前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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2.

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人間達の中で不和が生まれている頃、魔王は現状にうんざりし始めていた。

何度も何度も潰しても潰しても出てくる勇者。娯楽として手を出すこともあるにはあるが、そもそも魔王が世界の巨悪だなどと根も葉もない理由で襲撃されるようになった事自体は腹立たしいにも程がある。

だからそれをぶつけると言うわけでもないが、数多の勇者を殺して、壊して、ある時は送り返してきた。ただただ煩わしかった。他に向ける感情があるとするなら、分かりきっている結果なのに勇者だ神託だというあからさまな特別感に踊らされ、送り込まれる勇者への憐れみだけだった。

…その点で言えば、数いた勇者の中で、唯一純粋に魔王に殺意を抱かせた勇者はある意味凄い。人間としてはいろいろアウトだったが。

「ないわー。まじ無いわー。可愛い女の子が育てた花を?何も無いからせめて歓迎の気持ちを込めて渡されたのに?踏みつける?無いわー」
「……あ、ついでとばかりに少女も踏みつけましたね」
「よし殺そう」


話が逸れたが、一部の人間による明らかな風評被害と勇者が来る現状に苛立つものの、魔王は穏やかに昔のように過ごしたいだけだった。

どうすれば人間に魔族が無害だと伝えられるか。
どうすれば自分を悪に仕立てた本当の意味での極悪を淘汰できるか。

魔王は考えて、殺して、考えて、壊して、考えて、ガーデニングして、考えて、途方もない時間を利用する事を思いついた。
単純に、長い時間をかけて人間たちを魔族側に取り込んでいくのである。

金でも容姿でも、取り込めれば何でもいい。何かに釣られて近づいて来た人間達に、魔族が敵ではない事を刷り込んでいく。その人間達が身近な人間を呼び、魔族への恐怖が薄れれば、距離は縮まる。最初で完全に消えなくてもいい。親から子、子からその子へと、魔族への意識の変革が起きれば、いつか全体的には魔王や魔族を淘汰しようとする人間はいなくなる。むしろ争いを引き起こそうとしている勇者やその支持者達が責められるようになるだろう。簡単ではない。だが、魔族という途方もない時間を生き、その気になればすぐにでも国を滅ぼせる力を持つ種族が、取れる中で最も優しい方法であることには間違いない。

「魔王様が隕石でも落とせば人間種はすぐに根絶やしにできますけど…」
「いや、美味しいならこんがり焼くけども」
「……食べたんですか?」
「いや?下っ端の下っ端がこの間廊下で同僚らしきものと自慢話に華を咲かせていて、人間が不味かったと騒いでいたからな」

……まあ、このやり方は実践する間も無く魔王の選択肢から消えた。

魔人族という新たな種の出現によって。

「魔王様のお役に立ちます。だからどうか、我々に力を与えてください…!」

人間領から逃げ出し命辛々魔族領にたどり着いた人間達は、勇者関連で環境が悪化して逃げ延びてここまで来た者達だった。魔王は己の血を与え、人間を魔族化させた。人間は強靭で長寿になり個体差はあるが皆が魔法も使えるようになった。代わりに魔王に絶対服従し、魔王の望みを叶える為に、人間族との橋渡し的な役割を担う事を誓った。

「人間達と仲良くしたいと言うわけでは無い。だが、人間達の中で勝手に言われているような、世界を滅ぼすだの人間を根絶やしにするだのというのはホラ吹きにも程がある。
やろうと思えばいつでも出来る。やる気があるならもうやってるからな。

我が貴様らに望むことは1つ。
永きにわたり我ら魔族を貶めて来た人間達の、我らへの恐怖を消し去り、関係性を善き隣人へと戻すことだ。お前達が間に立て」

そして魔王は力だけでなく、住む場所も生活に必要な服や食も与え、自給自足で事足りるまで面倒を見てやった。

第一世代(魔王が直接血を与えた最初の魔人達)はそれはもう魔王に感謝をし、必死に人間の説得をした。次の世代も同様だった。
しかし、その想いとて薄れていく。魔王が血を与えたのは第一世代のみ。その後の子、更にその子と血は薄れていき、人外的な力が薄まると同時に服従の強制度も落ちていった。

結果、

「…結局は、彼らは人間ですよ」

魔人達は魔人の国を作り、普通の人間よりも多少強い人間として生き、魔王との約束を破った。つまり、魔族と敵対した。

「無力故に迫害されたなら、力を得ればいい。力を得たなら立場は如何様にでも逆転できる。…賢いんですよ、人間というのは」
「……」
「魔王様はお優しい。彼奴らは、裏切ろうが魔王様が手を下さないと侮っているのです。侮辱ですよ。このままにして良いのですか」
「……姿形も、言葉も同じで、理解し合える条件は揃っているのに、対話ではなく、初めから武力で我々を根絶やしにせんとした人間は、あまりにも悪いと我は思う」

余りにも、脳が無い。

「理性のない生物ですら、恩を仇で返したりはしないのに、平気でそれをやってのける習性に関しては驚く他ない」

賢くもなければ、善良でもない。

「種が違えど、分かり合えると思っていた。だがそれは、我が間違っていたのだな」
「…魔王様?」

ああ、羨ましい。
この魔王すらも欺いて、平気でいられるその豪胆さも。
間違いなく種が違うのに、受け入れられたその事実も。全て。

「アルフィス様!」
「よく分かった。結局、我は間違えた。情けをかけるくらいなら、一思いに潰せばよかったのだ。どうせ我は悪い魔王。
国一つ命一つ残らず刈り取ったところで、今更評価が変わることなどない。手始めに、魔導国から始めよう。我を裏切ったのなら、罰を。…そうだな?」

魔王はこの時から反撃を開始した。仕掛けて来たなら容赦なくその者が所属する村を、街を、国を滅ぼした。

そして周辺国をじわじわと潰され、第一世代とそれ以下の世代間で大きな亀裂が生まれ、分断が起きていた魔導国に、とうとう魔王は現れた。
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