前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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空島に乗って優雅な空旅を夢見る我の前に立ちはだかったのは航空権利!

……まあ。なんとかなるだろ。料理長にはラギアだけには言わないように伝えておいた。我が欲しがっていると知ったら、国王脅迫程度のことはやってのけるだろうし。そんな事して手に入れた権利は要らん。要らん喧嘩は売らん主義。売られた喧嘩は買うけどね?頼まれずとも利子をつけてお返ししようではないか!


そんな優しい我は今、湖畔にいる。リィ達は水浴び。……猫たち、猫なのに水に入るの躊躇ないな。料理長はランチの準備。ラギアは敷物を準備している。敷物で良いはずなのだが木材取り出して椅子と机を作り始めた。どうやら長くなりそうだ。我は椅子に座って待機。

なんでピクニックって?失礼な。これは視察だ。

「……ここどこの貴族の保有地っすか?」
「いたのかアノク」
「ラギア様からの命令でパラソル届けに来たんですよ」

敷物に真剣な顔でクッションを配置しているラギアを見て遠い目をしたアノクだったが、すぐにラギアが陽に当たらないようパラソルを開いて、……ラギアに怒鳴られた。何だ!どうしたのだ!喧嘩か!?わくわく!

「早くアリス様の肌を陽光から守れ馬鹿者!」
「し、承知しました!」

……何だ、仕事上のミスか。…………え?我の保護仕事なの?前世では確かにラギアの仕事、我のお世話が8割だったけど。もういっか。仕事で。

「怒られた…」
『早くアリス様の日避けになりなさいな』
「はい…」
『小僧!妾に気安く触るでない!妾に触れていいのは主様だけだぞ!』
「日避けでカバー出来る限界があるんですよ!お嬢さんの周りで幅きかせないでくれますか!?」

アノクがパラソルを立てる場所に困って右往左往している理由はな、ルシアと人型の灼華が我を独占するが如く引っ付いているからだな。ルシアは我の頭を抱きこむようにお行儀悪く椅子の後ろから抱きついているし、灼華は我の足元に座り込んで我の膝に頭を乗せている。

「両方うるさい」
「『はい……』」

最終的に我の魔法でパラソルの大きさを変えて、多少遠くからでも問題なく役割を果たせるようにしてやった。

「重いっす…」
「我慢」

スピード重視型で腕力の低いアノクが根を上げたのは、我が快適に寛ぐ環境を追求した結果、ラギアが我の為に休憩所を作り終えた頃。…まあまあ保った方ではないか?ラギアがベンチの細部装飾にこだわり始めた辺りから、腕が震えてたけど。

「うむ。アノクよ、ご苦労。先日の情報収集も含め、なかなか頑張ってくれたな。後でラギアから何か貰えるように手配しておこう」
「あ、…りがとう、ございます…!」

腕の痺れどころか堪えてた脚まで疲労がきてるな。……ご褒美が軟弱者の称号と、期限付き鉱山労働命令では無いことを祈るばかりである。

「あ、あの…。出来る事なら…!」
「ん?何だ?」
「ラギア様に、…北の鉱山での採掘業務だけは勘弁してやってほしいと、伝えていただけたら…」

………。

「…善処しよう」

グレゴールという名前だった頃、ラギアは鉱石採掘を部下にさせていたのだ。何でも珍しい黒や藍色の宝石が出る場所があるとかで。それが年中問わず、氷結死の山と呼ばれる所にすら宝石あれば部下を派遣していた。
勿論使い物にならなくなった奴もいたので、問題になり会議で討論の末、余程のヘマをした奴だけが送り込まれるようになった。

死者は出なかったものの、大抵命辛々戻って、「ユキ、コオリ、コワイ…」しか暫く言わないのだ。ラギア(当時グレゴール)を見て叫び狂うし。宥めるの大変だったな…。その後メンタルケアが得意な配下に任せると、ロリ・ショタスキーへの転身を経て元に戻る。戻らないやつもいたが…まあ、その道の者として楽しく過ごしていたから結果オーライだ。


……それにしても…そうか、今でも宝石集めを。変わらんところもやはりあるのだな。我?優しい所は変わらんと思う。

役割を終えたアノクに我自ら茶を淹れてやった。勿論料理長やラギアにも。本当はアノクだけで終わらせるつもりだったが、2人に睨みつけられてアノクの顔色が急激に悪くなっていたからな。本当に後で採掘業務だけはやめるように言っておかねば。


休憩所というか、もうこれは湖畔の屋敷…別荘と言えそうな…。…まあ、我の作った城よりは小さいからいいけど。

「さて、先程のアノクの質問に答えよう」

料理長の作ったランチをルシアと灼華に食べさせられて満足した頃を見計らって、初めて食べる料理長のランチの味に浸って夢見心地のアノクに声をかけた。いい加減戻ってこい。料理長の作った飯が美味しいのは当然だが。紅茶も料理長のが飲みたかった?うるせえ、舌切るぞ。

「ここは我の収納の中だ」
「…………はい?」

厳密には収納ではない。…が、似たようなものだ。
そもそも我の"収納"というのが、この世界で認識されているものとは異なるのだ。この世界の収納というのは、魔法の一種。この魔法を使える人間は僅かだし、収納できる容量は生まれた時、魔力を扱えるようになった時には決まっている。練習をしたところでそれ以上増えもしないし、衰えたからといって減ることもない。

今では鞄などに収納魔法能力を付与する事が出来るものもいるようだが、それとて稀。果物1つ入れるのすら困難な者もいれば、大型魔獣を複数収納可能な者もいる。だが、……一般的な家を丸ごと収納出来る者など皆無だろう。我や料理長、ラギアを除いては。

料理長とラギアについては収納という魔法を使える上に元々の容量が大きい。
そして、我に関しては、最初の説明通り、単純に収納であって収納魔法ではない。

「私の収納は、空間自体を切り裂いて、亜空間を作り出し、その中に収納する事。亜空間はいくらでも任意の場所に作り出せる。複数の亜空間を接合する事も、出入り口の場所をずらすことも勿論可能。その容量は無限大。亜空間の中に亜空間を作り出す事もできる」
「どこの収納お化け…」
「収納魔法ではないから、生物が入っても平気。ついでに状態停止魔法が付与されてるから、食べ物は腐らない、身体も成長しない」

我が言った事に驚いたのはアノクだけだった。…料理長とラギアはともかくとして、リィ達は…あ、そう。驚き疲れたと。

「ともあれ、ここは我の作り出した亜空間に、我の魔法やルシアの力を借りて大地、空気といった自然を整え創り出した…別世界と思ってくれればいい。そして、この湖畔を含む複数の泉と、居城が存在する簡単な空島の庭に我らは今いるのだ」

一般的な感性を持ち合わせていたアノクは許容力、オーバーです。と無表情で言って倒れた。
やはり、軟弱者の称号は付くかもしれないなと、心の底から思った。
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