128 / 202
第4章 たいせつな人を守りたい
120 アールネストの大魔法使い
しおりを挟むまるでヘリの発着場のような、大きな城の一部に迫り出した場所で飛竜を下りた俺たちは、そのまま迎えの人たちに連れられ大きな城に入った。
ヴァンの実家のお披露目会でも多くの人を見たけれど、ここで行き交う人たちはその比じゃない。この国を護るための、年に一度の国家事業……という言葉通りに、様々な人たちが足早に行き交っている。
そしてヴァンは、それらの中心人物となる一人だ。
到着早々、休憩する間もなく、ヴァンは再構築の打ち合わせをすることになった。
「リクも同席してほしい」
「俺……も?」
「きっと力を借りることになると思うからね」
そう言うヴァンに頷いて、俺は付き従う。
通された、応接室というには大きな部屋には、すでに大勢の人たちが揃っていた。
俺たちの姿を見て声を上げたのは、今回の術を施す三大魔法使いの一人、ナジーム・アトキン・ミレンさんだ。お披露目会で一度顔を合わせている、ヴァンより一回り大柄な、王族を守護する近衛騎士団団長だ。
その隣に立つのは、第二王子ルーファス・ローランド・アールネスト。
「やっと来たね」
「ルーファス殿下もご同席でしたか」
「うん、今回は父上も来るよ」
「ローランド陛下が?」
ヴァンが少し驚いた顔をする。
「今年の再構築は、何か大きな出来事が起こりそうだと言ってね、父上はとても期待している。リク、君の話をしたことが、父上の興味をひいたみたいだ」
明るく笑う言葉に、俺は目をぱちくりさせた。
えぇっ……と、この国の一番偉い人が、俺に興味を持った……ということ?
驚いた顔で隣に立つヴァンを見上げると、ちょっと自慢げな笑みが見降ろしていた。もう「当然」って感じのドヤ顔。
うわぁ……ちょっ、何か、プレッシャーだな。
ドキドキしている俺の目の前で、騎士のナジームさんが「可愛いなぁ」なんて呟いている。和やかな雰囲気だ。年に一度の祭りに集った人たち、といった感じで。
そんな軽い言葉のやり取りをしている横で、従者が大きなテーブルに地図を広げた。
ナジーム騎士団長が声をかける。
「おい、ストルアンがまだだぞ。奴は何をしている」
「間もなくご到着いたします」
「ったく……いつもだな。あいつは……」
ストルアン――って、魔法院のストルアン・バリー・ダウセットだろうか。
呟いたタイミングを見計らったかのように、部屋のドアが開いた。
「やっとお揃いですね」
「お前が一番遅かったな」
「私は時間を無駄にしないのです」
数人のお付きの人たちに囲まれて来たのは、やっぱり、あの魔法院のストルアンだった。思わず俺の中に緊張が走る。
二年半前に誘拐された時、「異世界から来た貴重な標本を、自由にすることはできません」と言った。
そして先日のお披露目会で、軽い毒入りの飲み物を渡してきた。どんなに失礼なことをしても……誰も咎めることができない地位と権力をもった人。
青白い肌と、灰色に近いブラウンの髪。どこか濁った色に見える、昏い緑の瞳は最初に出会った時のままだ。
ヴァンと名を並べるこの国の三大魔法使いの一人でも、ナジーム騎士団長のような豪快さや明るさは無く、ヴァンとも全く違う。どこか底冷えするような気配がある。
警戒しない方が無理……。
「お元気そうですね」
ストルアンはちらりと俺を見て、唇の端を上げて笑った。
俺は腹の底に力を入れ、威圧を返すように「はい」とだけ短く返す。ヴァンの手が、そっと俺の背に添えられる。
大丈夫だよヴァン。俺は怖がったりしない。
ふん、と鼻息を荒くしたナジーム騎士団長が、パンパンと手を打ち声を上げた。
「さて、新顔を交え役者は揃ったんだ。始めようか」
毎年行っていることだから、細かい説明は無しにいきなり打ち合わせが始まった。
魔物や他国のちょっかいから結界が弱くなっている場所、更に強化が必要な個所、人の流動や地形の変化で対応していかなければならないそれら全部を、従者が読み上げていく。
そのひとつひとつを一発で頭に入れているヴァンたち。
周囲を見渡せば腕を組んで眺めているルーファス王子やクリフォードも、同じように頷きながら聞いていた。
当然、とてもじゃないが俺には理解が追いつかない。
けれど一年毎に再構築が必要な大結界――つまり、国を護り続けるためには大掛かりな修繕が必要なんだということはよく分かった。
決して狭くは無い国土だ。
たぶん総面積でいえば、俺が生まれ育った国とほぼ同等かそれより広いぐらいだと思う。
それを――補助の魔法使いはいるようだが、実質三人の大魔法使いだけで、七晩をかけて再構築を行う。体内の魔力を最大限活性化させ、魔法酔いなんて言葉じゃすまないほど肉体にも負荷をかけて行うこと。
俺を含めた周囲の人たちは、ただひたすらヴァンたちのフォローをするだけだ。
「了解した」
一通りの現状報告を終え、ヴァンが答えた。ナジーム騎士団長が口の端を上げて、獲物を前にした狩人のように瞳をギラギラさせている。
お仕事モードのヴァンはテーブルに手をつき、地図の覗き込み呟いた。
「この、マージナル王国の国境があやしいな」
「思う以上に、ノルダシア共和国に隣接する結界も綻んでいる」
ヴァンに続いてナジームが続く。
ふふ……と笑みを漏らしたのは、魔法院のストルアンだ。
「どちらも、我が国の宝に注目していますからね」
「ほう? ストルアン、何か心当たりが?」
ルーファス王子がたずねる。
ストルアンは鷹揚に頷いて見せた。
「ここ二年余り、我が国の魔法石産出量が増大しております。その話が諸国に行き渡ったのかと……原因にも、心当たりはございますから」
ちらり、とストルアンが俺を見た。
20
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら執着兄上たちの愛が重すぎました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】
アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。
巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。
かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──
やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる