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しおりを挟む胃薬はアノクの腹に消えた。まあ、食べ過ぎた時に飲むやつじゃなくて、キリキリ痛む時に飲むやつと言われたから、元々我は使わん。リィに物凄く勧められて用意していたものだしな。このくらいくれてやろう。
あの後、残っていた魔法知識と実技試験も問題なくパスしたぞ。だって我、元魔王のアリスちゃん。無駄に歳とって知識人ぶった教師どもからの質問に完璧に答えた上でこちらから投げかけた質問に答えられず狼狽する奴らを見て心底笑った。
あの程度の偏った基礎中の基礎知識しかない老骨共が我に勝てるわけ無かろう。
実技試験も派手に魔法を使ってやった。転移魔法やら無属性系の魔法はアノクから大反対されたがもともと使う予定は無かった。だって地味だもん。
火の魔法で宙に大輪の花を咲かせ、水魔法の応用で氷の鳥の群れを飛ばし、風の魔法で花を散らして火の花びらが地に触れた瞬間光魔法へと変換して、淡く輝く白い花畑を広げて見せてやったのだ!
「美しかっただろう?」
『妾は見惚れてしまいました…。魔法を次々と華麗に繰り出す主様に…!』
「…ええ、綺麗でしたよ…。だからこんなに私の胃に負担がッ……!」
……なんか、思ってたのと違う。
ギャラリー達の方が余程良い反応をして我の優越感を満たしてくれたぞ。
うーむ。やはり、我の魔法に慣れ切った配下というのは物足りんな。腹を押さえて蹲るか、我を見て恍惚とするかのどっちかなのだ。人間擁護派を除く魔族達は基本的にそうだった。
いつも同じ反応では飽きもする。
そんな良い反応をしたギャラリーの中から出てきた学園関係者が、何やら我に話があるということで、案内された部屋にいる。
豪華絢爛、…とまでは言えないが、毛足の長い絨毯や、アンティークの家財、そして品よく飾られた絵画や、小難しそうな分厚い書…うむ。執務室か応接室といったところだな!
待たされることクッキー一缶分。
教授達と思われる大人が何人か入ってきた。
そして呆然とした。
それもその筈。先程我が物顔でこの部屋に入ってきた何人かの学生と思しき不敬者を縛り上げていたところだったのだから。
「クソッ…!下せ!僕にこんな事をして許されると思うなッ!」
『煩い犬はアリス様の前に不要。燃やしますか主様!』
……我じゃなくて、灼華が。いや、止める間もなくてな。それはそれは素早かった。我の膝に頭を乗せて甘えていた筈の灼華だったが、扉が開いてこの……見るからに高飛車小僧が、同じ年頃の少女達を侍らせて入ってきた時には行動を開始していてな?いつでも首が取れるポジションに入っていた。具体的には天井に張り付いてた。流石狐。
そして、此奴が我を見て一言。
「何だ。此処はお前のような見窄らしい平民が寛ぐ場所ではない。今すぐに僕の前から消え……」
と、途中まで言えたものの、灼華がそれ以上は待てできず、制服を着たその偉そうな小僧の胴と手足を縛りシャンデリアから垂れる斬新な飾りにしてしまったのだ。
そこに至るまで、僅か一呼吸の間であった。素晴らしき縄捌き。この速技は最早芸術ではないだろうか。
そしてその小僧に群がっていた女子生徒達が騒ぎ出したので、同様に縛って床に転がした。しかし、我も流石に怒った。
「女性を冷たい床に転がしておくとは何事か!」
「し、しかし、この部屋の床には贅沢にも毛皮が敷かれておりますッ!」
そんな風に躾けた覚えはないぞ!とせめて魔法で宙吊りにしようとしたのだが、灼華がそう答えたのでそれもそうかと思ってやめた。
「…いや。そこは助けるところじゃ……」
「我に対する、侮辱罪」
アノクは口を閉じた。よしよし、いい子だ。胃薬をやろう。
「平民というところは認めてやろう。…しかし、この我を、見窄らしいと言ったことその一点に関しては許さん」
見窄らしいは無い。絶対ない。だって我可愛いもん。この不届き者に群がってる子達より可愛いもん。あと、この服は貴族御用達キエラの逸品。余程見る目が無い者以外には、上質な品だと分かる。
あと単純に上から目線腹立つ。
「…お嬢さんも大概上から目線「何か言ったか」いえ何も」
胃薬ありがとうございます!と、良い返事が来た。うむ。素直が1番。
……そこに教授共が入ってきたのだ。
吊り下がった小僧然り、ちゃんとノックして、良いと返事があるまで待つという基本的なマナーを無視するからそうなるのだ。礼儀正しい生徒たちに謝れ!……此処にはいないな。悪い子たちしか。よかったね。
「で?我をここに留め置いて何の話だ」
「…その前に、そこの生徒達を離していただけないでしょうか……」
………多少斬新なオブジェだと思えば良いのに。
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