も黒髪と紅目を持っていたらしい。
そして、その血を分け与えられた先祖達を祖に持つこの国の人間は、黒髪や紅目を持つものが多い。かくいう私も黒髪だ。
だが、私は生まれてから黒髪と紅目を同時に持っている者を、見た事がない。
あの時のあの少女を除いては。
「黒髪紅目の少女が、そう何人もいると思うか?」
いいや、…いるわけが無い。この国にさえ、存在しないのだから。
「…次の夜会は、隣国からも招こう」
面白い話が聞けるはずだ。
「その黒髪紅目のご令嬢、名前は?」
「アリステラ・アトリシエ。アトリシエ伯爵家三女だそうです」
あの少女の名前すら私は知らない。だというのに、どうしてだろうか。必ず近いうちに再度相見える事になると、私はそのとき確信していた。
_________________________________________________
以下、お知らせ。
皆様いつもありがとうございます。
最近更新が遅れ気味で申し訳ございません。中々指が動かず、書いては消しての日々を過ごしております猫側です。
さて、皆様に呆れられ、忘れ去られる可能性大と思いつつも、一つお知らせがございます。
大体週一回更新に切り替えます。
アリスちゃんに自由に動き回ってもらうために。暫くしたらまた2、3日に一度よくわからない時間に更新するとおもいますので、心の広い皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる