【完結】婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音

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13話 ドS級

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⸺⸺北の祠の広場⸺⸺

『ガルルルル……!』
 祠の前では、僕の何倍もの大きさのある真っ黒な虎が苦しそうに唸っていた。
「ひぃぃ……こ、これがアラガミ様……めっちゃ大きい……」
『きゅぅぅ……』
 思わず後退りをした僕は、ヴィルヘルムにトンと背中を押される。
「おら、テイムすんだろ?」
 彼は不敵にニヤッと笑う。
「うぅぅ、ヴィリーの鬼! ドS! こんなのどうやってテイムすんのさ!」
 涙目になってポコポコと彼の腕をタコ殴りにする。
「てめぇが今やってる事だよ。まずはタコ殴りにして弱らせたところで契約の文言をふっかける。上手く行けばそん時に邪気が抜けて契約完了。邪気が抜けなかった場合は、そいつに契約破棄されたって事だ。そうなったらもう諦めて討伐するしかねぇ」

「諦めて討伐……そんなのダメだ……じゃなくて! その前にこんな強そうなのどうやって弱らせるのって話!」
「さぁ、どうすんだ?」
 ヴィルヘルムは頭の後ろで腕を組んでピィピィ口笛を吹き始めた。
 あれを前にしてこの余裕何!? だったらヴィルヘルムが戦ってよ!

 ……そう言いたいのに、言い出せなかった。頼むのが嫌なんじゃない。もし、ヴィルヘルムが勝てなくてやられちゃって、酷い怪我をしたら……そう思うと、怖くて言い出せなかった。

「どう、しよう……」
 ヴィルヘルムの服を掴んでいる手がぶるぶると震え出す。すると、その震えた手が彼の大きな手にそっと包まれた。
「てめぇ今、何考えてる?」
「何って……ヴィリーにお願いして……ヴィリーが酷い怪我をしちゃったらって思うと……」
 僕が震えた声でそう答えると、ヴィルヘルムは大きなため息を吐いた。
「俺は今てめぇの何だ」
「何って……兄様が雇ってくれた、護衛……」
「護衛の任務内容は、てめぇを守る事、てめぇの力になる事だ。アイツからはそう言われてる」
「うん……ヴィリーのおかげで僕は、冒険者にもなれたし、すらにゃんをテイム出来た……」
「だったら、今だって同じ事だ。何でもされるがままにホイホイしてんじゃなくて、自分がどうしたいのか、俺にどうしてほしいのか、ちゃんと言え。そんで言ったからには責任を持って俺を信じろ。俺はてめぇの護衛だからな、てめぇに何か言われるまで動かねぇ。向こうから先に仕掛けてきたら、斬る。それだけだ」

 そっか……。これが冒険者になるって事なんだ。他人が傷付くのが怖くて魔法も使えなくて、従えた魔物を戦わせる事もできない。挙句、パーティ仲間を信じる事も出来なくて、こんな僕に、この先何が待っているのだろうか。

 ヴィルヘルムはアラガミ様を前にしても相変わらず余裕の表情を崩さない。これまでにも彼は"余裕"だと言う事をちょくちょくアピールしてきていた。良いのかな、信じても……。

 僕は覚悟を決めてヴィルヘルムを見上げると、必死にこう言った。
「お願いヴィリー! 僕はアラガミ様をテイムして解放してあげたい! だから、アラガミ様を攻撃して弱らせて! でも、でも! 怪我は……しないで!」
「……了解だ、ルカ」

 え、今、初めて僕の名前……。そう呆気に取られている間にヴィルヘルムの身体は全身黒いモヤに覆われており、あっという間にアラガミ様の懐へと潜り込んだ。
 アラガミ様も防衛反射で暴れまくっていたけど、ヴィルヘルムは僕の言いつけ通り、一切攻撃を喰らわなかった。

「す、すごい……。ヴィリー、すごく強いね、すらにゃん……」
『きゅぅ、きゅぅ♪』
 あんなにすごい迫力のアラガミ様を、ヴィルヘルムは一方的に攻撃を当てて、追い詰めていく。そして……。

「ルカ、やれ! 契約しろ!」
「う、うん……!」
 僕はグッタリとしているアラガミ様へ駆け寄り、手を前へと差し出した。
「⸺⸺汝、我と契約し、我と共に歩まん事を誓え⸺⸺」

 お願い、上手くいって……! そんな祈りを込めながらアラガミ様の足元に魔法陣を展開する。
 すると、アラガミ様の全身がキラキラと光り輝き、みるみるうちに黒い毛が真っ白く染まっていく。やがて全身が真っ白な虎へと姿を変えると赤く光っていた瞳もエメラルドグリーンに変わり、つぶらな瞳で僕を見つめてきた。
『感謝する、我が主……我はしばし休ませてもらう』
「えっ、しゃべった……!」

 アラガミ様は静かに魔法陣の中へと消えていった。
「な、余裕だったろ?」
 ヴィルヘルムは大剣を背中に収めてニッと笑う。
「うん……! ありがとう、ヴィリー!」
 何もかもが上手くいった状況を把握した僕は、嬉しさのあまりヴィルヘルムに抱き着いた。
「なっ、てめぇ、何しやがる! 離れやがれ、殺すぞ!」
「やだよー、離さない!」
『きゅっきゅー♪』
 すらにゃんもヴィルヘルムの頭の上へと飛び乗り、ぴょんぴょんと跳ねていた。
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