ケモとボクとの傭兵生活

Fantome

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第三章 初仕事は蒼へと向かって

帰還、そして誤算

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「…と、いうことがありまして、無事に戻ってくることが出来ました」

港湾都市ブルーラグナを離れ、馬車に揺られながら二日を掛けて帰還した薫達。今回の仕事の一連の流れを報告するアルトの前には、頬杖をつきながらテーブルに広げられた金貨と銀貨を指先で転がすギランと仕事に同行出来なかったコーラル、そして定位置のようにギランの膝の上に乗せられた薫の姿があった。

「あの……何で僕ここに……?」

「何言ってんだ、初仕事で疲れてるだろうお前をこの俺様が直々に労わってやってるんじゃねぇか」

「は、はぁ……」

もっともらしいことを言いつつ、結局は薫に触れたいだけなのだろう。現に、ギランの下心を隠しきれない手は薫の頭や胸に腹、太腿を撫で回している。抵抗したところで逃れられるわけもなく、薫はそこで考えるのを止めた。

「ブレイドボアはともかく、ロックゴーレムとは……報酬額に見合わない仕事をさせられたな」

「ええ、本当ですよ。ヴァルツさんとカオルのおかげで、何とか倒せたんですから。一応抗議はしたんですけど、僕の力不足で……」

「気にすんじゃねぇよ。ステッキンのジジイの底意地の悪さは今に始まったことじゃねぇだろ。不足分は……ヴァルツ、後でお前が使った弾代請求しとけ。必要経費は向こう持ちって契約だからな」

「…………」

「がははははっ!さすがは俺様の右腕、抜け目ねぇな!」

広間に響く騒がしい会話を聞いていると、薫はようやく帰って来れたのだと実感する。そう思えるということは、薫にとってこの傭兵団は第二の故郷となりつつあるのかもしれない。

「抜け目が無いと言えば、ギランさんもですよね。初仕事のカオルにあんな凄い物をあげちゃうんですから」

「あん?何だそりゃ?」

「これの事ですよ。ギランさんが渡してくれたこの剣のおかげで、ロックゴーレムを倒せちゃったんですから」

全く身に覚えが無いといった表情を浮かべるギランに、薫は例の剣を見せる。今は宝玉の光も喪失し、傍から見ればゴテゴテしい装飾が施された剣にしか見えないが、これでも大枚を積んでも手に入らない過去に滅びた魔法都市の遺物なのだから驚きである。

「んん?ちょっと待ってくれ。私はロックゴーレムを倒したのは副団長だと思っていたのだが……まさか」

「ふふん、そのまさかです。ブレイドボアはヴァルツさんが倒しましたけど、ロックゴーレムはカオルがほとんど一人で倒しちゃったんです」

まるで自分の事のように誇らしげに胸を張るアルト。薫を可愛い弟分のように思っているアルトにしてみれば、薫の活躍は誰より喜ばしいのだろう。

アルトの口からロックゴーレムとの激戦、そして薫の活躍が伝えられ、コーラルは感心したように顔を頷かせる。

「ほう……凄いな、カオル。ロックゴーレムは私でも手を焼く相手だ。それを一人で倒してしまうとは」

「あ、あはは……そんな、たまたま上手くいっただけですよ。ギランさんに貰ったこの剣が無かったら、僕なんかじゃ太刀打ち出来なかったと思います」

「いや、そんなことはない。キミの年齢でロックゴーレムに立ち向かおうと思える者がどれだけいることか。その勇気は賞賛に値するものだよ。しかし、その剣がアーティファクトか……」

「一見して、そうは見えないですよね。受けた衝撃を蓄積して攻撃力に変換する代物みたいですけど、防御の上手なカオルにはピッタリなんですよ」

薫の活躍を肴に会話にも花が咲く一方、先程から何一つ言葉を発していないのがヴァルツの他にももう一人。

「ギランさん、本当はこれがアーティファクトって知ってたんですよね。おかげで助かりました。ありがとうございーーーギランさん?」

薫がギランを見上げると、彼は遠い目をしながら固まっていた。まるで過ぎ去った昔日の自らの行いを振り返るかのようで、その瞳には薄らと後悔の涙のようなものが浮かんでいる。薫には全くその理由がわからないが、ギランにとってとんでもない過ちが起こってしまったのは確かのようだ。

「あれ、ギランさん?どうしちゃったんですか?博打で大損した時みたいな顔になっちゃってますよ」

「…………」

「よもやとは思うが、この剣がアーティファクトだったことを知らなかったのでは……?」

「えっ?ギランさん、そうだったんですか?それならお返しした方が……」

「ば、バカ言ってんじゃねぇよ!そんなもん知ってたに決まってんだろうが!今更返せとは言わねぇから安心しろ、がははは……はは……はぁ……」

余程辛い事があったのか、少女が辛さを紛らわせるために人形を抱き締めるがの如く膝の上に座った薫を抱き締めるギラン。普段ならばさりげなく彼の手を払う薫だったが、今回は空気を読んでおとなしく身を任せることにした。

「あっ、ギランさん、そろそろ今回の報酬を分けません?僕、キッチンのお掃除とかしないといけませんし」

「お、おうッ!それもそうだな!」

思い出したようなアルトの言葉に気力を取り戻し、ギランはテーブルに並べた金貨を整然と並べる。出来たのは五枚の列が二つ。枚数的には物足りない見た目だが、贅沢をしなければ人間一人が一年近く暮らせるだけの大金である。

「今回の報酬は金貨十枚か。順当に分けりゃ、まず俺様が五枚……」

「ちょっと待ってくれ」

金貨へと伸びたギランの無骨な手を掴むコーラル。あまりにも堂々としたギランの行動にコーラル以外誰も反応することが出来なかった。
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