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しおりを挟む魔人達は我の言葉に戸惑った。しかしそんなものはただのフリに過ぎないと前回の事でよく知っている。人間はとりあえず本心と逆の態度を見せる生き物だ。
「先程から贖罪だのなんだのと…じめじめうるさい。お前達は先程自らを人間と名乗った。ならば人間らしく、欲に忠実に、生きてみせろ。その方とやらに力をもらった事を後悔していないなら、この国を捨ててでもその力が有用だと示せ。
その力が世界を変えたなら、それはその方とやらの憂も晴れよう。……そう我なら思う」
かつて恐れた力に縋り付く人間というのもなかなか見ものだと思う。それで度重なった勇者の襲撃を許すわけも無いが、それはそれで気分がいい。え?性格が悪い?我はこれでも元魔王なの。ちょっと性格捻じり捻じ捻じ曲がってても仕方ないと思う。
「どうする?」
魔人は涙を溜めた目で我を見上げていた。…眩しいものを見る目だな。…幾度となく見た…崇拝の目に似ている気が…。
リーダーと思われる者以外もいつの間にか跪いて我を拝むやら倒れている。一部嗚咽を漏らしている!?え!?こわっ!
「っ、是非我らを、「ちょっと待ったッ!!」」
その末席にー、とか続きそうないいところだったのに。
「空気読め」
「度し難い」
「邪魔よねん」
「そこまで言われる程の事かな!?」
言われるに決まっておろう。いいところだったのに。
第三王子が乱入してきた。
魔人たちがすぐに顔を隠したので流石に無視して続きは無理と判断して、応接室に移動した。魔人の方はリーダー格らしい3名のみな。だってここ狭いから。
「今ばかりは自分が王族専門だった事を後悔してるわよん」
マルシュヴェリアルの家の結界は、マルシュヴェリアルの手によって作られた服を着た者には無効だから王子が入って来たのも無理ない事だな。
結界に弾かれていた王子の側近達も揃った。と言ってもあの騎士と水魔法の魔術師のみだが。暗殺者はうちの暗殺者により、天井裏に潜んでいたところを既に確保(というか吊り下げ)済み。
「で、何の用かしらん?」
「アリスちゃんに会いに来たんだけど…」
「うちのアルちゃんは今デザート食べるので忙しいのよん」
「そんな断り方がある…?僕、王子なんだけど…!?」
王子の側近の手土産、ユシーの実のタルトが実に美味!
「本当に食べてるし…」
料理長は我が一口食べた後、自分も味見をしてすぐさま所用とやらで出かけた。多分だが、これ作ったパティシエの所に行ったと思われる。そしてその後ユシーの実を下ろしている農園あたりにも行くんじゃなかろうか。
「アリス様、先程出かけた料理長は、仕入れをしてから戻るので少し遅くなるそうです。お茶のお代わりはいかがですか?」
ほれやはり。
「もらおう。あと、…タルトに免じて話を聞こう」
「よかったわねん。アルちゃんが優しくて」
「(買収しやすいの間違いでは…?)あ、…ああ」
今応接室の対になる大きいソファには片方に我とマルシュヴェリアル、もう片方に王子が座り、その後ろに側近2人。ラギアは我の後ろに控えている。魔人達は我寄りに設置した椅子に座っているぞ。
「それで?話というのは?」
まあ先ずは案の定別においしくない謝罪をいただいた。喧嘩売ってすみませんでした、と。我も素直に謝られれば、雑魚に噛みつかれた程度と思って水に流すくらいの器量はあるとも。
「ただし一発殴らせろ」
大丈夫、腹パン一発で許してやるから。
「恐れ多くも殿下が謝って下さったというのに、それ以上を求めるのか!?先の決闘といい…子供とはいえ身勝手の度が過ぎる!」
「我に手も足も出ずに負けた輩が騒ぐなやかましい」
「ぅ…い、いや、それとこれとは別だ!こちらに座すは次期国王、リビルド殿下であり、私は殿下への無礼を許す訳にはいかない!!今すぐに態度を改めろ!」
「だから何だ。身分が高いから無条件で首を垂れろ、付き従え、とは片腹痛い。先に無礼を働いたのはそちらだろう?
我は身分なんか怖く無いし、それで報復を受けると言われても全くもって恐ろしく無い。我にとって脅威でも何でも無いからな。
できるものならやらせてみよ。既に我に惨敗した貴様らで、我を床に這いつくばらせる自信があるならな」
というか、我に噛み付く前に自分が受けるからそれで己の主人は勘弁してくれ、くらい言えんのか。自分は殴られたく無いと?
「確かに。アルちゃんがあんなに手加減してたのにボロッボロだったものねん?きっと自分が受けるのは怖いのよん」
「私なら喜んでアリス様の盾になるのだが、…所詮は二流以下か。どれだけ喧しく吠えようが、結局自分が大事という事だな」
「流石一度負けた程度で戦意喪失してぼーっと自分の主人が戦ってる姿をみていただけのことはある。忠誠心はほぼ無いとみた!」
マルシュヴェリアル、ラギア、我のコンボで王子と水の魔術師が顔を逸らした事が決め手になったのか、
「子供の拳程度私が受け止めきれない筈がないだろう!いいとも!全て受け切ってみせる!そのかわり殿下への無礼な態度を改め、要求を飲め!」
「態度がデカイ。やり直し」
あと、さりげなく要件増やすでない。
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