前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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113.

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冷たい、甘い、口溶けなめらか、つまり美味しい!

「……お気に召したようで」
「不機嫌になるな。料理長のほうが素材の良さをわかっていた。つまり単純な実力差だ」
「……トドメ刺さないであげてちょうだいアルちゃん…」
「美味しくてついうっかり」

美味しい料理は口の紐までなめらかにするなぁ。

料理長が作ってくれた今日のおやつは、ラギアの予告通りオサツだらけだった。いい意味で。どれも美味しいからな!飽きてないからな!?

オサツ餡をもちもちの皮で包み冷やした饅頭に齧り付きつつ、我の向かいの席で縮こまっている令嬢の動向を眺める。一応可愛いとは思うんだけどな、本当に服とのミスマッチが許されざるミスマッチなだけだ。

「…話を整理すると、ご令嬢は第三王子の婚約者で、だというのにその第三王子が何処の馬の骨ともわからない伯爵令嬢と婚約間近と聴き、いてもたってもいられず王都に乗り込み、婚約者の為に作らせた服を権力で黙らせて横取りした。…という事か?」

我に怯えつつもかなり私怨まみれの言い方だったからな、これでも事実を曲げている可能性大。

「マルシュヴェリアル。それは事実か?」
「被害妄想もいい加減にして欲しいわねん?そもそも婚約者じゃ無いわよん。リビちゃんの婚約者候補にすらあがってないわ。第五王子の方には年齢差的に候補としてリストアップされてたけど、リビちゃんとは離れすぎてるし、リビちゃんが欲しがるような才能も無いんだから候補にすらならないわよん」

それを第三王子への恋慕から暴走しまくり、彼女が熱烈にアピールしているのは有名な話らしい。…今まで指摘されたことは無かったのか、令嬢は呆然としている。

「…現実見えてない系の可哀想な子だったか…」
「リビちゃんの相手役に名前が出た令嬢とか、エスコートされた令嬢とか、ダンスをした令嬢には漏れなく噛みつくから、最近リビちゃんの婚約者って立場は敬遠され気味なの。この子の親は子供溺愛で周囲から迷惑って思われてることに気付いてないし、怒られたことなかったんじゃないかしら?」
「迷惑の塊じゃないか…。今回だけでかなりの人間が迷惑を被って不快に思っただろうな…」
「あら、何よりリビちゃんにも迷惑をかけたじゃない。ドレスは盗まれるし、しかも着られたせいで中古にされた。それをそのまま贈ることなんて出来ないでしょうし」

いや、そこに関してはよくやったと我は思ってるぞ。第三王子の足を引っ張りまくってくれてラッキーと。

「それよりもマルシュヴェリアルの職場への不法侵入及び盗難…いや、強奪と、お前の抵抗したであろう部下が心配だな」
「流石アリスちゃん。リビちゃんに微塵も興味ないのねん!そうね、心配だわん。抵抗したなら怪我してるだろうし、私の部屋の大事な備品や布、書類が破損してる可能性が高いわよねん?そうじゃないなら部下は買収されたってことだから、そっち方面で罰しなくちゃねぇ…」

まあ何にせよ、やったことがやった事。令嬢としての社交界内の生命線は完全に切れるだろう。

「お家取り潰しコースかしらん?リビちゃんも流石に周りを彷徨かれるの嫌がってるし、明日あたりお家と当主に直接沙汰が降るでしょうから早く帰ったら?」
「折角だからその菓子は食べるか、もって帰るがいい。2度と食べられないだろうからな」

マルシュヴェリアルは自分で帰れば?と言ったのに、自主性に任せるどころか使用人と王城から派遣されているという騎士を呼び出して、強制的に馬車に詰め込むことにしたようだ。

仕方ない。土産に料理長のスイーツを持たせてやろうという我の気遣いだったが、ラギア達によれば《社交界からも貴族界からも追放されて、お取り潰しになり、平民となった場合には2度と贅沢なデザートは食えないだろうから、最後の晩餐ならぬ最後のデザートを味わうがいい》という風に聞こえるそうだ。

…我単純に、このめちゃうまな料理長のデザートを食べる機会は2度と訪れないから、味わっておいた方がいいという意味だったのに。食べて幸福、それが2度と得られない事に気付いて絶望。どうだこれぞ一度で二度と美味しいというやつだ。料理長が言ってた!

「……貴族風の嫌みと負けず劣らずの嫌がらせだわん。流石アルちゃん…」
「感服致しました…!」

マルシュヴェリアルは恐れ慄き、ラギアは恍惚とした表情で我を見ている。もう令嬢のことは眼中にも無いらしい。
令嬢は自分のやらかした事でどんな影響があふのかについて漸く考え始めたらしい。慌てて今すぐ許しを乞おうとしているが遅い。全て遅いのだ。しかし、流石現状が見えていない系というか、自分を部屋から連れ出そうとする使用人達に暴れて抵抗。……貴族のマナーに、暴れるって抵抗方法あるのだなぁ。

見苦しいので影に命令して両腕を背中側に拘束、口も塞いだ。急に黙って大人しくなった令嬢に対して使用人達は驚いたが、連れていけと指先を軽く払う仕草で伝えれば直ぐに回収して部屋から出ていった。うむ。


「ようやく静かになったな。アレが陽の目を見るのを許されているという事は、公爵令嬢か王家に所縁あるものということか?」
「ええ、そうよん。脳筋公爵家の末娘」
「世も末ですね。普通なら周囲の貴族が黙っていないはずです」

言い方。まあ、たしかにそうなのだが。話を第三王子の鏖殺について戻したいがその前にどうしても気になる事が出てきた。
実はこの国に入ってからというもの、行く先々であまりに高飛車な令嬢やら令息を何度か見かけたのだ。…学園周辺とか、特に。

「この国、問題児多くないか?」

マルシュヴェリアルは何かの失敗を思い出したかのように、視線を逸らした。誤魔化しは許さん。


「…最初はねん、…血を薄めないためだったのよん」

かつて本気で魔導国を潰そうとする我の襲撃を受けたその後残ったのは50にも満たない魔人達だけ。魔人達はその血に含まれる魔王の血を薄めないために近親者での婚姻を繰り返していったという。

「…魔法を失いたく無かったからということか?」
「ええ。そうよん。いとこ、兄妹、……親子なんていうのもあったわねん」

生き延びたものが数を増やして数世代。魔法の力が弱まっている事に気付いてからはその傾向は顕著だったらしい。


「でも結局、魔法はゆっくりと消え始めて、今ではろくに魔法が使える子はいないのよ。王侯貴族の中でも"使える"レベルの魔術師は少ないの。魔導国なんて名前に縋って、必死に国内外問わず優秀な魔法使いを求めてるのよん」

グレちゃんのスカウトなんかがいい例ね、とマルシュヴェリアルが笑いを堪えつつ言う。無駄な事に必死になっている姿を思い出してなのか、滑稽なところがツボにハマってしまったらしい。……性格悪いな。同感だけども。

「……魔法が使える人材自体が減少したため、使える事自体がステータスとなり、ああいった令嬢やらが多くなったわけか」

魔法が使えるの~、凄いでしょう!?と鼻高々という事だな。……随分と、ちーさいことで大喜びしているものだなぁ。
……幾ら我が血を与えたからといって、ほぼ人間。同族達で数を増やしたところで、その子や孫にその血がすべて均等に継がれるはずがなかろうに。何なら我の血が極限まで薄くなっていくだろうから、今の魔導国がその名前に恥じる実態になった原因は、度重なる近親婚に間違い無いだろう。

そして、

「マルシュヴェリアル。原因を知ってて教えない辺りが流石だな」
「えー?マリアンちゃんは、そうかなーって思っただけで確信したわけじゃないものん」

…証拠があろうが教えなそうだな。別にそれで良いのだが。アイス、おいしい。


「で?それはあの第三王子の行うであろう鏖殺に関係してくるのか?」

そう思うあたりが流石アルちゃん。とマルシュヴェリアルはムースを掬いながら嗤って、

「その目的はね、」

続いた言葉に、我は掻き消しようのない憎悪を抱いた。

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