枯れない花

南都

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第二章 「主人公」と「憧れ」

第八話

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「面白い話だけれどね、別に目的なんてなかったんだ。同じ仲間がいれば面白い、ただそれだけで集まっただけ。能力者が集まれば、普通ではできないことが出来る。人生が逆転した人もいた。君も……人生を逆転したい質の人間だろう?」

 その通りだ。こんな人生から逆転できたのならばどんなにいいことか。

 能力があればそれができる。俺の能力では無理かもしれないが、実用的な能力があったのならばお金稼ぎにもなるだろう。
 そしてそんな能力者が集まれば、何だってきっとできてしまう。

「ただ犯罪を行うメンバーが出てきてね、そっちがアスピレーションになったんだ。例えば瞬間移動で金庫に潜り込むとか、そういう奴だ」

「じゃあ店長は、俺が犯罪的でないフォーチュンに入れば味方だと?」

「そうだね。鼓くんに続いてフォーチュンに入って欲しいよ」

――まぁそんな話は嘘なのだけどね。

 俺の目の前まで辿り着いた店長、彼が突如振り返ったかと思えば、スッと左手を振り上げる。その瞬間だった、能力が発動したのは。

 店長のすぐ横にいる成木、彼を囲うように鉄格子が生成される。

 一瞬だ、ほんの一瞬。音の一つも立たずに、地からせりあがるように鉄格子が成木の周囲へせりあがった。そうしてその格子が天井まで伸びれば、成木は焦ったようにその檻を掴む。

「何をしてッ!」

 がしゃがしゃと檻を揺らす成木、彼を見て店長は「悪いね」と微笑みかける。しかしその微笑み、成木からしたのなら敵意に満ちているのだろう。

「いやぁ騙されてくれたねぇ。本当はどっちでもないんだ。自分は別にフォーチュンに肩入れするつもりもない」

「どういうつもりだ!?」

「……能力なんて本来あるべきではない。きっとそれに尽きる。二つの組織があるのは事実だけれど、自分はそもそも能力自体に対して否定的なんだ。だからこそ言おう、この少年は忌み子じゃない。ただ一人のキーパーソンだ」

 伝わってきたのは悲壮感。顔の掘りは深くなる。あっけらかんとした性格からは珍しい表情。これまで見せてこなかったものだ。真剣で、影が差している。

 今、店長は何を想起しているのだろうか。きっと能力に関して汚点と呼ぶべき記憶があるのだろう。
 消したい過去が、この男にはある。能力集団の抗争は俺が想像しているよりも激しいのかもしれない。これまでの戦闘など序の口に過ぎない、熾烈に満ちたもので可能性が現実味を帯びてくる。
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