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第10話 騎乗の訓練も受けています!
しおりを挟む翌日の早朝、パークスを伴って神殿の裏口に辿り着くと、すでに待っていたミシェルがこちらに気づいたようで、大きく手を振っている。
軽く頭を下げたのはマーヴィン司祭だ。その傍には、青いドレスに身を包んだ長身の女性と小柄な赤髪の少年が控えていた。
女性はローブのフードを目深く被っていて遠目には尚更、顔がよく見えなかった。少年も帽子を目深く被っているようだし、顔を知られては困る家柄ということかしら。
「アリシア、おはよう!」
「おはよう。そちらの女性が、リーヴの神殿に送り届けるお嬢様かしら?」
「はい。こちらの少年はお世話係になります」
「パークスよりも貧弱そうだわ。戦闘は無理そうね」
「……アリシア、言い方」
慌てたパークスは、お嬢様の方を見て早口に謝っている。
どこの家柄か分からないにしろ、貴族相手なのだからと言いたいのだろう。勿論、そこは分かっているわ。これも一つ、貴族との繋がりになるかもしれないってことも。でも、隠すような家柄は、バンクロフトにとって有益と言えるかしら。
疑問を感じつつ、こほんと咳払いをした私は誠心誠意の挨拶をした。と言っても、ドレスじゃないから淑女の挨拶はあまり様にならないけどね。
「アリシア・バンクロフトと申します。こちらはパークス。そちらのミシェル嬢と共に、お嬢様の護衛をさせて頂きます」
「よ、よろしくお願いします」
少年が頭《こうべ》を垂れ、お嬢様は無言でドレスを摘まみ上げて腰を低く落とした。
声は聞かせてもらえないようね。
なおさら違和感を感じているとパークスに肩を叩かれた。
「用意されてる馬、三頭だね」
「三頭……ミシェル、二人乗りでいける?」
「うーん、出来なくはないけど、ちょっと苦手かな」
「じゃぁ、俺がアリシアと一頭使うよ。それより、お嬢様をどうす──」
パークスがそう言っている矢先に、お嬢様はドレスの裾を翻して馬に跨《またが》った。そして、片手を少年に向けて差し出すと、その小さな体を引き上げる。なんという手慣れた動きだろう。
「問題なさそうだね」
そういったミシェルもまた、一頭にさっさと跨ってしまった。
さすが、ジェラルディン連合国で名高いマザー侯爵家の令嬢なだけあるわね。乗馬の訓練は幼い頃から指導されたのだろう。私だって──そう思って残りの馬に向かうと、いつの間にか騎乗したパークスが手を差し伸べてきた。
それをきょとんと見上げていると、声をかけられる。
「ほら、アリシア。皆、待ってるから」
馬の上から見下ろすパークスを一睨みし、思わず落胆した私は肩を落とした。
私も鮮やかに騎乗する姿を披露しようと思ったのに。
パークスに引き上げられて彼の背にくっつくと、言い表せないもやもやを胸の奥に感じた。その広い背中を睨んでいると、彼は私の手首を掴んで引っ張った。
「ちゃんと掴まって。振り落とされて怪我でもしたら、旦那様に怒られるのは俺なんだから」
「そんなヘマ、しないわよ」
ため息交じりのやる気のない口調は、いつもの淡々としたパークスらしかった。
「では、道中お気をつけて」
マーヴィン司祭の見送りを受け、私たちは出発した。
一日目は街道を進み、特に問題が起きることもなかった。二日目は宿を出て指定されたルートの森を進むことになった。
天候は良好。特に危ない魔物が現れる気配もなく、これでは本当に物見遊山といった感じだ。ただ、全く声を発することのないお嬢様は表情も伺えないし、風景を楽しんでいる様子もない。何だかちょっと不気味な感じさえするわね。
「ねぇ、パークス」
「なんだい?」
「……あのお嬢様、何だか違和感、感じない?」
「そうかい?」
「うーん……なんて言うか、お嬢様らしくないと言うか……」
「それを言ったら、ミシェルもじゃない?」
「ミシェルとはまた違って……」
二人でこそこそ話していると前方を進んでいたミシェルが声を上げた。
「ねぇ! そろそろ、野営が出来るポイントを探そうよ」
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