前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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ヴァレイン、という元配下の話をしよう。


あれは今から何千年前。我が魔王と呼ばれるようになる数年前。……前、な気がする。まあいいか。

グレゴールの隙をついて1人で散歩していた時のことだ。

「そこの高貴な方、お手持ちのコインを倍に増やしてみませんか~?」

声をかけて来たのは人当たりの良い笑顔を貼り付けた、ピエロだった。ボーイのきっちりした服装に反したうるさいメイクの筈だが、不思議とマッチしていた。

「…コインを持たずとも事足りるから持ち合わせは無い」

うん。この頃の我、街を歩けば店主や住民にあれこれ持っていきなさいと押し付けられる毎日だった。

(「我がカッコよかったからかな!」)
(「(あの頃のアルフィス様は華奢過ぎて少女と見紛う風態だったからな…。皆、恩人に対し少しでも健康になって欲しいと貢ぎまくっていただけなのだが)…そうですね」)
(「(まあ多少食べたところで結果見事、線の細いショタにしかならなかったから、マリアンちゃん的には満足よん)みんなアルちゃん大好きだものねん!」)

……配下2人から同意を得たのに含みがある気がするの我だけ?

それはさておき、その直後案の定近くの露店の店主に見つかり次から次へと住民たちが我におやつを持って押し寄せ、その騒ぎによりグレゴールに見つかって屋敷へ逆戻りした。
それが初めてあった日の事だった。

次に出会ったのは、とてもではないが魔族も住めない極寒の大地であった。

「ややっ!?そちらにいらっしゃるのは先日の高貴なる人気者様!前回は残念ながら楽しいご提案が出来ませんでした…。一流の遊ばせ屋として不覚の至り!…と、いうわけで、今回はこちら!
綺麗なお姉さん達にご興味ございません?」
「不要だ。今忙しい」

以前お忍びの邪魔をしやがった奴に対して、我はその当時まだ怒っていた。そしてその日もグレゴールの隙をついて出て来ていた為、騒がしい奴には会いたくなかった。素気なく返して手元に集中してやったとも。これはな、非常に集中力及び根気が必要なのだ。

「…えー。…何をしておいでで?」
「研磨」
「わあ簡潔」

先程漸く採掘し終えた鉱石を含む岩を自ら研磨中なのだ。風魔法と水魔法の超絶妙な加減が必要。そんな訳で、我は決して見つからないよう鉱山にいた。しかしそこには奴が居て、めちゃ気分下がった。無視して作業続けてたら、最終的に諦めて帰っていったらしい。気づいた時にはいなかった。……何しに来てたんだろうな?綺麗なお姉さんとか言ってたけど、ここや近辺にそんな店は無いことくらい把握してるぞ。

で、その次に会ったのは、我がマルシュヴェリアルのお人形遊びから全力で逃げていた時の事。

「おや!そちらにおわすは前回素気無く私を袖にした高貴な方!」

……若干この間の事根にもたれている気がしたがまあいっかと今回も聞き流した。そんなことよりマルシュヴェリアルがどこから追ってくるかわからないから、全周囲警戒するのに忙しいのだ!

「……とほほ。こ、今回も無視でございましょうか…」
「今忙しい」
「…えー……今回は、何を?」
「逃走」
「またもや簡潔っ…!……前回一心不乱に鉱石を掘り出していたそんな宝石好きな貴方におススメの商品があるんですけどー?」
「不要」

今忙しいって言ってんだろうが、さっさとどっか行け。見つかる。という苛立ちを最大限込めて言い放ったらまたいつの間にか居なくなっていた。

宝石には興味なくないが、あくまで配下にあげるためのもの。我自身を飾るためには不要。そして、配下に渡すものは、我自ら鉱山まで下見して加工までするのが我が信条の為、既に出来上がっている宝石にはほぼ興味ないのだ。

そんな感じで丸1年、奴は我の忙しい時に限って現れては、今まで食べたことが無いであろうスイーツやら、宝石やら、新魔法やらがありますよ色々と。と、話を持ちかけて来た(勿論袖にした)。


そしてある日。

「んもー怒りました!これだから魔族は!」

と、捨て台詞と共に姿を消しておきながら、暫くすると姿を見せて我の配下の末席に勝手に収まった。いや我は何も言っとらんぞ。ただ調達という一点においてかなり優れていたのか、珍しくグレゴールが同僚として招き入れたのだ。

それから度々城を出ては人間達にちょっかいかけて遊んでいたな、ヴァレインは。

好き好んで知恵を貸したり、甘やかしたり。我は単純にこの人間という種が好きな奴なのだと思ったから勝手にさせていた。
例の襲撃の時も姿が見えないのを咎めることはしなかったし、恐らく我がいなくなって以降魔導国に方入れした事についても、どうでもいい。人間が好きだからそうしてるのだろうし。

だから正直驚いた。

「あの悪魔…ヴァレインは…、人類の最悪の敵です…!!」

人間を名乗る魔人よりも元配下の方を信用する我だが、先の言葉から始まる嘘偽りのない経緯と純粋な本音をぶつけられては流石に今までの己の認識を改める必要があるかもしれないと思った。

ヴァレイン、お前物凄く恨まれてるぞ。


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