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第3章 成人の儀
80 嬉しいよ ※
しおりを挟む俺の中で馴染むのを待ってから、ヴァンが、ゆっくりと腰を引く。
ずるっ……と身体ごと引きずり落とされる感覚の先、抜け落ちてしまいそうなぎりぎりで動きを止めて、ぐぷっ、と音を立てながら再び奥へと押し入ってくる。その動きに合わせ、俺は首をのけぞらせた。
乱れる呼吸が落ち着くのを待ってから、またゆっくりと引き抜き、押し上げる。
甘ったるい。
焦らされる動きに、俺は頭を左右に振る。
「く……きつい、な……」
「……っぁあ、あ」
隙間なくみっしりと埋まっているという感覚は同時に、ヴァンを強く締め付けているのだと遅れて気づいた。
けれど、今の俺には何をどうすればいいのか分からない。
ただヴァンの動きに合わせ、呼吸をするだけで精一杯で……。
「ヴァ……ン……」
腕を伸ばし、しがみ付いてはたまらずに手は解けて、その指にヴァンが口づける。馴染むのを待って動いてを繰り返しながら、徐々にその間隔が短くなっていった。
ヴァンの唇から、言葉でなく喘ぎが交じり始める。
「リク……ぅ……んっ……」
「……ヴァ、んんっ……」
ぞくぞくする。
気持ちいい場所を探り当てられ、責められていたと時と違う。俺が、俺の身体がヴァンを気持ちよくさせているという、ただそれだけが、たまらなくぞくぞくする。
抱かれて男を受け入れているる形でも、気持ち良くさせたい欲がある。
「……もっと、気持ちよくなって……ヴァン」
めちゃくちゃにしてと言いながら、めちゃくちゃにしたい。
俺で夢中になって、理性も全部ぶっとんで、溺れて、気持ちいいだけで、それだけでヴァンを満たしたい。
ヴァンを……喘がせたい。
「……もっ、と……」
「リク……」
「おれ、で……感じて……ヴぁ、ん……」
好きだから。
「ヴァンの……だから、もっと……強引でも、い……いぃ……」
好きに、ヴァンの、ヴァンが望む快楽を……追ってよ。
「イくまで、もっと……」
「うっ……く……」
俺の気持ちいい場所を狙い、責めていたはずの動きが単調になっていく。
熱くて、きつくて、気持ちいいより苦しいの方が強い。でも……俺の身体で快楽を追おうとしているヴァンを止めたくない。
捧げたいんだ。
今まで……ヴァンは、すごく、我慢していたんだと分かったから。
呻き声が耳に触れる。
「すまな、い……」
不意に謝罪の言葉がもれた。
視線を流すと、上気した頬のヴァンが苦し気に眉をよせている。
「……ほしい……」
激しくなっていく突き上げを受け止めながら、俺も言葉を、こぼす。
「……おれのなか、ヴァンで……いっぱいに……して」
「リ、ク……」
「あっ、ぁ……ぁ!」
俺の首に噛みつく勢いで責めてくる。
激流に呑まれた木葉になる。
「ひぁ! あ、あ、あぁ、あ、あっ……ぁ、ぁ! あっ」
ヴァンが獣のように呻く。
こんなヴァン、見たこと無い。見せてこなかった姿、だ。
好きだ。
好きだ。
好きだ!
優しく包み込んでくるヴァンも、心配性なヴァンも、負けず嫌いで意地にになるヴァンも、余裕も何も無く快楽だけを追って、俺を貪るヴァン……も。
全部、全部、大好きだ。
好き……という思いしか、溢れてこない。
「あぁ! っあ、あ、く!」
「う……もぅ……」
「あ、はっ! あっ!」
うめき声が俺の耳に触れる。
俺の腰と片方のひざ裏を抱え、深く抉っていく。
突き上げに俺の肺の空気まで押し出された。
「ぁ! ぁあ、あ、はっ、ぁ」
「リ、ク……」
耳鳴りのように全ての音が遠くなっていく。
神経も意識も焼き切れる。
「……きて……っあ……ぁ!!」
ぐっ……と、俺の中のヴァンの質量が増えた気がした。
そのまま二度、三度、と俺の奥を突きあげる。
突きあげ……びくっ、と身体を震わせ動きを止めた。
「――ぐっ! ぅう……」
俺の中の奥の奥で、どぷ、と熱いものが溢れていく。
そのまま、びくっ、びくっ……と、ヴァンの腰が震えた。その度に、俺の中がヴァンで満たされていくのだと。
自分のものとは違う熱が広がる感覚に、俺は声を漏らした。
「……あ、ぁ……」
ヴァンが肩で呼吸を繰り返し、俺に覆いかぶさる。
そのまま折れそうなほどに抱きしめた。
俺も、ヴァンの背中に両腕を回す。
じん……と、胸の奥と瞼の奥、ふたつが同時に熱くなった。
「……ヴァン……」
今までヴァンと出会って嬉しいことや、満たされることはたくさんあった。だけれどそれらとはまた違う。互いの熱を分け合ったこの感覚は――絆が結ばれた感覚は、俺はこの世界に生きているのだと、強く、実感させるもので……。
「ヴァン……ヴぁ……ん、好きだ」
涙があふれてくる。
「リク……」
「嬉しいよぉ……」
じわじわと実感してくる。
何かの間違いで生まれてしまった。世界の全てから、お前はいてもいなくてもいいのだと……冷たく、突き放されたかのように生きていた場所から、迷い込んで来た。
優しくされてもどうしていいのか分からずにいて。
何も分からないまま必死になって。
今……この世界で、俺はやっと生まれ直したような気持ちになる。
「嬉しいよぉ……」
「……リク……」
「俺……やっと……」
やっと俺でも、ヴァンを受け止められた……だろうか。
涙目で見上げると、優しい微笑みで頷くヴァンが、「イエス」と答えるかのようにキスを落とす。
「ヴァンも……気持ちいいって……」
「……夢中に、なってしまった」
「ヴァン……」
震えながら背中を押したヴァンを、受け止めることができた。
そう……思っていいんだよね。
俺でも、ヴァンの一部を支えられる。気持ちいいをあげられる。
それがたまらなく嬉しくて、満たされていく。
「俺はもう、ヴァンのものだから……離さないで……」
何度となく呟いた言葉を繰り返す。
ヴァンが「うん」と嬉しそうに頷き返す。
そして俺の中に埋めたままで、またゆっくりと腰を揺らし始める。全て吐き切ったはずのヴァンのものが、また徐々に硬さをもち、俺の中をこね始める。
「……離さない」
ヴァンは囁き俺の唇を塞いだ。
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