【本編完結】異世界の結界術師はたいせつな人を守りたい

鳴海カイリ

文字の大きさ
131 / 202
第4章 たいせつな人を守りたい

123 威圧

しおりを挟む
 


 とても控えめに話す、きっと……このチャールズって人は自分の力を誇示こじするような、競争の場は苦手なんじゃないかな……という気がする。
 立ち話も何だから座らないか? と誘っても、遠慮えんりょして首を横に振る。

「ルーファス殿下にもお認め頂けるなんて……凄いです」

 さっきの出来事は、ヴァンが目の前にいたから、お世辞も含んでいたんじゃないかな。
 王子がお世辞というのも違和感があるけど。けれどこれから大仕事をする、ヴァンの気分を損ねるようなことはしないだろう。

 もちろん褒めて頂いた言葉はとても嬉しかった。
 ずっとヴァンの隣に立つのにふさわしい人間になれるように、力のコントロールを学んで来たんだ。
 上手くいかなくて悔しくて、何度も泣いたことがある。だから……多少自信がついても、少し褒められたぐらいで有頂天にならないようにしなければ……とも思う。

 このままだと褒め倒しになりそうな気がして、俺は話題を変えた。

「その、チャールズ様……も、何か得意な力があるんだろ?」
「僕のことは様などつけず、チャールズと」
「だったら俺も、リクでいいから」
「僕は最初から呼び捨てだったね」
「そうだっけ?」

 横から口を挟むクリフォードに俺はとぼけた感じで答える。
 最初の印象が喧嘩腰だったから、なんだかクリフォードに様をつけて呼ぶタイミングを失っていた。
 まぁ……もう、今更だし。クリフォードも気にしていないのか、話の続きを促す。

「で、チャールズ君の得意は何だい?」
「あ、その……僕のは大したこと無くて」
「言えないようなこと?」
「いえっ! そんなわけではなく……その、魔法師たちの魔力を増強させる……補助魔法が……」
「すごいじゃないか」

 それってさっき俺が魔法石にやったのと同じような力なんじゃないのかな。そう思って言った俺に、チャールズはとんでもないというように首を横に振った。

「全然! 僕の力は大したことじゃなくて……その、リク様のように魔法石まで力を増強エンチャントすることなんてできないですし、相性のいい術者の底上げをする程度ですから……だから……」

 だから、全然役に立てるような者ではないんです……と続けるチャールズに、俺は心の中で息をついた。
 俺もだよ。
 俺も力が無いと、人に迷惑をかけてばかりだと感じていた。
 ヴァンに寄り添いたかったのにそんな資格は無いと、自分で自分を責め立ていた。そんな俺を見て、きっと……ヴァンは悲しい思いをしていたんじゃないかと、今なら思う。

 チャールズにしかできないこともきっとある。
 だからと言って今、何も知らない俺が、「頑張って訓練すれば望みは叶う」なんて無責任に言うことはできない。

「……だから、リク様のこと……憧れます。僕もあの方のお側に立つことがきるような人間だったら、どれほど良かったか……」

 頬を染めて寂しそうに笑う。
 チャールズにも慕う人がいるんだ。だから自分の不甲斐なさが余計に辛いのだと。

「チャールズの力になりたい人って――」
「よぉ、チャッキー」

 言いかけたそのタイミングで、数人の貴族たちが近づいてきた。
 歳は十二、三から二十歳ぐらいだろうか。襟や袖に魔法石を縫い込んだ礼服で、それなりの身分と財力があることを見せている。更に口の端を軽く上げた、人を見下すような視線は心当たりがあった。
 気弱な……いいなりになりそうな人間を見つけてはちょっかいを出す。人をいじめてさ晴らしをするようなタイプの人間。
 元の世界のクラスにもいたなぁ……と、懐かしさすら感じる。

「今度はどこのお方に取り入ろうとしてるんだ?」
「え、僕は別に……」
「お前程度の身分じゃ誰も相手してくれないだろうに、それとも何かすごい力でも披露してくれるのかなぁ」
「下僕にして下さいってお願いすれば相手してやるよ」

 ニヤニヤ笑いながらチャールズの肩を小突く。
 チャールズは言い返せないのかますます肩を小さくして、取り囲む数人を怯えたように見つめ返した。俺の隣に座るクリフォードは、冷ややかな視線で笑うだけで何も言わない。

 なんか……こんな場所でこういうことって、日常茶飯事なのか?

 部屋の向こうではヴァンたちが、打ち合わせをしている最中だっていうのに。

 これだけ離れていれば俺たちの声は聞こえないだろう。
 けれど神聖な場を穢されているような感覚は、すごく、嫌だ。

「リク?」

 すっと立ち上がった俺に、クリフォードが意外そうな声を漏らした。
 たぶん余計な口を挟むなって言うんだろうと思う。けど、俺は嫌だと思う相手を前にして見てみぬふりしているとか、そばに居たままにさせるのは嫌だ。

「――邪魔をしないで貰おうか」

 今まで目に入っていなかったのか、こちらを見た者たちが俺の姿に息を飲む。
 この国では珍しいという黒髪に黒い瞳。アーヴァイン・ヘンリー・ホールの元で暮らす異世界人という噂は、きっと多くの人たちが知っている。もし知らなかったとしても、俺には魅了の力がある。

 首につけた守りの魔法石は俺の力を抑える働きがあっても、魔法石を起動するに十分なだけの力を出すことが出来た。
 目の前の者たちを追い払うぐらいは出せる。

「ここは大結界再構築の為に働く人たちがいる場所だ。憂さ晴らしなら他でやってくれ」

 ――立ち去れ。

 そう、心の中で念じながら数人の貴族たちを見つめる。
 呪文を唱えるでもなく、ただ見つめるだけだ。
 けれどそんな俺を前にして悪寒が走ったのか、息を止めた者たちは顔色を変えると「行こうぜ」と囁き逃げて行った。

 周囲を行き交う召使いや使用人、魔法院の人たちが何事かとこちらを見てから、慌てて離れていく。うん……ちょっと強かった、かな?
 チャールズはぽかんとした顔で見つめていた。
 微妙な空気をほぐしたのは、クリフォードの笑い声だ。

「ははは、すごいね、見事だよ」
「クリフォード」
「抑えた力でそれだけの威圧が使えるなら、アーヴァイン叔父様にまとわりつく虫も追い払えそうだ。それこそ護衛なんかいらないんじゃないのか?」

 ソファの後ろで控えるザックとマークを見上げる。
 二人とも苦笑いを浮かべながら返答はしない。そしてクリフォードはチャールズにも一言言い放った。

「君も……自分に力が無いと言って人に憧れている暇があったら、鍛錬を重ねて出直して来たらどうだ? そんなことでは好きな人の目に止まることも、この場で生き残ることなどできないよ」

 ホール侯爵家の跡取りとなるクリフォードの眼光もまた、俺の魅了に負けないほど強いものだった。





しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら執着兄上たちの愛が重すぎました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿 【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。  巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。 ⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

異世界で高級男娼になりました

BL
ある日突然異世界に落ちてしまった高野暁斗が、その容姿と豪運(?)を活かして高級男娼として生きる毎日の記録です。 露骨な性描写ばかりなのでご注意ください。

処理中です...