前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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"選民"

…あー。自分で口に出すだけで吐き気がするぞ。よくそんな言葉を実行する気になるものだな。まったく!

「この身に流れる高貴な血を枯れさせた愚かな老害達やその思想に染まった連中を一掃するだけだよ。全ての国民を狩り尽くそうという訳じゃ無い」

先程までの動揺はどこへやら。何のかは知らんが余裕の笑みを浮かべている。

結果的に殆ど全ての人間が死んでしまうならそれは仕方のないことだ。と、…そう言われたそばから腹が立つ。……うむうう。魔導国の人間殺しまくった我からすると、どうでも良いことだからな、これはアリステラの感情だな…。
我も腹立たしい思いはあるが、それは別のところにある。

「貴様のしようとしていることは、ただの虐殺だろう」
「この国が魔導国であり続ける為なら正義だよ」

うわ。うすっぺらい!その笑顔は胡散臭い!消臭スプレーはどこだ!!我の常備品の中?…そんなもん、マルシュヴェリアルに使い切ったにきまっておろうが。今頃料理長がルシアと共に新しく数種類開発中だ。

さて。

…うむ…魔族ならなぁ…。弱肉強食、強者に服従という分かりやすい構図の為、前の魔王が否と言いそれに従っていたとしても、新たな魔王が是といえば是になる。非常に簡単なのだ。
比べて…人間は寿命のせいか継承を好む。親がある思想に染まっていれば大抵その子もその思想に染まる。…だから前世、我を倒そう、魔王は悪だと言う思想が蔓延し、勇者が何百年、何千年と襲撃を繰り返した訳だ。

ついさっき舌戦には諦めがついたが、舌戦になったとしても決着は無かっただろうな。我とこいつとでは、あまりにも物の捉え方も何もかもが違い過ぎてて。

そこで、"魔王"を望むこのガキにそれでもわかるように1つ言いたい。

「親の罪咎を子供が背負え、それ故死ねと思っているようでは、魔王になるには器が小さ過ぎるぞ」

…お。いい顔になったな。器が小さいあたりに反応したのか、笑みが消えた。うむうむ。素直が1番。


「…」
「我が思うに、魔王を語る前に王としての資質も少々怪しそうだが、そこはどうでもいい」

我、前世はいつの間にか魔王と呼ばれていた魔王だから、王という存在については正直どうあるべきとかどうでもいい。魔族の食物連鎖の長が我ってだけだったし。我はやりたいことやってただけだし。自由に。

だから、どうでもいい。ただ、前世の我の存在が、生き方そのものが魔王だとするのなら、やはりこの王子は魔王にはなれない。

「国だの、未来だの、魔王にとってはどうでもいいからな」

そうとも。我は我が快適に過ごせるように好きな事をしていただけなのだから。そんなもの考えたことあるものか。

「国の為に魔王があるのではない。魔王のために国が出来たに過ぎない。魔王はどこまでも自由なのだ。
己の自由を謳歌できない者が、魔王になどなれるはずが無かろう」
「……分かった。もう、十分だよ」


深く吐かれた息には、諦めというよりは、苛立ちが含まれているのだろうな。

「君となら話し合いで済むと思ったんだけどね」
「できる訳無かろう。
…だって我、まだ小さい女の子だもん」

何がおかしいのか、本当に屈託なく笑いやがった。いやそっちの方がよっぽど素直でいいんだが。いやよくはないか。

「……。うん、そうだね。でもその実力は把握できた。ハンデ付きで何とかなるほど甘く無いみたいだから…悪いけど、手加減無しで君を倒すよ」

漸く戦う気になったらしい。そのまま我からある程度距離をとって、杖を取り出した。胸ポケットに忍ばせられるほどの長さ。その先端には宝石が付いている。…宝石というか、あれは魔石……ああ、魔鉱石の方か。ラギアが持ってるやつよりもランクが上だな。

ランクが上と言うことは勿論、使える魔法も多いということだ。

「君は先程、君を得てもそれは私の力にはならないと言ったが、それは間違いだ」

杖を一振りすれば火球や水流弾、竜巻の子、光球そして影が顕現する。我の足場(暗殺者)がまた一段ともがく。多分逃げたいのだろうな。巻き込まれたら死ぬだろうし。
煩いので離すついでに蹴り飛ばして部屋の端に寄せておいた。…しまった。ラギアの方に飛ばしてしまった。我の足元にいた方がマシだったかも。

…それはさておき

「ただの魔鉱石ではないな?」
「よく分かったね」

嬉しそうに笑うな腹立つ。

不思議な事に、5種の魔法から全く違う5種の魔力を感じる。

普通ならあり得ない事だ。
個人が複数属性を持つことはあり得ても、川が複数に分岐してもその水源は変わらないのと同様に、個人が数種類の魔力を持つことはあり得ない。

「……奪ったな?」
「……君は本当に、何者なんだろうね?調べはついてるから素性は知ってるけど、それだけじゃないのがよく分かる。君の力を得たらわかるのかな」

答える気は無いだろうが、我にはわかる。何せ我は前世魔王。この王子が何をしたのかくらいお見通しだ。

この野郎、恐らくだが他人の魔力を魔石に封じ込めて、その魔石を合成して魔鉱石にしやがった。
なるほど、確かに我の魔力を奪うつもりなら魔王に近づくというのも納得。そして既にある魔法だけで僅差だとしても我に勝てる気満々と言ったところか。
……舐められてんな。

どうやってそんな事をしてるのか?
方法は色々と思いつくものの、全て取られる側に負担がかかる。最悪命がないかもしれん。…配下の心配1つ、気遣い1つ見せない所からしてもう(アリステラとしては)人として嫌いな部類だし、(我としては)例のゲス剣思い出して不快。コイツと結婚とかマルシュヴェリアルがロリコン辞めてもあり得んな。

「我が何者か。そんな事を知りたいなら教えてやろう。
王子だろうが乞食だろうが気に入らない奴はぶん殴る冒険者、アリス様だ」

吹っ飛ばされてもそれだけは忘れてくれるなよ?
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