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第23話 「必ず、この学園一の魔術師になってみせるんだから!」※最終回あとがき付き
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大きく深呼吸をしたアントニーは、姿勢を正すと片足を一歩引いた。それは見事な紳士の挨拶だった。
「アリシア嬢、あなたの成績を上回ったその時は……私の両親に会っていただきたい!」
突然の言葉に、私は理解が及ばず首を傾げた。
このポンコツ令息は何を言っているのだろうか。
横に並ぶパークスを見ると、彼は頭を押さえて天井を仰いでいる。
まさか、これは、私に勝ったら断罪するということかしら。もしそうなったら、一大事ね。まぁ、彼ごときに負ける気は欠片もないのだけど。
「どういう意味でしょうか?」
宣戦布告を受けようじゃない。
胸を張ってアントニーに向き直ると、彼は姿勢を正して深く呼吸をした。そして、空色の瞳を私に真っすぐ向けてくる。
「あなたを、お慕いしています。これ以上の思いは、成績であなたに勝《まさ》った時、改めて打ち明けたいと思います」
日頃、荒っぽいアントニーが丁寧な物言いをしていることに違和感を覚えた。だけど、それは口調だけの問題ではなく、私を思考停止に陥らせるに十分な内容だった。
このポンコツ令息は何を言っているのだろうか。
全く理解が出来ず、私の硬直は続いた。
周りの静寂を打ち破るように、周囲から歓声が沸き上がった。これは、先ほどの歓声とは違い、女の子の黄色い声が目立っている。
何なの。何が起きているの。
「……パークス、彼は何を言っているの?」
「求婚しているんだろ」
「……は?」
「つまり、結婚したいって意味」
求婚の意味くらい知っているわよ、バカにしないで。
何がどうしたら、このポンコツ令息は私に恋をするっていうのよ。そもそも、そんなことがお父様に知られたら、私の人生終わりじゃない!
アントニーに反して、私の顔は真っ青だっただろう。
「お断りします!」
声を張って宣言すると、再び周囲からどよめきが上がる。
ひそひそと、私を悪く言う言葉が聞こえてきた。お高くとまってるとか、商人の娘のくせに、とか。それは春先の教室で向けられたあの言葉と眼差しと同じ鋭さをもっていた。まるでナイフね。
どう足掻いても、この見えないナイフは私に付きまとうようだわ。だったら尚更、子爵家ごときに落とされるつもりはないわ。
それに私は、色恋なんて関係ないところで、貴族と繋がりを作ってみせるって決めてるんだから。
私が拳を握りしめると、アントニーは一瞬だけ目を見開いた。そして、私が口を開くよりも早くに彼は声を上げた。
「グレンウェルド国で最も価値があるのは魔術の才!」
突然張り上げられた声に、ざわめいていた人だかりは、再び静まり返った。
「あなたが言ったことだ。必ず上り詰めて、認めさせてみせる。そして、あなたをハーシャル家に迎える!」
突然、強気になったアントニーはそう言い切ると、私の横を通り抜けていった。
本当に、何なのよ。
ミシェルとも、これから仲を深める必要があるって言うのに、どうしてこんな大問題が発生するのよ。だけど──
「パークス、私、俄然やる気が出てきたわ」
「……それは良かった」
「必ず、この学園一の魔術師になってみせるんだから!」
私の人生をかけた学園生活は始まったばかり。
恋なんてしている暇はないわ。アントニーから逃げ切り、必ず誰もが注目する最高の魔術師になって貴族との繋がりを確かなものにしてみせようじゃないの。
パークスのため息を背に、私は拳を握って決意を改めた。
─────────────
あとがき
最後までご覧いただき、ありがとうございます!
(あとがきをすっかりつけ忘れてました)
この話は、恋なんて考えもせず、愚直に魔術師の高みを目指すお話でした。
アリシアとパークスの物語はまだまだ続いていくのですが……
それはまたの機会に書きたいと思っています。
また、今回脇役だったミシェルの話も、いつか載せたいなと思っています。
どちらも、最近はやりの令嬢ものとは、だいぶ違いますが……見かけた時は、どうぞ試し読みをしてください。
ありがとうございました!!
「アリシア嬢、あなたの成績を上回ったその時は……私の両親に会っていただきたい!」
突然の言葉に、私は理解が及ばず首を傾げた。
このポンコツ令息は何を言っているのだろうか。
横に並ぶパークスを見ると、彼は頭を押さえて天井を仰いでいる。
まさか、これは、私に勝ったら断罪するということかしら。もしそうなったら、一大事ね。まぁ、彼ごときに負ける気は欠片もないのだけど。
「どういう意味でしょうか?」
宣戦布告を受けようじゃない。
胸を張ってアントニーに向き直ると、彼は姿勢を正して深く呼吸をした。そして、空色の瞳を私に真っすぐ向けてくる。
「あなたを、お慕いしています。これ以上の思いは、成績であなたに勝《まさ》った時、改めて打ち明けたいと思います」
日頃、荒っぽいアントニーが丁寧な物言いをしていることに違和感を覚えた。だけど、それは口調だけの問題ではなく、私を思考停止に陥らせるに十分な内容だった。
このポンコツ令息は何を言っているのだろうか。
全く理解が出来ず、私の硬直は続いた。
周りの静寂を打ち破るように、周囲から歓声が沸き上がった。これは、先ほどの歓声とは違い、女の子の黄色い声が目立っている。
何なの。何が起きているの。
「……パークス、彼は何を言っているの?」
「求婚しているんだろ」
「……は?」
「つまり、結婚したいって意味」
求婚の意味くらい知っているわよ、バカにしないで。
何がどうしたら、このポンコツ令息は私に恋をするっていうのよ。そもそも、そんなことがお父様に知られたら、私の人生終わりじゃない!
アントニーに反して、私の顔は真っ青だっただろう。
「お断りします!」
声を張って宣言すると、再び周囲からどよめきが上がる。
ひそひそと、私を悪く言う言葉が聞こえてきた。お高くとまってるとか、商人の娘のくせに、とか。それは春先の教室で向けられたあの言葉と眼差しと同じ鋭さをもっていた。まるでナイフね。
どう足掻いても、この見えないナイフは私に付きまとうようだわ。だったら尚更、子爵家ごときに落とされるつもりはないわ。
それに私は、色恋なんて関係ないところで、貴族と繋がりを作ってみせるって決めてるんだから。
私が拳を握りしめると、アントニーは一瞬だけ目を見開いた。そして、私が口を開くよりも早くに彼は声を上げた。
「グレンウェルド国で最も価値があるのは魔術の才!」
突然張り上げられた声に、ざわめいていた人だかりは、再び静まり返った。
「あなたが言ったことだ。必ず上り詰めて、認めさせてみせる。そして、あなたをハーシャル家に迎える!」
突然、強気になったアントニーはそう言い切ると、私の横を通り抜けていった。
本当に、何なのよ。
ミシェルとも、これから仲を深める必要があるって言うのに、どうしてこんな大問題が発生するのよ。だけど──
「パークス、私、俄然やる気が出てきたわ」
「……それは良かった」
「必ず、この学園一の魔術師になってみせるんだから!」
私の人生をかけた学園生活は始まったばかり。
恋なんてしている暇はないわ。アントニーから逃げ切り、必ず誰もが注目する最高の魔術師になって貴族との繋がりを確かなものにしてみせようじゃないの。
パークスのため息を背に、私は拳を握って決意を改めた。
─────────────
あとがき
最後までご覧いただき、ありがとうございます!
(あとがきをすっかりつけ忘れてました)
この話は、恋なんて考えもせず、愚直に魔術師の高みを目指すお話でした。
アリシアとパークスの物語はまだまだ続いていくのですが……
それはまたの機会に書きたいと思っています。
また、今回脇役だったミシェルの話も、いつか載せたいなと思っています。
どちらも、最近はやりの令嬢ものとは、だいぶ違いますが……見かけた時は、どうぞ試し読みをしてください。
ありがとうございました!!
応援ありがとうございます!
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