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しおりを挟む「お、おーい?」
自前では無いにしろ炎の中級魔法《火焔群》で火蓋を切って落としたから、今まで会った中で我が配下以外ではもしかして1番の魔術師かもしれん!と内心楽しみに煽りすぎたせいだろうか。
「お、おきろ!寝るな!?」
あまりにも穏やかな顔で我に礼を言ったあたりからあれれと思ってはいたのだが、パタリと倒れおった。
まだ殴ってないのに!!我の拳が消化不良だ!今からでも遅く無いから起きろー!!
「アルちゃんアルちゃん。……殺っちゃったのん?」
「濡れ衣だ!!!」
マルシュヴェリアルとラギアがその辺の瓦礫やらガラス片を避けながら我らに寄ってきた。王子の側近達は…うむ、部屋の隅で腰を抜かしたり目を回したり気を失ったり現実逃避してる。あ、顔を真っ青にしてぶるぶると尋常じゃない震え方してるやつもいるな。……1人くらい自分の主の心配すればいいのに。王子よ、人望無いんだな、我と違って。かわいそうに。
「やーねん、じょーだんよん。大魔法をあれだけ連発したら倒れるに決まってるじゃないの。ほらそこら辺で役に立つどころか立場上敵に守られた良いとこなしの側近達!自分達の命が惜しいならさっさと主人を運んでアルちゃんへの謝罪方法考えて怯えなさいよん!」
マルシュヴェリアルの怒号に反応して、先ほどまで部屋の隅でビクビク攻撃飛んでくるたびに怯えていた情けない者たちが王子を回収して脱兎の如く逃げていった。…えー?
「…あの程度の魔法放ったくらいで魔力切れか」
「アルちゃん。魔族から見たらアレは中級魔法だけど、人間からすると上級通り越して最上魔法らしいわよん?」
そんな馬鹿な!?
「発動した瞬間被術者の身体が腐り落ちる事もないのに最上魔法だと!?」
「……アルちゃんのその魔法、魔族でも出来ないから比較対象にしちゃダメよん?」
「でも発動して半日後腐らせる、くらいまでなら料理長もやってたぞ?」
我に送られてきた刺客とか刺客とか刺客に。
「腐った根性の持ち主なら分かりやすく見た目も腐らせてやるのは優しさだと料理長が言ってた」
「ガドフちゃん!?」
ここに居ない料理長の名を急にマルシュヴェリアルが叫んだ。一体どうしたと言うのだろうか。
…ん?安心して欲しい。一時的に身体の毛穴や付近の皮膚が腐り毛という毛が抜け落ちた後皮膚は再生して元通り!結果、ただのハゲが出来るだけである。命に別状はない。
「ラギア?」
先程から一点を見つめたまま静かに黙って動かないラギアがこわいんだが。アノクを相手に右ストレートを決める許可欲しいんだが。
「…アリス様、お洋服の裾が…」
「ん?………ぃ」
示されたのは本当に裾部分。サテンと繊細なレースが折り重なり付いたヒダも見事なスカートの裾。
「「…"ぃ"?」」
我は、気付いてしまった。
「ぃ、いやぁああああ!!?」
あの最後の雷、我の服を所々焦がしていきやがった!!!?折角のキエラ製なのに!台無しではないか!!一部レースのみを重ねた部分のスカートの布が裂けて深いスリットになってしまっている!あの野郎!
「ま、まあまあ、アルちゃん。私がすぐに新しいの持ってくるから待っ…「しかたない…。予備のものに着替えるか」アルちゃん!?私これでもこの国1番のブティックオーナーなのよ!?」
「……分かった。ただし、着替えは自分でする。お前は部屋の外待機な」
「ぐ…っ…!背に腹は変えられないわん…!キエラなんかに負けないんだからぁん!!」
マルシュヴェリアルは分かっているのだろうか。すぐに着替えられる距離にあるマルシュヴェリアルの仕事場に置かれているドレスがあの中古品しかない事を。
捨て台詞を吐きながら退室していったマルシュヴェリアルをラギアが鼻で笑ってた。相変わらずだな。そして無言で我にドレス一式(キエラ製)を差し出す。
後で慰謝料及び洋服破損代をふんだくってやる。
「ラギア、あの王子の使者が来たら盛大にぼったくれ」
「心得ております」
うむ。
フィッティングルームを魔法で作って着替えた頃に戻ってきたマルシュヴェリアルは、勿論着替えを持っていない上、我が既に着替えていることに悔し涙しながらも超絶似合うと悶えていた。
一頻り悶えて興奮し切って満足したマルシュヴェリアルが、ラギアに給仕をさせて寛ぎ始めた我に対して首を傾げた。
「ところでアルちゃん、いつまでここに居るつもりなのん?」
「ん?決まっておろう。我に用事がある何某かがさっさと出て来て洗いざらい話すまでだ」
またここにくるの、面倒。
建物ぶっ飛ばして物理的に対面する方法もあるが、それをするのは良心が痛む。…というか、この離宮の壁画が大変我好みの為ぶっ壊すの嫌なのだ。アレに似てる。トドメ刺されてる勇者ガイコツ。
「…人払いされてるのに、誰が居るって言うのよん。ねえグレちゃ「アリス様が居ると言うなら居る」……そうねー」
……ラギア達はどうやら気づかなかったらしいが、ここに来た時からずっと、我らを観察していた者達がいる。
其奴らは集められた超エリート側近達より余程"魔法を使い慣れていた"。
暗殺者よりも上手く気配を消し去って、水魔法を応用して背景と同化して、こちらをずっと窺っていた。
万一のことを考え、こちらも戦力を揃えたくてマルシュヴェリアルが戻るのを待ったが……そろそろよかろう。
「一体どこの誰かは知らんが、早く出て来い。"我は寛大だが、我にとって不利益なものに優しくあるほど善良ではない"のでな」
「「…っ…!?」」
…ラギア達が動揺した。それもその筈だ。
急に立ち込めた霧を我が風魔法で引き飛ばした後、何もなかったはずの空間に、十数名もの顔を隠したローブ姿の人間達が現れたのだから。
「貴様ら、何者だ!」
「アルちゃんに近付くなら容赦しないわよん!」
ラギア達が我を守るよう前に出た。
ローブの集団の中から1人、前に出ると皆がフードを外して顔を見せ、その上で跪いた。
「この度の無礼をお詫び申し上げます。この国をお許しください。
そして…どうか願わくば、もう一度だけ…罪を贖うその為に、我らの命を見逃してくださいませ…!
魔王様…!!」
見覚えのある"魔人"が、そこにいた。
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