前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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「…つまり、ヴァレインは魔族が消えた後現れて、魔導国の復興に携わったが、実は人助けでは無く将来魔導国を潰す為の仕込みだった…と?」

そして元老院とは、かつて魔王より血を与えられた魔人で、開国当時の王が倒れて以降共に歴史に隠され、今では…ぶっちゃけ飼い殺し状態。その存在を知るのは王家と側近くらい、という立場らしい。

「しかも"王の依代"とかいうものを作ろうとしていたと?人間を利用して?そんな悪魔みたいなことを?」
「いやそもそも悪魔です」
「悪魔よん。種族的に」

そうだった。

「し、しかし…人間に絡むの大好きだったし…」
「単純にそれが餌というか、他者を堕落させる事を生の喜びとしていただけですよ。とはいえ敵に塩送るし馴れ馴れしくするから私は嫌いでしたが」
「別に好き好んでた訳じゃないわよん。じゃなきゃアルちゃんに傅かないわ」

……前も思ったけど我、配下の本性知らなすぎかもしれない。

軽く落ちこんだ。ラギアが焦って自分のデザートを差し出して来たのでとりあえずもらっておいた。

「…で、結局、その悪魔の企みをぶち壊してくれということか?」
「その通りです。…我々には政治的な力はない為巨万の富や魔導国内における権限を譲渡は出来ません…ですので、我ら元老院が貴女様の僕になる事でどうかご容赦いただけないでしょうか…!」
「え」
「「「却下」」」

…我が返事するより早くラギアと料理長とマルシュヴェリアルが拒否した。
そうだよな!別に富も地位も必要ないよな!

「アリス様の下僕の枠はもう埋まっている。これ以上は要らん」
「私がアルちゃんに構ってもらえなくなるじゃない!ただでさえ女狐との睨み合いが忙しいのに!」
「アリス様用デザートにかける食材が減る」

いやそこか。…まあ、我も配下達が嫌がるなら却下かなぁ。そもそもあんまり大所帯になっても困るし…。

だがしかし、そこで諦める者達は、そもそも我に寄ってこない事を思い出した。その証拠に…。

「いえ!そんな恐れ多いことは望んでおりません!ただアリス様がお困りの際や必要なものが出て来た際に一声かけていただければ我々がそれぞれの人脈を使いお望み通りに環境を整えさせていただくだけです!」

と、大きく出た。…いいな、その威勢。

「アリス様の望みの品を我々が用意できないとでも!?」

勿論ラギアが直様反応!

「い、いくら他国の超高位貴族でも聖地エルメイルの森やニルフェルナの泉への立入許可は得られませんよね!?」
「ぐっ…!?」

…見事に撃沈。どうやら相当厳格に守られている場所らしい。どこかはしらんが。

「魔導国王室専門とはいえ、先に挙げた場所にのみ生息する蚕の繭より得た最高級の糸や霧の谷の仙人が織った反物は入手出来なかったのでは!?」
「ひいっ…!!」

ま、マルシュヴェリアルが怯んだ!?

「……幻の果実、調理してアリス様に振る舞いたくはありませんか?」
「乗った!!」

幻の果実。…じゅるり。

…そんな訳で、なんとびっくり。この我の現最強のセ○ムを言葉だけで沈めおった。なんという早業!

「我々は培った人脈がございます。今言った事は嘘ではありません。実現可能なものの一端でしかありません。その他お望みのものは何でも、揃えてみせます!ですからどうか、…どうかお力添えください…!」

…折角椅子に座らせたのに、また床に座り直して頼み込んでくる。それだけ必死なのだろうが…

「…何故そこまでするのだ?自分達を飼い殺しにするような国だぞ?それに人脈があるのなら活用すれば他国で地位を築き上げて成り上がる事だってできよう?」

不思議だろう?ラギアもマルシュヴェリアルも料理長にも口で勝てる実力があるのだから、この国に執着せんでもやっていけるだろうに。忘れ去られているも同然の国にこだわるならそれなりの理由がある筈だ。

「これは我々の贖罪なのです」

しょくざい。食ざ…うん、贖罪。贖罪だろう?わかってるぞ!
……マルシュヴェリアルの分のデザート、半分じゃなくて丸々くれないかな。

「…かつて、我々はある方から力をいただき、対価としてその方の望みを叶える事を約束しました。
……しかし、それは叶わず、…約束不履行による受けるべき罰すら我々は逃れてしまった。その上悪魔の甘言に耳を貸し、あの方への我らの罪を後代に引き継ぐどころか、あの方を遠く遠く物語の架空の人物にまで貶めた…。
…いつかあの方や、あの方の部下が怒りを向ける場所を残しておく事こそ、我々に今出来る唯一の事なのです」

復讐心を向ける場所か。…ラギアとマルシュヴェリアルは思い当たりがあるらしい。我はどうでも良いのだが。中途半端だろうが何だろうが、気が済めばそれでいいし。

「でも、それなら放っておけばいいじゃない。ヴァレインは、あの方とやらの部下だもの。壊したくて当然よねん?」
「確かに」

ラギアが同意した。我も同感。魔王やその配下が復讐する為の場所として残したいというのなら、今回滅ぼそうとしている実行犯はその魔王の配下。復讐以外の何でもない。…強いて言うなら王の依代というのが気になるところだが、多分マルシュヴェリアル同様、魔王復活を目論んでいるというだけだろう。

「…部下…?」
「あら?知らなかったのかしらん。そのヴァレインって、魔王の配下よ?
とはいえ、これで魔導国永続の望みを叶える必要は無くなったわねん」

ドゲザから顔を上げて驚いている。まあそんな顔にもなろうな。思考停止しているらしい。その間によくよく観察する。

恐らく保護魔法をかけているから保たれているが、服や靴はかなり古いものだし、肌の状態から見て魔力故に生きてはいるが食事もあまり取れていない、労働は…力仕事や畑仕事だろうか。奥山で自給自足していそうな指先だ。

…かつて力を与えた時と同じだ。

「エルメイルの森やニルフェルナの泉は惜しいが…魔導国を救うという願いはもう要らないな?」
「部下の復讐だしねん。霧の谷の仙人の反物は惜しいけど…」
「幻の果実…」

ラギア達も諦めがつくらしい。幻の果実は探そう。我も食べたい。

それにしても…力を与えても与えなくても、此奴らはこうある"運命"なのだろうか。

ふつふつと、腹の奥から湧き上がるのは、怒りであろう。

…そういや我、昔から、"運命"って言葉が大嫌いだった。

「アリス様?」
「…アルちゃん?」

救国には興味もないし、理由もないから手を貸すつもりもない。
…だが、
《我に力を与えられた事"で"》、《それが"運命"だから》、影に隠れる日々であるならば、それは許し難い。

「"お前たちに住む場所と仕事を与える。"代わりに、我の配下の末席に加われ」

だからあの日と同じ提案から、我は始めることにした。
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