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107. others side
しおりを挟む皆様こんばんは。
今年もお世話になりました。来年もちまちま更新していきますので、よろしくお願いいたします。猫側はいつも通り年末年始仕事に明け暮れます!(既に満身創痍なので、次の更新は遅れます。申し訳ないです)
それでは、皆様良いお年をお迎えください!
今年最後の更新はこちらです!!
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何が起きたのか分からなかったと言うほかないと、騎士は思った。目の前で、一瞬にして起こった出来事に対して、相手が何をしたのか、自分が何をされたのか、自分の状況はどうなっているのか、全てに理解が追いつかない。
唯一分かったのは、自分達の主人は喧嘩を売る相手を間違えたということだった。
「(か、身体が動かない…!何故俺の視界がこんなに低いんだ!?倒れているのか…?だとしても、何故…!!?あの少女は、指先1つ動かしてすら居なかったはず…!)」
自分の状況が分からない。それは非常に恐ろしい事だ。動くこともできず、思考しか出来ない。殺されようとしていても、防ぐ事も出来ないから。
「お、お前たち!おい!生きているのか!?返事をしろ!!」
殿下の声がする。よかった。殿下だけはどうやら無事のようだ。と安心すると同時に焦る。
「メルベル!」
殿下、と応えたいのに声を発すことは出来ず、指先すら動かない。眼球も今見えているものだけで視界は固定されてしまって、身じろぐことも出来ない。苦痛は無い。ただし、それ以外の感覚もない。意識だけはあるので、混乱するばかり。
「何が起きているのか知りたいか?」
急に目の前に少女の顔があった。紅色の瞳と目が合う。可愛らしい顔立ちの少女がことさら可愛く笑う。
はい、どうぞ。と、少女は簡単に騎士の顔を動かした。自分の倍以上身長も体重もある男性の顔を持ち上げ、その身体を簡単にひっくり返す。……そんな事が出来るのか?魔法か?
「ああ。魔法だとも」
…声が出なくてよかった。いや、出たとしても、絶句して結局声が出なかったか、若しくは団長にあるまじき悲鳴をあげていた事だろう。
身体が動かないのも、少女が最も簡単に騎士の身体の一部を動かせるのも、非常に単純な事だった。
第五王子の騎士団団長、メルベルの目に映ったのは、つい先程までと変わらず隊列を組んでいる騎士達と、その騎士たちの前で取り乱し泣き噦る王子。メルベルは、少女の腕の中から、それを見た。
騎士達の首は、ひとつ残らず其々の身体の横の地面に落ちて転がっていた。
「お前達の声が出ない、身体が動かないというのは尤もな事だと分かっただろう?何せ、頭と身体が繋がっていないのだから!」
少女は笑う。ひどく無邪気に。だからこそ余計に浮き彫りになる。その恐ろしさ。
「まあでも安心しろ。まだ死んでない。我が特別お前達に施した魔法をこのまま解除すれば話は別だが」
でなければ、今頃ここは血の海ぞ?と少女はまだ笑顔だ。
「思考だけは出来るはずだ。何せ、人間の感情や思考は頭だけで事足りるからな!」
「貴様っ!僕の騎士達になにをしたんだ!戻せ!戻せよぉおおお!!」
王子はもう半狂乱状態というに相違ない。
「…首を落としただけでピーピー喚くな喧しい。その程度の胆力で王になろうなど甘すぎて反吐が出る。何をしただと?目の前で起きた事が全てだろうが。せめて見て分からない事を質問してくれないか?我、お子様に付き合ってやるほど優しくはないのだ」
王子よりも余程幼いはずの少女が非常に大きく恐ろしい化け物に見えているのは俺だけでは無いはずだ。
笑っているのに笑っていない。そういって差し支えないほど、少女の声は、覗く瞳は冷たい。
「2回…いや、今回で3回目か。それだけ我と対峙しておきながら、実力差も測れないとは何とも嘆かわしい。同行させられた騎士達に同情…してやりたい気がしないでもないのだが…。よく考えてみれば、騎士達が我の実力を初見で把握出来ず、王子を諌められなかったのも悪かろう?だからこれは軽いおしおきだ」
首は刎ねたけど死んでない。それは果たして軽いお仕置きなのだろうか。
少女の指示で離れた場所に控えている従僕も隣の魔術師に疑問を呈していたようだが、魔術師は軽いとあっさり答えた。
「魂に苦痛を与えていない。アリス様ならあの状態で本当に首を斬られた時の痛みを感じさせることなど雑作もない。何せ首自体は落ちている。本来であれば痛みは感じる所を、痛覚無効付与という魔法で感じずに済むようにしてやっている。これぞアリス様の深い御慈悲だ…」
「…ソウデスネー」
首を斬り落とされる、痛み。考えるだけでも悍ましい。それはつまり、死の瞬間の苦しみを味わうということだ。
「安心しろ騎士諸君。まだ君らは死んではいない。王子がこれ以上間違えたら死ぬけどな?
肉体はまだ一応繋がっているし、我の気分で一瞬にして元通り。かなり酷い悪夢を見たとしか思えない程に元通りだとも!王子がこれ以上我を愚弄したらそのまま死ぬけどな?」
全ては王子に掛かっているのだ、と、我々の意識に刷り込むように、少女は笑顔で圧をかけ続ける。誰に?……殿下に。
…精神も幼い殿下に、どうすれば良いかなど分かるはずがない。
味方は一瞬にして死体同然の木偶になり、自身を守る盾はなく、しかも王子自身が身に付けている剣を使う自信すら少女は騎士団自体を感知できない早さで無力化する事で砕いて捨てた。
殿下の瞳孔は開いて身体は恐慌し固くなって、明らかに正しい呼吸をしていない。自分が何をすれば良いのか頭の中で整理もできずに焦って、焦って、恐怖して、目の前の化け物に、体裁の為に構えていた筈の剣を向けて行動するならば、きっと…。
「ぅ…うぁああああッ!!!!!?」
「それが答えか」
予想通りに、殿下は真っ直ぐ突進した。少女の胸にその剣を突き刺す為に。恐らく、自分が何しようとしているのかもわからないまま。
超つまらん。と、呟いた少女が、手にしていた騎士の頭をぽーんと高く放り投げて、その手の指先を殿下に向ける。
どうしてこんな事になったのだろうか。
今日は王子の側に控えて、外国の少女に圧力をかけるだけの簡単な仕事のはずだった。少女が可哀想だとも思ったが仕える主人のする事と、黙って従いここまで来た。過剰な暴力だと言われる覚悟だった。
実際は、真逆。こちらに魔導士軍がいたとしても心許ないかもしれない。今目の前で起きた出来事の中で、少女が使った魔法など聞いたこともないし、国内でも名門と呼ばれる一族であっても出来るとは思えない。
詰み、だ。
《「騎士は、主人と共に散るものだ」》
かつての同僚の言葉を今思い出すということは、ここが我々の終わりなのだろうとメルベルは思い……
「あららん?随分楽しそうじゃないのん?」
まだ終わりには早かった事を知った。
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