126 / 136
120.
しおりを挟むヴァレイン、という元配下の話をしよう。
あれは今から何千年前。我が魔王と呼ばれるようになる数年前。……前、な気がする。まあいいか。
グレゴールの隙をついて1人で散歩していた時のことだ。
「そこの高貴な方、お手持ちのコインを倍に増やしてみませんか~?」
声をかけて来たのは人当たりの良い笑顔を貼り付けた、ピエロだった。ボーイのきっちりした服装に反したうるさいメイクの筈だが、不思議とマッチしていた。
「…コインを持たずとも事足りるから持ち合わせは無い」
うん。この頃の我、街を歩けば店主や住民にあれこれ持っていきなさいと押し付けられる毎日だった。
(「我がカッコよかったからかな!」)
(「(あの頃のアルフィス様は華奢過ぎて少女と見紛う風態だったからな…。皆、恩人に対し少しでも健康になって欲しいと貢ぎまくっていただけなのだが)…そうですね」)
(「(まあ多少食べたところで結果見事、線の細いショタにしかならなかったから、マリアンちゃん的には満足よん)みんなアルちゃん大好きだものねん!」)
……配下2人から同意を得たのに含みがある気がするの我だけ?
それはさておき、その直後案の定近くの露店の店主に見つかり次から次へと住民たちが我におやつを持って押し寄せ、その騒ぎによりグレゴールに見つかって屋敷へ逆戻りした。
それが初めてあった日の事だった。
次に出会ったのは、とてもではないが魔族も住めない極寒の大地であった。
「ややっ!?そちらにいらっしゃるのは先日の高貴なる人気者様!前回は残念ながら楽しいご提案が出来ませんでした…。一流の遊ばせ屋として不覚の至り!…と、いうわけで、今回はこちら!
綺麗なお姉さん達にご興味ございません?」
「不要だ。今忙しい」
以前お忍びの邪魔をしやがった奴に対して、我はその当時まだ怒っていた。そしてその日もグレゴールの隙をついて出て来ていた為、騒がしい奴には会いたくなかった。素気なく返して手元に集中してやったとも。これはな、非常に集中力及び根気が必要なのだ。
「…えー。…何をしておいでで?」
「研磨」
「わあ簡潔」
先程漸く採掘し終えた鉱石を含む岩を自ら研磨中なのだ。風魔法と水魔法の超絶妙な加減が必要。そんな訳で、我は決して見つからないよう鉱山にいた。しかしそこには奴が居て、めちゃ気分下がった。無視して作業続けてたら、最終的に諦めて帰っていったらしい。気づいた時にはいなかった。……何しに来てたんだろうな?綺麗なお姉さんとか言ってたけど、ここや近辺にそんな店は無いことくらい把握してるぞ。
で、その次に会ったのは、我がマルシュヴェリアルのお人形遊びから全力で逃げていた時の事。
「おや!そちらにおわすは前回素気無く私を袖にした高貴な方!」
……若干この間の事根にもたれている気がしたがまあいっかと今回も聞き流した。そんなことよりマルシュヴェリアルがどこから追ってくるかわからないから、全周囲警戒するのに忙しいのだ!
「……とほほ。こ、今回も無視でございましょうか…」
「今忙しい」
「…えー……今回は、何を?」
「逃走」
「またもや簡潔っ…!……前回一心不乱に鉱石を掘り出していたそんな宝石好きな貴方におススメの商品があるんですけどー?」
「不要」
今忙しいって言ってんだろうが、さっさとどっか行け。見つかる。という苛立ちを最大限込めて言い放ったらまたいつの間にか居なくなっていた。
宝石には興味なくないが、あくまで配下にあげるためのもの。我自身を飾るためには不要。そして、配下に渡すものは、我自ら鉱山まで下見して加工までするのが我が信条の為、既に出来上がっている宝石にはほぼ興味ないのだ。
そんな感じで丸1年、奴は我の忙しい時に限って現れては、今まで食べたことが無いであろうスイーツやら、宝石やら、新魔法やらがありますよ色々と。と、話を持ちかけて来た(勿論袖にした)。
そしてある日。
「んもー怒りました!これだから魔族は!」
と、捨て台詞と共に姿を消しておきながら、暫くすると姿を見せて我の配下の末席に勝手に収まった。いや我は何も言っとらんぞ。ただ調達という一点においてかなり優れていたのか、珍しくグレゴールが同僚として招き入れたのだ。
それから度々城を出ては人間達にちょっかいかけて遊んでいたな、ヴァレインは。
好き好んで知恵を貸したり、甘やかしたり。我は単純にこの人間という種が好きな奴なのだと思ったから勝手にさせていた。
例の襲撃の時も姿が見えないのを咎めることはしなかったし、恐らく我がいなくなって以降魔導国に方入れした事についても、どうでもいい。人間が好きだからそうしてるのだろうし。
だから正直驚いた。
「あの悪魔…ヴァレインは…、人類の最悪の敵です…!!」
人間を名乗る魔人よりも元配下の方を信用する我だが、先の言葉から始まる嘘偽りのない経緯と純粋な本音をぶつけられては流石に今までの己の認識を改める必要があるかもしれないと思った。
ヴァレイン、お前物凄く恨まれてるぞ。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる