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119. Another side
しおりを挟むそれは正しく、冬の訪れと言うべき出来事だった。
最初は、孫の子孫が魔族との縁を切り捨て、国を出たに過ぎなかった。しかし、それを待っていたかのように次々と、子供達は国を出て、他国と交流を深め、魔族は敵だ、倒すべき恐怖の象徴だという思想に染まっていった。
遂には王も倒れ、魔王様への恩義も忘れた王子がこの国の王となった。…簒奪されたと言ってもいいかもしれないが。
そして当然、罰が下る。
「我は寛大だが、我にとって不利益なものに優しくあるほど善良ではない。
何か申し開きがあるなら、言葉だけなら吐き出す時間をやろう」
王など興味は無く、手の一振りで首を刎ねたあの方は、私たちに声をかけた。…声をかけたと言うよりは、まだ待てと自分に言い聞かせているかのようだった。
国政からはとうに締め出され、何も出来ず、しかしこの身体に流れる血故に生かされ続けていた私たちに。責任を問う事もなく、ただ葬る前に言いたいことだけは言わせようという。それは傲慢だと人間や私たちの子孫は言うのだろうが、私からすればこのお方の甘さであり、慈悲だと思う。
命乞いをする同胞もいれば、素直に首を差し出す同胞もいた。私は、前者だったが。
…そして、首が落ちる前に勇者が現れた。憎き肩書を持つ、余りに純粋そうな少年だった。少年は精霊達の力を借りて、なんとか彼の方を退けた。
…私は、繋がった命に安堵した自分を心の底から嫌悪した。
私が魔王様に忠実な魔人であったなら、きっと、魔王様手を煩わせる…いや、そもそも魔導国が魔人の国ではなく、魔法が毛程でも使える人間の国になった時点で、自ら命を断っていただろうに。
ああ、私たちは恩を忘れ、のうのうと生きている……厚顔無恥にも程がある。まるであの頃…私たちを迫害した者たちと同じではないか。
恥ずべき事と、私たちは顔を隠した。姿も隠して、ただ静かにこの国の行く末を見ていた。私たちはこの国に干渉すべきでは無い。ただの汚点。歴史に消えるべき者達。
魔王様が勇者に倒され、魔族は消えてしまったと聞かされた時、そう確信した。
私を含む数名は、この国の影に隠れた。しかし一部の魔人達は、自らの力を失ってはならないと足掻き、逆の結果を生み出してしまい、遂には自身も力を失いこの世を去った。
魔王様が直接滅ぼさずとも、既に衰退は始まっていて、それが今目に見えて止められないところまで来てしまったのだ。私たちもこのまま共に消え去る運命と思ったところで、……愚かにもまた、間違えてしまった。
「我らが魔王様の願いを遂行してせめてもの贖罪にする覚悟はあるか?」
"願い"が何かも知らないというのに…。
赦しを求めていた私たちは、その悪魔の甘言を、希望だと、縋ってしまったのだ。
一度表舞台から姿を消してしまった私たちでも、一応の権力はまだ残っていたらしい。我らの台頭と、あの悪魔の力によって、この国は息を吹き返した。それどころか、1番栄華を極めたあの頃よりもより強く、より富んだ国へと変貌を遂げた。
間違いなくそれが今のこの国の基礎が完成した瞬間だった。
数多の者が私たち魔導国の民になりたがった。わたしたちを望み、私たちは優位に立って、そして、……いつしか、魔王様という圧倒的なあの存在が世界から薄れてしまっていた。
魔法といえば魔族、魔族といえば魔王。絶対的な魔法の頂。それが、魔王様。だというのに、人間達は、魔法といえば魔導国だという。魔導国の王が、全ての魔法の頂だという。
(なんだこれは)
私たちは、魔王様そのものを消してしまった。
私たちの子孫じゃ無い。私たち自身が、魔王様の願いを叶えるどころか、より遠い夢物語にする手伝いをしてしまった。
「やっと気づいたか?騙されやすくて呆れるくらい面白かったぜ?なあ、魔人になり損った"人間共"」
悪魔は結局、悪魔だった。それもそうだ。この悪魔が、私たちに手を貸す理由がない。だって私たちは、彼らの絶対の主人を裏切った。それを許すはずがない。穏やかに死ねるはずがない。
「ここは、紛れもなく人間の国だよ。そして、お前達は恐れ多くも我が魔王様の存在を消して、その座に居座ってるとんでもねえ奴らだ。
お前らの血を継ぐ奴らの中から、"王の依代"に丁度いい奴が出るのを待ってたが、薄まるばかりで役に立たねえし、もういいや。
じゃあな」
…それ以降、悪魔は姿を消した。私たちもまた、影に隠れ行く末を見ていることしか出来なかった。今現在に至るまで、魔王様の配下の魔族が度々姿を見せ、居なくなり、ただ赤い魔族だけが何世代も姿を変えてこの国に留まっている。彼(彼女?)は、まだ分かりやすかった。欲に忠実で、好みもはっきりしている。この国に対して、どういった"復讐"をしているのかも予想はついた。
しかし、あの悪魔は何を企んでいたのか。そして、この国に一体何をしていったのかを私は理解できなかった。あの悪魔と一番一緒にいたのは私なのに。
少しずつ、時間をかけて、分かった事実はたった2つ。
悪魔はこの国を滅ぼそうとしている事と、魔王様の復活を目論んでいる。…という事だけだった。
そんなある日、第三王子が"魔王"を名乗ると言い出し力を集め始めた。この国の王になる、と。国の重臣たちは元から、最も魔力を持っている第三王子を支持する者が多く、国王も異論はないことから正式に第三王子、リビルド殿下が次の王太子に内定していた。……上2人が色々と問題がある為決断も早かったのだろう。
聞き捨てならなかったのは、リビルド殿下が…民を選別しようとしている事だった。
どうして、こうなってしまったのか。久しくここに踏み入れた私たちには理解できない。例えばそう、どうして何世代も姿を見せなかったあの悪魔の痕跡が、リビルド殿下にあるのかや、
「一体どこの誰かは知らんが、早く出て来い。"我は寛大だが、我にとって不利益なものに優しくあるほど善良ではない"のでな」
外見や性別、…種族すら違うはずなのに、あの方とは正反対としか言えない少女が、魔王様にしか見えない理由が。
理解できない頭を置いて、身体が膝をつき、そして乞う。
「もう一度だけ、我らの命をお見逃しください…!」
救いを求める相手がいるとするのなら、この冬を抜け出す力をくれる方がいるのなら、きっとそれは、この方を置いて他に無い。
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