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116. Another side
しおりを挟む火球系の最上魔法《流星群》を少女はただ蹴り飛ばして破壊していく。流れ弾や破片がギャラリーと化した私の側近や少女の付き添いとマルシュヴェリアルに向かうと、結界魔法でわざわざ守ってやっている。
自らの身を守る為に魔法を使う程でもないということだろう。それは、つまり、恐らく国内最強の魔術師である筈の私が、少女からすればただ道端の草という事。差は、歴然。
(どうして)
"魔王になどなれるはずが無かろう"
頭の中で先ほど突きつけられた言葉が回っては思考に棘を刺す。
「ほれほれどうした!威力も弾数も下がっておるぞ!」
「っ…!無駄撃ちする趣味は無いんだよ…!」
「無駄撃ちと言うならアリス様に1つでも着弾してから言え。出来ないだろうしやったら私が貴様を炭にするが」
「あらやだわん。必死に手札が無いのを隠してるあたりが可愛いじゃない。アルちゃんが暇そうだから、もうちょっと頑張ってほしいところだけど」
足りなくなってきた魔力を自分のもので補って再度魔法を撃つ。避けた先を想定して影魔法を走らせて、その周辺にトラップを蒔いて、跳ねる事を想定して…!これでも足りないのか!?
まるで何でもない事のように、その少女は攻撃を避ける。いや、避けているとすら思えない。ただ楽しく散歩でもするかのように無邪気に、くるりと回っては跳ねて、時に何かを見つけて拾うような気楽さで、身内と会話までして。
私の努力など、ただの徒労なのだと突き付ける。
自由とはかくありと、多少魔法で保護しているだけの手脚で攻撃を全て相殺された。
火球も水流弾も、影魔法や勿論風魔法もなに1つ少女の隙をつけない。
彼女は私にダメ出しする余裕まであって、使えるであろう時の魔法をまだ1つも見せない。それどころか……認めたく無いが、私が遊ばれている。
"君では魔王様に遠く及ばない"
また頭の中を"声"が揺らす。煩い!
振り切るように最上位の火炎魔法、広範囲を消しとばす《死の炎》を撃ち込んだ。魔力がかなり消費される上にこの城が壊れるだろうから撃ちたくはなかったが仕方がない。
「ん!?ちょっと熱い!」
「アルちゃん!火傷はダメよん!?暫く皮膚がピリピリしちゃうわん!」
「…治ったー!」
「流石ですアリス様!」
…仕方ない、それでも容易く相殺されてしまうのだから。相殺というか、ただの手刀ではたき落とされた。先程簡単に崩れ落ちていった部下たちの気持ちが物凄く分かる。
(私は、)
怒りか、恐怖か、諦観か。力が尽きていつのまにか降りていた私の右腕は震えている。
「ほれみろ、折角手札を得ようが使う人間が無駄にしている。その程度でよく我を手に入れるだなどと戯言宣えたものだな!」
戯言ではない。私は、この力で側近達を、この国の各属性で最も強い者たちを屈伏させた上で配下にしてきた。だというのに何故こんな、…こんな少女1人に遊ばれる!?
"可能性が無いとは言い切れない故、特別にこれをやろう。もし、お前がそれを使いこなすことが出来たなら、魔王を名乗る資格を得られるだろう"
……見てくれだけの世界に押し戻された私は、力を求めた。足掻いている時に渡されたのがこの魔鉱石だった。それは魔導国には存在するはずのない…それどころか現代にある筈のない代物だった。
国宝どころか世界財宝級に値するそれを何故持っているのか、立場の関係で追及出来ず、しかし私にはこれ以上無い必要な道具だった。力が欲しい、私には。
そうだ。私は力が欲しい。大嫌いな世界から抜け出す為にはもう、"自分が王になるしかない"。ただの王では国に縛り付けられるから、"魔王になるしかない"。
僕が僕のままで生きるためには。
「……?」
「どうした限界か?貴様の"魔王"への渇望はそんなものなのか?」
"魔王"…?
少女が動きを止めた僕に投げかける。強く、真っ直ぐに煌く紅い瞳は、到底敵わないと思うくらい膨大な魔力を纏いしっかりと立つその小さな身体は、硬いのに脆い宝石の様な見た目に反して、何をしても壊れない安心感をもたらす。
僕の中に浮かぶ漠然とした違和感など簡単に消し飛ばしてくれそうな、そんな希望を抱かせる。
渇望、欲望、ただ希う。"私"は"魔王"になりたい。なれば、…なれ、たら?
…わからない。
わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない……!
あたまのなかが、ぐちゃぐちゃになる。
わからないのに痛い気がする。
わからないものに塗り潰されているような。
ぼくは、いわれた。
"殿下が" "を望むなら、"魔王"になるのが一番の近道でしょう"
…そう、だから僕は、魔王にならなきゃ。そしたら" "が手に入る…?…違う、私は"魔王"になりたいのであって、だから" "は得られない、要らないもので…。
「っ…!」
僕は魔王になりたいのか?それが僕の終着点?
何かがおかしい。おかしいのはわかるのに、何がおかしいのか分からない。
あたまのなかがきもちわるい。
……もういい。全部、吹っ飛べ。僕も含めて。
最終手段としてあらかじめ仕掛けておいた光系の最上攻撃魔法を発動する。この広間にいる全ての者を骨の髄まで焼け焦がす雷が見境なく降り注ぐ手筈だ。本当はいざとなった時の証拠隠滅用に、僕と側近達で半月かけて膨大な魔力を注ぎ込んで作ったものだった。
(…僕、は、ただ…、欲しかったのは、)
死を前にして思えば、おかしいことばかり。
だって僕は、【魔王になりたかったわけじゃない】。
パリンと、何か頭の中で壊れた。
同時に多分、頭上で割れる様な音がした。彼女はいつの間に目の前に来たのだろうか。
「足りぬ。個人でそれだけの力があるのなら、もっと上手く使える筈だ。だというのに、願いの為に貴様は全てを尽くせていない。もっと自由に、もっと強く。願いの為なら、自身の望みのためなら!尽きて尚、限度を超えても突き進める筈だろう?それが人間なのだから!」
…魔法はまたもや容易く掻き消されたらしい。僕らの半月は、多少魔法で保護した小さな手で虫でも払うように叩き壊されたのだと理解して、側近達はただでさえプライドが折れていたのに、もう立ち向かう気も起こらないらしい。…まったくもって、同意しかないけど。
「……確かにそうだね。君のおかげで、僕は越えられた。僕は紛れもなく、人間なんだね…」
「ん?」
やっと、"悪魔"から逃れられた。奴からの支配に打ち勝ったと言うべきかもしれない。
怪訝そうに僕を見た少女の姿が次第にぼやけていく。
「ありがとう、僕はようやく、思い出せた…」
「お、おい?大丈夫か?」
身体の力が抜ける、視界がぼやけて狭まって、全ての音が遠のいていく。
僕はただ、自由が欲しかっただけなんだ。
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