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しおりを挟む額を擦り付けて命乞いをされる事には慣れている我だが、状況的には些か違和感があるためとりあえず整理がしたい。
「我、魔王じゃないから頭あげていいぞ」
元魔王である我が見覚えのある魔人だとしても、アリスからすればただの他人。見知らぬ人。よって、頭を下げられる謂れはない。
「いえ。アリス様に平伏さないのはおかしい事です」
「それはグレちゃん限定の常識よん?」
うむ。そうとも。だから不思議そうな顔をしながら、端の方で頭を上げ始めた奴らの頭を腕力でおさえこむな。お前は怪力担当じゃないだろ。床にめり込んでいるではないか。
「……ま、…魔王様では、ない…?」
「うむ。気軽にアリス様と呼ぶが良い」
「光栄に思え…!」
ラギア。今度は空中に引き摺り上げて脅すな。床にめり込んでいたのがいけなかったわけではない。
いいから大人しく、空になった我のカップにお茶入れに戻ってこい。
「我はアリス。冒険者をしている。ただの人間だ。…貴様らは何者だ」
…とまあ、聞いてみせるが、勿論知ってる。元魔王である我が殺し損った魔人達だろう。今となってはどうでもいいけど。だって数千年前の事だし。何より、我は元魔王ではあれど今は違う。魔導国襲撃当時の記憶あたりから曖昧になっているから殺意が湧かんだけかもしれんが。
我が今、ぐっちゃぐちゃになるまで復讐したいくらい恨む相手がいるとするなら、あのゲス剣とあの勇者と、歴代勇者を派遣してきたあの国だけ。しかもやろうと思えば魔法1つで何とでもなる。この国とて同様。できるがやろうとは思わん。
魔人達は顔を見合わせることもなく、黙り込んだ。…あれかな。脳内会議中。つまり、
「念話で打ち合わせするなら、話をまとめた上で来い。それか上辺だけでもマトモな話をするがいい。我の時間は有限なのだ」
若さは有限!特に砂糖と油に耐えうる胃である時間が!!
「ッ…我々は…!……この国では、元老院と呼ばれています。この国最古の…"人間"、です」
1番前に出ていた魔人がひとり話を始めた。…うむ、独断という感じか。圧かけたの我だけど、判断早いことは良いことだ。
「…貴女様が魔王様ではないと言うのなら、失礼いたしました。重ね重ねお詫び申し上げます。
そして無礼を承知でお願い致します。
どうか、この国をお助けください」
その魔人は…いや、人間は、片膝どころか両膝を床につけ、しっかりと頭を下げた。灼華に推しやら同担拒否のついでで教えてもらったのだが、ドゲザというやつだった。灼華のいた国では最上級の謝意や懇願の際に使われるそうだ。
そこまでされては仕方があるまい。
「我は冒険者だからな、報酬はそれなりのものをもらうぞ。その上で頼むと言うなら詳細を聞いてやろう。話せ。ただし……」
「た、ただし…?」
「料理長のランチが先な」
若い胃袋は有限だといっただろう?
マルシュヴェリアルの屋敷に戻り、早速本日のランチにありつけた。美味!
「……アリス様、本日のデザートのフルーツを倍にするので、そこの不審者達を元の場所に返しませんか?」
「フルーツ…」
「アルちゃん。私の分を半分あげるから、拾った物の面倒は最後まで見たほうがいいわよん。ガドフちゃんもアルちゃんを甘いもので釣れると思わないで頂戴!」
「いや、我は釣られるぞ?料理長のデザート美味しいもん」
むしろ入れ食い?一本釣り?
「アルちゃん……」
そんな聞き分けのない子供を見るような目で見んでも…。
いいじゃないか。だって我、アリスちゃん(肉体年齢)10歳だもん。
というか、自分を棚に上げるな。お前もやっただろう。
今回はデザート半分を餌にしたマルシュヴェリアルに軍配だが。
それにしても、屋敷が広くてよかったなー。
ダイニングルームに我が並べた椅子には、魔人達が座っている。渋々と料理長が配ったお茶を手に。渋々と配ったせいか、かなり渋々としているらしい。流石に急な客用に料理は確保できないため、料理長がとりあえずお茶と菓子を準備したのだ。……お陰で我のおやつが減ったけどな。(仕方があるまい…拾ってきたのは事実だ…)
「で?国を救えとは、一体何の話だ。魔王になって選民どうこう言ってたどこぞの馬鹿は殴り損ねたが、我の協力が無い以上そう易々と血祭り戴冠式はできないと思うぞ?」
なんなら血祭り戴冠式当日に殴り込みに行って物理的に戴冠出来なくしてもいいと思ってる。だって殴り損ねたから。
「アルちゃん…何でそんなにサンドバッグが欲しいのよん…。……ルーで我慢して頂戴」
「とばっちり!」
部屋の隅の方で早々に今日のデザートを齧っていたルーが、信じられないものを見る目でマルシュヴェリアルを見るも、勿論マルシュヴェリアルは無視していた。
「…その事について、危惧していましたが……今は問題無いと思っております。それよりも……。
…いえ、失礼しました。まずは我らの詳細からお話致します。どうか我らの話に少しでも構いません、耳を傾けてくだされば光栄です」
そして魔人は、長い時間を思い出すように話し始めた。
"魔人"と、ある"悪魔"についての経緯を。
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