129 / 136
123.
しおりを挟む「…えっと、つまりね、彼らには僕も頼み事があって……」
うむ。
「具体的には、教育方面なんだけど…」
ふむ?
「だから……アリスちゃんに着いていかれちゃうとすごく困るんだよ」
むー。
「詳しく話す前に、……椅子に座ったらどうかな?」
「座ってるぞ?」
人間椅子に。
「…ソウダネ」
「…あの椅子を消し炭にしたら私をアリス様の椅子にして下さるだろうか」
「流石アルちゃん…!座る場所を選ばない…!ぜんっぜん違和感がないわねん…!!」
我は今、元・威勢のいい騎士の背中に座ってる。先程我の拳が唸って良いストレートが決まり、騎士は静かに平伏した。…というか、声すら上げずに正面に倒れたのだ。それでも意地を見せた結果、両膝、片肘、額で体を支えつつ痛みに悶絶しているようだ。
…どこぞの冒険者達はこれ食らった後誰も意識を保ってなかったからな。(王子曰く)鋼の肉体というのにも、信憑性は出てきたかもしれん。
ともあれ、こうしてこの人間椅子は出来上がった。何となく高さが丁度良く、何となく座り心地も悪くなかったのがいけないと思う。
「…アリスちゃん、座る椅子は選んだ方がいいと思うんだけど…」
「勿論お気に入りの椅子ぐらい我にもある。だがこういった椅子やら土台には座り慣れているので、このまま続けてくれて問題ないぞ」
「……そ、そっか…」
漸く王子は続きを始めた。諦めたともいう。
我も話を聞く。殴ってスッキリしたから。
「知っての通り、この魔導国はハリボテの魔法大国だ。僕はそれを建て直して、守る義務がある」
うむ。それは分かる。簡単に予想がつく。
「しかしそれには、それなりの力が必要で、僕はそれを堅実に集めてきたつもりだった」
「だからアリス様に対してあんな態度を取れたわけか」
「でも実際、アルちゃんからすると木の板どころか紙切れだったのねん…」
「我とは格が違い過ぎたのが分からない時点で天狗になってると思う」
「…当たり強くない?」
なんのことだか。
「…まあ、アリスちゃんに負けた今、自信はだいぶ揺らいだけど…。…それでも、間違いなくこの国の最高戦力だ。……なのに負けた。手も足も出なすぎて、悔しいという気持ちすら湧かないよ」
「あらぁー。アルちゃんに喧嘩ふっかける前に気付ければよかったわねん」
「…言わないでくれ……」
そしてその後、騎士がなんとか起き上がれるくらいになるまでに王子の言うことには、これ以上の戦力アップというか、魔法大国と呼ばれるだけの実力に見合うように改善するには、優れた魔法使いの存在が必須。我らを動かせぬ以上、元老院の者たちが必要らしい。
魔力の扱いが上手い事と、数千年の熟練の技は、ラギア達すら欺いたのだから戦力としてはかなりのものになるだろうな。
今までの冷遇飼い殺し状態は、親世代達がやった事で、自分はその存在を知ってはいたが手を出せなかった、申し訳ないと謝り出した。…というか冷遇してたのか。
「元老院の皆様には、僕の直属の部下となり、この国の魔法の向上に力を貸していただきたい」
勿論衣食住は保証されるそうだ。衣食住しか保証されなそうな気がするのは我だけ?王子以外がどんな対応するのか知らんが、魔法の向上とはつまり、現教育現場に放り込み、現在の方針とかに手を加え、場合によっては直接鍛え直すということになる。
「今の教育者達からすれば厄介者扱いされないか?それ」
思った事言っただけなのに、その場の皆が王子の方から我の方へ振り返った。おおう。威圧感。
「しかしそうであろう?現状に納得がいかない、と突き付けられる側の事も考えているのか?教授達もクセがあったな。アレは、そう易々と受け入れるような器では無かろう」
特に、我に水晶を砕かれて何かの間違いだと喚いていた奴。
「……それでも、やらなければ…やれなければ魔導国はいずれ滅ぶ」
魔導大国という名を返上せねばならぬ程に落ちぶれるか、ヴァレインの計略によって蹂躙されるか……。ふむ。
…先程から魔人たちは忙しなく念話中。盗み聞く限り我の方につく気満々ぽいが、魔導国の方も気にしている模様。
んー。……面倒だな。…というか、
「この話、ここでする意味あるか?」
正直魔人たちに話があるなら、我要らなくない?
「元老院の皆様方には会おうと思っても会えるものではないんだ。今回も、アリスちゃん達が城から出て行く時、顔を隠した集団が一緒にいたって話を聞いてもしかしてと思って急いできたから…」
魔人達を見ると、
「…我々は、…好まれるような者ではありませんから、極力姿を見せないのです」
うむ。つまり直訳すると、いじめられるから隠れてるの。ということか。可哀想に。ついでに情けない。我が与えた力を有効活用していないあたりが。
「力は有効活用してるじゃない。かくれんぼで」
確かに。見事な隠れ具合だった。
「…我々は、殿下に仕える意志はありません。衣食住など、今までもどうにかしてこれたものは、これからもそうするつもりですし、…この国に縛られなくても良いのだと、そう思えた私たちには、不可能ではない事です」
うむうむ。まあ当然の判断だな。王子もそうだよね、と答える当たりダメ元であったようだし。
だが、それでも我とは違って、魔人たちはこの国自体をどうでもいいと思ってはいない。このままではなし崩しに力を貸す事だろうな。そしてそのまま冷遇にも耐えるんだろうな。最終的に王子の部下と見られるんだろうな。
………んー…。…むー。…うぐぐぐぐ…。…はぁ。
思わずため息が出てしまった。
「…余計な世話焼く趣味、我には無いんだがなぁ」
「「え」」
ラギアとマルシュヴェリアルが驚いているが、…多分、我が行動しようとしている事に対してだと思うことにしよう。我は我のやりたいようにしかしないし、別に身内以外のことで進んで動いたりしないもん。
「元老院の者どもよ。我が貴様らを配下にした場合の待遇について、伝えていなかったな。より条件の良い方についたと見せなくては、断られた王子もやるせなかろう。
折角だ。王子及び、その部下共もくるが良い。
潔く諦められるだけの理由をやろう」
分かりやすく、我の力を見せてやる事としよう。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる