前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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123.

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「…えっと、つまりね、彼らには僕も頼み事があって……」

うむ。

「具体的には、教育方面なんだけど…」

ふむ?

「だから……アリスちゃんに着いていかれちゃうとすごく困るんだよ」

むー。

「詳しく話す前に、……椅子に座ったらどうかな?」
「座ってるぞ?」

人間椅子に。

「…ソウダネ」
「…あの椅子を消し炭にしたら私をアリス様の椅子にして下さるだろうか」
「流石アルちゃん…!座る場所を選ばない…!ぜんっぜん違和感がないわねん…!!」

我は今、元・威勢のいい騎士の背中に座ってる。先程我の拳が唸って良いストレートが決まり、騎士は静かに平伏した。…というか、声すら上げずに正面に倒れたのだ。それでも意地を見せた結果、両膝、片肘、額で体を支えつつ痛みに悶絶しているようだ。

…どこぞの冒険者達はこれ食らった後誰も意識を保ってなかったからな。(王子曰く)鋼の肉体というのにも、信憑性は出てきたかもしれん。

ともあれ、こうしてこの人間椅子は出来上がった。何となく高さが丁度良く、何となく座り心地も悪くなかったのがいけないと思う。

「…アリスちゃん、座る椅子は選んだ方がいいと思うんだけど…」
「勿論お気に入りの椅子ぐらい我にもある。だがこういった椅子やら土台には座り慣れているので、このまま続けてくれて問題ないぞ」
「……そ、そっか…」

漸く王子は続きを始めた。諦めたともいう。
我も話を聞く。殴ってスッキリしたから。


「知っての通り、この魔導国はハリボテの魔法大国だ。僕はそれを建て直して、守る義務がある」

うむ。それは分かる。簡単に予想がつく。

「しかしそれには、それなりの力が必要で、僕はそれを堅実に集めてきたつもりだった」
「だからアリス様に対してあんな態度を取れたわけか」
「でも実際、アルちゃんからすると木の板どころか紙切れだったのねん…」
「我とは格が違い過ぎたのが分からない時点で天狗になってると思う」
「…当たり強くない?」

なんのことだか。

「…まあ、アリスちゃんに負けた今、自信はだいぶ揺らいだけど…。…それでも、間違いなくこの国の最高戦力だ。……なのに負けた。手も足も出なすぎて、悔しいという気持ちすら湧かないよ」
「あらぁー。アルちゃんに喧嘩ふっかける前に気付ければよかったわねん」
「…言わないでくれ……」

そしてその後、騎士がなんとか起き上がれるくらいになるまでに王子の言うことには、これ以上の戦力アップというか、魔法大国と呼ばれるだけの実力に見合うように改善するには、優れた魔法使いの存在が必須。我らを動かせぬ以上、元老院の者たちが必要らしい。

魔力の扱いが上手い事と、数千年の熟練の技は、ラギア達すら欺いたのだから戦力としてはかなりのものになるだろうな。

今までの冷遇飼い殺し状態は、親世代達がやった事で、自分はその存在を知ってはいたが手を出せなかった、申し訳ないと謝り出した。…というか冷遇してたのか。

「元老院の皆様には、僕の直属の部下となり、この国の魔法の向上に力を貸していただきたい」

勿論衣食住は保証されるそうだ。衣食住しか保証されなそうな気がするのは我だけ?王子以外がどんな対応するのか知らんが、魔法の向上とはつまり、現教育現場に放り込み、現在の方針とかに手を加え、場合によっては直接鍛え直すということになる。

「今の教育者達からすれば厄介者扱いされないか?それ」

思った事言っただけなのに、その場の皆が王子の方から我の方へ振り返った。おおう。威圧感。

「しかしそうであろう?現状に納得がいかない、と突き付けられる側の事も考えているのか?教授達もクセがあったな。アレは、そう易々と受け入れるような器では無かろう」

特に、我に水晶を砕かれて何かの間違いだと喚いていた奴。

「……それでも、やらなければ…やれなければ魔導国はいずれ滅ぶ」

魔導大国という名を返上せねばならぬ程に落ちぶれるか、ヴァレインの計略によって蹂躙されるか……。ふむ。
…先程から魔人たちは忙しなく念話中。盗み聞く限り我の方につく気満々ぽいが、魔導国の方も気にしている模様。

んー。……面倒だな。…というか、

「この話、ここでする意味あるか?」

正直魔人たちに話があるなら、我要らなくない?

「元老院の皆様方には会おうと思っても会えるものではないんだ。今回も、アリスちゃん達が城から出て行く時、顔を隠した集団が一緒にいたって話を聞いてもしかしてと思って急いできたから…」

魔人達を見ると、

「…我々は、…好まれるような者ではありませんから、極力姿を見せないのです」

うむ。つまり直訳すると、いじめられるから隠れてるの。ということか。可哀想に。ついでに情けない。我が与えた力を有効活用していないあたりが。

「力は有効活用してるじゃない。かくれんぼで」

確かに。見事な隠れ具合だった。

「…我々は、殿下に仕える意志はありません。衣食住など、今までもどうにかしてこれたものは、これからもそうするつもりですし、…この国に縛られなくても良いのだと、そう思えた私たちには、不可能ではない事です」

うむうむ。まあ当然の判断だな。王子もそうだよね、と答える当たりダメ元であったようだし。
だが、それでも我とは違って、魔人たちはこの国自体をどうでもいいと思ってはいない。このままではなし崩しに力を貸す事だろうな。そしてそのまま冷遇にも耐えるんだろうな。最終的に王子の部下と見られるんだろうな。

………んー…。…むー。…うぐぐぐぐ…。…はぁ。

思わずため息が出てしまった。

「…余計な世話焼く趣味、我には無いんだがなぁ」
「「え」」

ラギアとマルシュヴェリアルが驚いているが、…多分、我が行動しようとしている事に対してだと思うことにしよう。我は我のやりたいようにしかしないし、別に身内以外のことで進んで動いたりしないもん。

「元老院の者どもよ。我が貴様らを配下にした場合の待遇について、伝えていなかったな。より条件の良い方についたと見せなくては、断られた王子もやるせなかろう。
折角だ。王子及び、その部下共もくるが良い。
潔く諦められるだけの理由をやろう」

分かりやすく、我の力を見せてやる事としよう。
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