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第4章 たいせつな人を守りたい
121 リクの力
しおりを挟むこの国の魔法石が増えたの、俺に何か関係あるのか?
そう言い出しそうになった言葉を飲み込んだ。下手に挑発に乗ら無い方がいいような気がする。何よりヴァンが沈黙を保っているのなら、俺が横から口を出すべきじゃない。
ちらり、と横を見上げると、ヴァンはうっすらと笑みを浮かべたまま、テーブルの上の地図を見つめていた。時々説明する人たちに質問をしている様子は、相手にする必要はない、と言っている感じだ。
だから俺も背筋を伸ばしたままで地図に視線を向けた。
テーブルを挟んだ向こう側で魔法院ストルアンが「ふふ」と息を漏らす。その微妙な空気の中で答えたのは、ルーファス王子だった。
「なるほど、確かにそのような話は聞く。おかげで我が国ではここ数年、目覚ましく魔法の研究が進んだ。そうであろう? ハロルド」
王子がたずねたのは、一歩下がって様子を見ていたヴァンのお兄さんだ。
ハロルドさんは無邪気な笑顔を向けながら「仰せの通りです」と短く答える。そのやり取りの前で地図が片づけられ、何人もの従者が小箱を運んで来た。
一同が取り囲む大きなテーブルに布が敷かれて、箱の中身の物――魔法石が並べられていく。それらを見て俺は息を飲んだ。
赤、青、黄、緑……。薄い紫や透明なもの。金の星を散らした黒い石。
大きい物でも手のひらに乗る程度の物ばかりだけれど、魔法石の力は石の大きさに比例するわけじゃない。それを俺はこの世界に来て、ヴァンが迷宮から拾って来たり店に持ち込まれた魔法石で知った。
石を使った魔法は相変わらず初心者レベルでも、鑑定眼はついてきたと思っている。
そんな俺が一目見てわかるほど、どの魔法石もすごい力を秘めていた。
「リク、分かるかい?」
ヴァンがわずかに身を屈めて、俺の耳元で囁いた。
俺は頷いてから緊張した声で答える。
「すごいね……肌がぴりぴりする。これ全部、結界を直す為に使うの?」
「そう。この一年、国中から集められた、大結界を再構築するための石たちだよ。リクが見て、どの石がどんな状態か分かるかな?」
そう言うヴァンは、「力を見せてごらん」と言っているように微笑む。
テーブルを囲む人たちが固唾を飲んで俺を見ている。
きっとこれが俺に同席を望んで、「力を借りることになると思う」と言った理由だ。
俺は一度深呼吸をしてから、テーブルの魔法石を見つめた。
ざっと見ただけで、五十から六十個はあるだろか。
キラキラと窓からの光を反射させた輝く石たち。
この場に集められただけあって、どれもが素晴らしい力を持っているけれど今現在の状態は様々だ。俺はすっと腕を伸ばし、一つ一つを指先で触れる。
俺に応えてと……心の中で呼びかけながら。
「これは凄い元気。今すぐにでもフルで力を発揮できる。この子とこれも、それからこちら……。こっちの子は暗い所より明るい所が好き。だから夜更けより明け方に力を発揮するんじゃないかな……もしくは側に、光の魔法石を置いてあげると喜ぶ」
そう言いながら俺は次々と石の状態を伝える。
「こっちの子は補助だよね。こちらの……この石と相性がすごくいいから、一緒にしてあげると相乗効果がある。この石はすごい力を秘めているけれど、ちょっと疲れているかな……清流で浄化を兼ねて休ませた方がいい。たぶん最終日あたりでとても頼りになる……」
そんなふうに全ての石の状態を伝えて、俺はもう一度息をついた。
全部、俺の直感で言った言葉だったけれど合っていただろうか? 答え合わせを求めるようにヴァンを見上げると、満面の笑みが返った。
「リク、ありがとう」
「役に立ちそう?」
「もちろんだよ。素晴らしい働きだった」
そう言って俺の頭を優しく撫でる。
ナジーム騎士団長が引きつった笑い顔を向けた。
「おい、アーヴァイン。なんだこれは」
「リクの力ですよ」
「魔法石を魅了で増強させた、ってことか?」
「そう……」
ヴァンがテーブルの上の一つを手に取る。
「リクは魔法石すら魅了する。触れられて、石は最大限の力を発揮できるようになった……ということです。この場の同席を願った僕の意図は、ご理解頂けたでしょうか」
「信じられんな」
呟いたのはルーファス王子だ。
「お披露目の会で見せた力だけではなかったか。魅了持ちは何人が目にしたことがあるが、このように力を使いこなしている者は初めてだ」
「お褒めに預かり光栄です。殿下」
「うむ。鍛錬を重ねた結果だろう。これからはアーヴァインの片腕として働くことになるな」
ニッ、と笑う。その顔に俺は思わず「はいっ」と声を上げた。
ヴァンの片腕――それは最も信頼できるパートナーだと認められた、ということだよね。
俺には何もできないと思っていたのに、ヴァンの言葉を信じて魅了の魔法の練習を続けて来た、これがその結果だということ。この国の王子にまで、ヴァンの隣に立ってもいいと……そんなふえに言ってもらえたんだ。
どうよう。すごい……嬉しい。
ずっとヴァンの役に立ちたかったから、すごい、嬉しい。
――嬉しいよ。
「リク、顔が赤い」
「え……だって、嬉しくて」
俺、今どんな顔をしているんだろう。絶対にやけた顔になっているんじゃないかって気がする。ヴァンは優しく微笑みながら小さく頷いた。
「一気に力を使って疲れただろう?」
「え……まだ、平気」
答える俺の頬にヴァンの手のひらが触れる。
いつもより冷たく感じて気持ちいい。
「顔が熱い。無理はいけないよ。これからは石の組み合わせを選定するから、リクはそちらで休んでいなさい。クリフォード」
「はい、叔父様」
俺の背中を押しながら、ヴァンは甥っ子の名前を呼んだ。
「リクをあちらのソファに。力を使いすぎないように見張っておくれ」
「かしこまりました」
そう答えるクリフォードは、俺を見て笑った。
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