前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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火花が散って、炎を纏った巨大な岩が宙に浮かぶ。
それは酷く音を立てて砕けて、我目がけて不規則に降り注ぐ弾丸のようになる。

「ふむ。なかなかだ」
「なっ…!?」

中級魔法、《火炎群》から始めるあたり、周囲への影響を考えてなさそうだが。服と肌が焼けるのは嫌だから軽く水魔法で強化して、全力で燃える岩を片っ端から蹴る殴る。粉砕してしまえばただの砂!無害無害。

王子、びっくり。といった感じだな。この程度で驚くとは他愛無いな。最上魔法を素手で砕いた訳では無いのだが。

ついでではあるが、防衛力ゼロと思われる王子の側近達も、ラギア達のついでに結界魔法でまもってやることにした。だって王子、守る気ゼロだもん。可哀想だ。その側近達の状況が同情的すぎて駄賃がくる。彼らは今後、敵に大人しく守られた実力者になるのだ。…気付いた時の羞恥が目に浮かぶ。るんるん。

「けほっ、あ、アルちゃん、埃は身体に悪いわよんっ…!」
「アリス様!今すぐに防塵対策を取ってください!お目々が痒くなりますよ!」

マルシュヴェリアルから文句がきたので無視しようとおもったが、目が!?なんと!それは一大事!

「【雨降れ雨降れ】…あ、柔らかい感じで」

さーっと軽く細やかな水がこの場一帯に降り注ぎ、宙に舞った砂や粉を床に落とした。うむ。流石我。絶妙な弱さ加減。
王子が目を丸くした。そんなに驚く事もなかろうに。

「流石ですアリス様…!」
「ええ、流石だわ…。私、あんな呪文で雨降らせないわよん……」

驚く事だったらしい。え?出来ないの?寧ろ出来ないのか?雨降らすだけだぞ?雨というか、……水?

大事なのはイメージであって、別に呪文や術式など補正・補助要因でしかないだろう?…まあいいか。

気を取り直してなのか、次々と飛んでくる攻撃だが当たらなければ何の意味もないし、…当たるほど我、鈍間じゃないのだ。先程より数は少なめで質を上げてきた火焔弾を殴って粉砕。忍び寄ってきた影魔法をついでに床ごと粉砕。

頭上に飛んできた氷柱を一本鷲掴んで振り抜けば我を中心にして幾つかの火球が周囲で爆ぜた。うむうむ。3手先まで読んで仕掛ける相手に対し、計算も手札も自力で潰していくこの何とも言えぬ侵略感!うずうずしてしまうな!

しかし、急に攻撃が止まる。…さっきので魔鉱石に集めた魔力、使い切ったようだ。

「ほれほれどうした!威力も弾数も下がっておるぞ!」

悔し紛れというのか、無駄撃ちはしない主義だと返してくるが、どう考えても無駄撃ちしてただろう。この短時間で、しかも中級魔法と下級魔法連発したくらいで内蔵された魔力が尽きるなら、絶対最初の中級魔法がまさに無駄撃ちだったな。我なら絶対そんな使い方しないもん。

外野が上手く煽っているお陰で、王子はとうとう自分の魔力を使う気になったらしい。足りない力を補って、先ほどまでと同じ攻撃を繰り返す。
それなりに威力を込めた分かりやすい囮の攻撃魔法、影魔法を注意が疎かになりやすい足元に忍ばせて、避ける事を想定して左右と前後に罠を仕掛ける。

「芸が無い」

そんな何番煎じで我が仕留められると思うな。

この程度、元魔王は拳一つで容易く砕き割る。
…ある日手にしたであろう巨大な力を、無敵と思っていた力を簡単に凌駕する力を見た時、人間は思う。

どうして、と。

しかし事実は何の種も仕掛けもなく、ただ単純に実力の差、格の違いというやつが横たわっているに過ぎない。

漠然とした疑問の後には焦燥と恐怖が襲う。それを振り切りたいがために己が使える中で最も凶悪な技を繰り出す。ほら、追い詰められたウサギの蹴りみたいなものだな。

「っ…き、えろ…!」

繰り出したのは青…いや白?仄かに青色がかった白の火球。むう…。黒には程遠いな。まあ人間なら容易く骨まで焦がせるだろうが。

「えいっ」

手刀で遠慮なく二つに割る。秘技!ただの瓦割り!ちょっと熱い!火傷したか!?……あ。治った。

(多分)イチ押し魔法を力技で叩き壊されて心が折れたのか、それとも単に魔力切れか。杖を持つ方の腕が下りて、痙攣気味に震えている。自分自身の限界も知らんのか、呆然と己の腕を見ている。

んー。魔王にも程遠ければ、我が力を貸したとてその力を制御出来るだけの器とも考えられん。
…もっと煽るか。まだ身体の中には魔力が回っているようだし。使い方拙いからそうなるだけで"体全体の魔力"を使えればもうちょいマシになるし、上級魔法も使えるだろ。


と、思ってたところでまさかの上級に等しい新魔法!しかも使ってる魔力量が桁違い!元々この場に仕掛けておいたものだろう。小賢しい!でも派手で楽しい!我好み!

流石に軽く保護した手で叩き落とすのは無茶だったのか軽く痺れた。お陰でおめめぱっちり。

「足りぬ。個人でそれだけの力があるのなら、もっと上手く使える筈だ。だというのに、願いの為に貴様は全てを尽くせていない。もっと自由に、もっと強く。願いの為なら、自身の望みのためなら!尽きて尚、限度を超えても突き進める筈だろう?それが人間なのだから!」

次ないかな?と、期待を込めて見れば、…あれれ。そんな穏やかな顔してくれるな。というかいつ自分にかけてた精神魔法解いた?もしかして精神魔法対策の為じゃなくて、単純に自分の闘争心煽るために頭に魔法かけてたのか?

え?じゃあもしかして…これ、本当に限界?

「ありがとう…」

そうして柔らかく礼を述べて、…倒れた。

「お、おーい!」

起きてくれ!我の拳が消化不良ーーーー!!
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