【本編完結】異世界の結界術師はたいせつな人を守りたい

鳴海カイリ

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第5章 この腕に帰るまで

179 後遺症 ※

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 ヴァンがいる部屋まで戻る。その半ばまでは自分の足で歩いていたのに、途中からもつれて動けなくなった。

 息が苦しい。
 身体が熱くて吹き出た汗が肌にまとわりつく。
 その感覚が……魔物や、あの不気味な幻影の触手に撫でまわされているようで、気持ち悪い。同時に身体の芯はずくずくと疼いて、今にも喘ぎ声を漏らしそうになる。

 そんな状態になることも想定していたのか、クリフォードから派遣されていた大きな身体の護衛は軽々と俺を抱きかかえて、足早に向かう。
 少し乱暴に開け放たれたドアに、寝室の手前の部屋に控えていた召使いが驚きの顔で出迎えた。

「リク様!」
「発作です。アーヴァイン様は起きていらっしゃいますか?」
「はい。先ほど飲み物をお持ちしました時は、本をお読みで」

 杖をつきながら召使いとやり取りするマークの声を聞く。また……ヴァンに心配をかけると思うと、ツキリと胸が痛んだ。

「アーヴァイン様、失礼いたします!」

 続きの寝室のドアを開けて、マークと護衛に抱えられた俺が入る。
 ぼやける視界の向こう、分厚い本を手に驚きの顔を向けるヴァンがいた。事態を察したのか、直ぐにベッドサイドテーブルに本を置く。
 マークがわずかに緊張した声で報告する。

「申し訳ありません。香水を身に着けた者を、不用意に同室させてしまいました」
「そう……」

 腕を伸ばす、ヴァンのそばのベッドに下ろされた。
 耳元に優しい声がかけられる。

「リク、リク、僕の声が聞こえるかい?」
「う……ん……」

 自分の両腕を掴み抱え込むようにしてうずくまる俺に、ヴァンの声が染みて身体が震えた。顔が熱い。手足に力が入らなくなっていく。
 ここまで酷いフラッシュバックは久しぶりの気がする。

 魔法酔いでヴァンが倒れた直後は、何度もこの感覚がぶり返して酷かった。
 意識無く眠り続けるヴァンの隣でただ耐えるしかなかった数日。ヴァン以外の誰にも触られたくない。けれど眠るヴァンを起こすわけにもいかなくて……。
 ヴァンの肩に顔を寄せて温もりと匂いで気持ちを落ち着かせ、ジャスパーに感覚を鈍らせる魔法をかけてもらうことで、どうにか乗り越えられた。

 催淫の香の後遺症。

 ヴァンが目を覚ましてからその頻度は落ちていた。ここ数日は何も無かったのに。
 ……だから、もう……治ったと。

「……ヴァ、ン……」
「うん、苦しいね」

 ヴァンの胸にすがりつく。
 その俺の手を、優しく取って抱き寄せた。

「マーク、僕が声を掛けるまで誰も部屋に入れるな」
「かしこまりました」

 頭を下げ、護衛や召使いと共に出ていく。
 ヴァンと二人きりになった部屋のベッドの上で、俺は喘ぐように息をついた。

「ヴァン……ごめ、ん……俺……」
「リクは何も悪くない」

 そう囁きながら俺の服を脱がしていく。
 シャツ一枚を残して。
 下履きも脱がした半裸の状態の俺を、ヴァンは自分の身体の上に乗せる。もう部屋の中なら動けるぐらいに回復たヴァンだけれど、まだ完全じゃないのに。

「……ぁ、あ、ぅ……うう……」
「いいよ、そのまま、僕に身体を預けて」
「ヴァン……んっ……」
「疼いているんだろ? 中を弄ってあげるから」

 並べたクッションに背を乗せ、座った状態のヴァンに抱きつくようにして、俺は首元に顔を寄せた。
 ヴァンの匂いがする。
 合わせた胸から鼓動を感じる。
 熱くて長い指が俺の腰をさすり、もう片方は後孔のすぼまりをそっと撫でた。それだけで、俺の背がビクリと跳ねる。

「あ、あっ!」
「うん……もう、これだけで感じてしまうね」

 まだ挿れられてもいないのに、期待と恥ずかしさと、敏感になった皮膚の感覚とで俺はシャツを強く握った。
 ヴァンが浄化の魔法で体内を洗浄する、その感覚にも反応してしまう。
 ずくずくと疼く身体が、はやく欲しいとねだるように腰が揺れてしまう。

「……ヴァ、ン」
「うん、焦らしたりはしないよ。ほら……」
「ひぁあ、あ!」

 いつの間に潤滑剤ローションをつけたのだろう。
 つぷり、と濡れた長い指の先が入って来た。
 そのまま窄まりの内側をぐるりと撫でる。ビクリと背筋が反り返って、大きく跳ねた。まだ始まったばかりだ。それなのに軽く達して息が止まる。

 ヴァンの指はそのまま奥へと、優しく内側をこすりながら飲み込まれていく。
 耳元で囁きかける、声……。

「きゅうきゅういっている……」
「……あっ、あ、あ、ぁ……ぁ……」
「凄い締め付けだよ。僕の指をしゃぶっている。美味しい?」
「ぁ、おい……し……ぁあ……ひぁあ!」

 俺の付け根内側……一番感じる場所をヴァンの指が的確にこすり上げた。
 下肢から背筋を通って頭の芯まで貫く快感に、目を見開いて声を上げる。息が、うまくできない。
 そのまま、気持ちのいい場所ばかりをこすり、押し、掻きまわす。

 喘ぎ声が溢れる。

 よだれを飲み込むことすらできず、止まることの無い快感の波にもまれていった。涙が……にじんでくる。

「……ぁ、イク、イっちゃう、やだ……とま、らない……」
「止めなくていい。疼きが治まるまで、いくらでも」
「あ! ぁぁ! あ、やだぁ」

 気持ち良すぎておかしくなる。
 ヴァンがもう片方の腕で俺の肩を強く抱く。

「こわい……怖い、とまらない……」
「いくらでも感じていい。僕の前では……何も、隠さないで……」
「……ひぅ……ぁ……!」

 目の前がチカチカとしていく。一本から二本と増えた、俺の中を掻きまわす指がたまらなく気持ちよくて、頭の中が真っ白になってく。
 呼吸が……荒い呼吸に肩が激しく上下する。
 ヴァンが耳元で囁く。

「気持ちいい、ね?」
「ぅう、きもちいい……いい、い……ぁ! あぁ!」

 奥まで突き入れ掻きまわす指がバラバラに動いて、俺は喉をのけぞらせ、声を上げた。

「ひっ……ぁ、ヴァン、たすけ……て……」

 ビクン、ビクン、と何度となく身体が跳ねる。
 繰り返し押し寄せる快感に唇を噛んだ。イってもイっても、まだ終わらない。わずかな刺激に快感を拾ってしまう。いまイってしまう。
 連続で押し寄せる絶頂に、悲鳴を上げる。

 神経が焼き切れる。
 気持ちいい。
 おかしくなる。

「あ、あぁ……ぁ……い……」
「リク」

 ヴァンが口づけする。
 歯列を割って入り込んでくる舌を噛まないよう、俺は必死で噛みしめていた力を緩めた。

「んっ、ぁ……んんっ、んっ」

 息を継いで、ぼやける意識に現実と夢が交ざり合っていく。
 俺の後ろの穴に入り込んでいるのは、ヴァンの指だったか……それとも、不気味な魔物の触手……だっただろう、か……。

「や……だ、こわい……こわ、い……」
「僕がいるよ、ここに」
「こわい……たまご、うみつけられ……ちゃう」
「見て……僕を」

 荒い呼吸で目の前の人と視線を合わせる。
 緑の瞳が揺れている。眉間にしわを寄せた、どこか……辛そうな顔の、人。

「ヴァ、ン……」
「……そう、ここにいるのは僕だ。僕にならなにをされても平気だね?」
「う……へ、いき……。ヴァン、なら……」

 怖いことも、気持ちいいことも……痛いことすら、それをくれるのがヴァンなら平気だ。ヴァンになら……何をされても、いい……。

「あ……ぁ、いい……きもち、いい……」

 俺の中を掻きまわす、ぐちゅぐちゅと音までもが耳を犯す。
 肩を抱いていた方の腕が、シャツをたくし上げてそって伸びた。そのまま、繊細な動きで指先が背骨を撫で上げる。

「ひうぅ!」

 ぞくぞくと痺れが走り痙攣させる。

 身体を貫く快感に、きゅっう、と飲み込んだ指を締め付けた。

 指先は腰から背中へ。
 そしてまた、腰へと。
 柔らかな羽根で撫でられているかのような……やさしい、動きで。

「あぁ……ぁ、あ……いぃ……」

 背中……いい、きもちいい。
 気持ちいい……蕩け、る。
 とろけてしまう……。力が抜ける。

「お眠り……リク。僕の腕の中で……」
「あ……」

 ヴァンの胸に身体を預ける。中も外もとろとろに蕩かされ……俺は、麻痺した感覚の中で眠りに落ちていく。

 そうだ……ここはあの、冷たくて薄暗い迷宮じゃ……ない。
 明るい、あたたかなベッドの中で、何も心配、しなくていいんだ。こわいものは……ない……。

「ヴァ、ン……ヴァン……」

 抱きしめ合られたまま、何度も名前を呼ぶ。
 心地よい匂いに包まれ、温かい胸にもたれ……やがて俺は……深い眠りに落ちていった……。





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