111 / 136
106.
しおりを挟む翌日、我はキエラ特製戦闘服(ぱっと見ボリューミーな黒スカートだが実はパンツ。パニエも一体化しており、機密性抜群。ブーツはヒール低めながら底は鉄板仕込みで踏んでも蹴っても肋の1、2本はぶっ壊す凶悪仕様!真下から見られたとしても死角はない!トップスもレースの特性を手首に活かした派手すぎず、かといって他の店では今のところ再現不可なデザインのブラウスに、猫耳フードなケープを羽織っている。首元を紅い大きなリボンで飾る完璧なる完成度だ)を着て、それに合わせたレースの傘を隣のルーに持たせて、闘技場にいる。
「アリス様、座り心地はいかがですか?」
「うむ。悪くない」
今朝方到着した(ことになっている)ラギアが我の為に漆黒の鉱石から創り出した椅子は、石だというのに座り心地が良く、しかし石の特性も残したまま、華奢で美しくスタイリッシュという素晴らしい仕様だった。マニアとかの間で物凄い値が付きそうだな。
「良い使い心地だ。ラギア」
「ありがたきお言葉…!」
後で我の部屋に移動しておこう。ラギアが嬉しそうだから。
椅子の使い心地を試しつつ、淹れたての紅茶の香りを楽しんでいると、傘持ちのルーが口を開いた。まだ従僕スタイルなので、人間に擬態中だ。
「…あのおー、どーしてこんな所でお茶してるんですかー?」
そう、椅子とセットで贈られたサイドテーブルにはケーキスタンドに紅茶も用意されている。こちらは料理長からだな。エディンでの依頼のために今は居ないが、昨晩我が決闘をすると聞いて、その前に食べるようにと作ってくれたのだ。相変わらず良い味に香りに食感。勝ったら勝ったで今日の夕飯も我の為に腕によりをかけてくれるだろうからわっくわく。知っての通り、胃袋はすでに掴まれている!悪くないけど!
「アリス様あー?」
「ん?…ああ、暇だろう?」
「えーっと、…そーです、かねー?」
我々は今、闘技場のその中心、何なら周囲に満遍なく剣やら杖やらを構えた不特定多数の人間たちに囲まれている。ついでに多勢に無勢の攻撃を結界魔法で受け止めながら、優雅にティータイムを過ごしている。
だって、暇なんだもん。
「誰も結界1つ、割るどころか揺らすことすら出来ないとは、弱すぎるだろ」
昼前とは言ったものの、いつから居るとは言わなかった我なので、仕方なく朝ごはんを食べてから闘技場に出向いた。すぐに人は来たのだが、それが何というか、学生たちでな。ここを使うのかと思って避けようかと提案したものの、我に答えることは無く問答無用で攻撃魔法ぶっ放し、剣を抜いて斬りかかって来たのだ。
「闘技場では相手を見つけ次第問答無用で殺しにかかるのが常識になっているとは思わなかった」
「いや非常識極まりないですよー。どう考えても盗賊とかと同種の振る舞いですよー」
まあ、斬りかかってこられたとはいえ、相手は学生。しかもあの王子ではないからな、殴るのは多分ダメ。仕方が無いので、あの王子が来るまで結界を張って待つことにしたのだ。…で、結界が壊されたら正当防衛を主張して、近くの奴からタコ殴りにしようと思ったのだが、見当外れて誰も壊せず、退屈凌ぎにおやつにすることにした。
「やること無さすぎて退屈だ。お茶くらい許されるだろう?」
「…まあ、いいんですけどー。……防音機能があればなー。弱いって言われて攻撃強くなって来てんだけどなー」
「何か言ったか?」
「いいえー、なにもー。……アリス様に殴られるよりは、攻撃通らなくて体力・魔力切れした方が怪我しないで済みますしー」
「我、ちゃんと手加減するもん」
それでもうっかりやっちゃったら、魔法で元通りにするもんと返したら、うっかりでもやっちゃう程なら手加減とは言わないとルーがぼやいていた。…ラギア、我の事を肯定するなら目を見ていって。
そしておやつも食べ終わり、そろそろ帰って料理長の作り置きご飯の時間になりそうな頃、王子は護衛と言うには多すぎる騎士団を連れてやってきた。
各王子に一つずつ騎士団が与えられているらしいから、それを連れてきたのだろう。…弱い奴ほど群れるって料理長がいっていた。
「はーっはっは!椅子に座って休憩とは!随分学生達相手に手間取ったようだな!」
…何人かに担がせた御輿の上に座って、高いところから我を見下ろしてそう言った。見当違いもいいところだな腹立つ。…腹立つけど、その前に。
「ラギア、ステイ」
急ぎ鋭く短く、ラギアを牽制する。杖を構えていたラギアは、魔法を発動する寸前でギリギリ止まった。
「首飛ばしたら大人しくしますからお許しください」
殺す。と目が血走ってる。落ち着け。アレをフルボッコにするのは我の仕事だ。
「却下。呪いが発動したらどうする。呪解と称してマルシュヴェリアルに身体の隅から隅まで撫で回されたいのか」
ラギアは、分かりやすく苦悩して、引き下がった。気持ちはわかる。我も以前採寸と称して散々触られたからな…。かなり嫌だったのだが、奴の作る服は全て我に超似合う為渋々許していた記憶がある。
それはさて置き。
「ルー。傘はもういいぞ。ラギアと共に下がっていろ」
「喜んでー」
実は闘技場で先ほどまで我を囲んでいた学生達は、魔力切れ、体力切れで1人残らず観覧席あたりで倒れている。攻撃が止んだ後、ラギアが風魔法で吹き飛ばしたの。観客席まで。
高低差のせいで王子からは見えていない。観覧席の床やら椅子やらに転がる死屍累々は。…あ。生きてるからな!ちゃんと!
1人残らずラギアに精神魔法かけられて心は折られているが、命はあるから些事だろう。死ぬ事以外なんとやら!
王子は我のいるフィールド内に騎士たちを連れたまま上がり、御輿の上から降りたらおりたで彼らの前に立ち、勝ち誇った顔を見せ、命令を下した。
「我が学園の精鋭達と戦うのは骨が折れたことだろう?しかし、僕は君を逃すわけにはいかないからな。疲弊しているところにトドメを刺すのはあまり紳士的では無いが、これも僕の王座のためだ!行け騎士たち!!」
別に騎士達に恨みも何もないのだが、彼らには退けてもらわなくては王子を殴れない。
そういうわけで、我は、騎士団丸々ひとつ、潰そうと思う。
だって料理長は言っていた。
"「騎士ならば、主人と共に散るものです」"と。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる