前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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翌日、我はキエラ特製戦闘服(ぱっと見ボリューミーな黒スカートだが実はパンツ。パニエも一体化しており、機密性抜群。ブーツはヒール低めながら底は鉄板仕込みで踏んでも蹴っても肋の1、2本はぶっ壊す凶悪仕様!真下から見られたとしても死角はない!トップスもレースの特性を手首に活かした派手すぎず、かといって他の店では今のところ再現不可なデザインのブラウスに、猫耳フードなケープを羽織っている。首元を紅い大きなリボンで飾る完璧なる完成度だ)を着て、それに合わせたレースの傘を隣のルーに持たせて、闘技場にいる。

「アリス様、座り心地はいかがですか?」
「うむ。悪くない」

今朝方到着した(ことになっている)ラギアが我の為に漆黒の鉱石から創り出した椅子は、石だというのに座り心地が良く、しかし石の特性も残したまま、華奢で美しくスタイリッシュという素晴らしい仕様だった。マニアとかの間で物凄い値が付きそうだな。

「良い使い心地だ。ラギア」
「ありがたきお言葉…!」

後で我の部屋に移動しておこう。ラギアが嬉しそうだから。
椅子の使い心地を試しつつ、淹れたての紅茶の香りを楽しんでいると、傘持ちのルーが口を開いた。まだ従僕スタイルなので、人間に擬態中だ。

「…あのおー、どーしてこんな所でお茶してるんですかー?」

そう、椅子とセットで贈られたサイドテーブルにはケーキスタンドに紅茶も用意されている。こちらは料理長からだな。エディンでの依頼のために今は居ないが、昨晩我が決闘をすると聞いて、その前に食べるようにと作ってくれたのだ。相変わらず良い味に香りに食感。勝ったら勝ったで今日の夕飯も我の為に腕によりをかけてくれるだろうからわっくわく。知っての通り、胃袋はすでに掴まれている!悪くないけど!

「アリス様あー?」
「ん?…ああ、暇だろう?」
「えーっと、…そーです、かねー?」

我々は今、闘技場のその中心、何なら周囲に満遍なく剣やら杖やらを構えた不特定多数の人間たちに囲まれている。ついでに多勢に無勢の攻撃を結界魔法で受け止めながら、優雅にティータイムを過ごしている。

だって、暇なんだもん。

「誰も結界1つ、割るどころか揺らすことすら出来ないとは、弱すぎるだろ」

昼前とは言ったものの、いつから居るとは言わなかった我なので、仕方なく朝ごはんを食べてから闘技場に出向いた。すぐに人は来たのだが、それが何というか、学生たちでな。ここを使うのかと思って避けようかと提案したものの、我に答えることは無く問答無用で攻撃魔法ぶっ放し、剣を抜いて斬りかかって来たのだ。

「闘技場では相手を見つけ次第問答無用で殺しにかかるのが常識になっているとは思わなかった」
「いや非常識極まりないですよー。どう考えても盗賊とかと同種の振る舞いですよー」

まあ、斬りかかってこられたとはいえ、相手は学生。しかもあの王子ではないからな、殴るのは多分ダメ。仕方が無いので、あの王子が来るまで結界を張って待つことにしたのだ。…で、結界が壊されたら正当防衛を主張して、近くの奴からタコ殴りにしようと思ったのだが、見当外れて誰も壊せず、退屈凌ぎにおやつにすることにした。

「やること無さすぎて退屈だ。お茶くらい許されるだろう?」
「…まあ、いいんですけどー。……防音機能があればなー。弱いって言われて攻撃強くなって来てんだけどなー」
「何か言ったか?」
「いいえー、なにもー。……アリス様に殴られるよりは、攻撃通らなくて体力・魔力切れした方が怪我しないで済みますしー」
「我、ちゃんと手加減するもん」

それでもうっかりやっちゃったら、魔法で元通りにするもんと返したら、うっかりでもやっちゃう程なら手加減とは言わないとルーがぼやいていた。…ラギア、我の事を肯定するなら目を見ていって。


そしておやつも食べ終わり、そろそろ帰って料理長の作り置きご飯の時間になりそうな頃、王子は護衛と言うには多すぎる騎士団を連れてやってきた。

各王子に一つずつ騎士団が与えられているらしいから、それを連れてきたのだろう。…弱い奴ほど群れるって料理長がいっていた。

「はーっはっは!椅子に座って休憩とは!随分学生達相手に手間取ったようだな!」

…何人かに担がせた御輿の上に座って、高いところから我を見下ろしてそう言った。見当違いもいいところだな腹立つ。…腹立つけど、その前に。

「ラギア、ステイ」

急ぎ鋭く短く、ラギアを牽制する。杖を構えていたラギアは、魔法を発動する寸前でギリギリ止まった。

「首飛ばしたら大人しくしますからお許しください」

殺す。と目が血走ってる。落ち着け。アレをフルボッコにするのは我の仕事だ。

「却下。呪いが発動したらどうする。呪解と称してマルシュヴェリアルに身体の隅から隅まで撫で回されたいのか」

ラギアは、分かりやすく苦悩して、引き下がった。気持ちはわかる。我も以前採寸と称して散々触られたからな…。かなり嫌だったのだが、奴の作る服は全て我に超似合う為渋々許していた記憶がある。

それはさて置き。

「ルー。傘はもういいぞ。ラギアと共に下がっていろ」
「喜んでー」

実は闘技場で先ほどまで我を囲んでいた学生達は、魔力切れ、体力切れで1人残らず観覧席あたりで倒れている。攻撃が止んだ後、ラギアが風魔法で吹き飛ばしたの。観客席まで。

高低差のせいで王子からは見えていない。観覧席の床やら椅子やらに転がる死屍累々は。…あ。生きてるからな!ちゃんと!

1人残らずラギアに精神魔法かけられて心は折られているが、命はあるから些事だろう。死ぬ事以外なんとやら!

王子は我のいるフィールド内に騎士たちを連れたまま上がり、御輿の上から降りたらおりたで彼らの前に立ち、勝ち誇った顔を見せ、命令を下した。

「我が学園の精鋭達と戦うのは骨が折れたことだろう?しかし、僕は君を逃すわけにはいかないからな。疲弊しているところにトドメを刺すのはあまり紳士的では無いが、これも僕の王座のためだ!行け騎士たち!!」

別に騎士達に恨みも何もないのだが、彼らには退けてもらわなくては王子を殴れない。

そういうわけで、我は、騎士団丸々ひとつ、潰そうと思う。
だって料理長は言っていた。

"「騎士ならば、主人と共に散るものです」"と。

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