34 / 123
第二章 「主人公」と「憧れ」
第十一話
しおりを挟む
雨の音だ。次第に強まる雨の音。
通路の内部はいつからか下り坂になっていて、雨粒の反響音ばかりが響いていた。視覚情報はほとんどない。
四方は壁だ、真っすぐ先にある出口以外に見えるものはない。匂いもない、しいて言うならば服に染みついていた硝煙の匂いがするくらいのものだ。
耳には雨の音ばかり、そのくせやけに乾燥した空気は喉を張り付かせる。それでも俺はこの通路を抜けるべく足を止めない。硬く継ぎ目もない異様な建物の床を蹴り、真っすぐに進むだけ。
そうして通路を抜けた先、真っ先に口をついて出た一言があった。
「雨だ。冷たい雨」
周囲の環境を把握する前に、真っ先に思い浮かんだ言葉。小雨から本降りへ、先ほどに比べて雨脚は強まっている。
大きい雨粒、落ちれば跳ねるほどだ。バケツをひっくり返したような雨、この表現がここまで正しいこともそうあるまい。
当然傘など持っていない自分はその中へと飛び出ていく。迷っている暇などない。
身体に降り注ぐ雨、異様に冷たいそれは体を急激に冷やしていく。瞬く間に衣服はずぶ濡れになり、体に張り付き体温を奪う。
頬から顎へ、顎から首筋へ、順々に伝う水滴はどこまでも不快で、つい顔をしかめた。
通路を抜け立ち止まれば、周囲を見て自分の位置を把握する。
自宅からは若干離れている。しかしそう遠くはない。走れば三十秒と経たずに玄関に辿り着くだろう。
そこに待つ人、それが誰かはわからない。それでも、それを信じて俺は進むだけだ。
止まっていた足を動かす、地を蹴り上げる。
しかし直後だった、『敵』を目にしたのは。
一つ先の角を曲がった矢先、路地の待ち受けていた二人組。若年の男性、そして若年の女性。
十代だ、おそらく。理由のない『勢い』や『活力』があふれている。その様から見るに年齢は二十を超えていない。
男性の方は長髪をしている。肩までありそうな髪、どこかのモデルのように毛先は整えられている。
雨でもその髪型は大きく崩れず、整えられたままに顔に張り付いている。体系は自分とさして変わらず細身、身長は172㎝といったところか。
吸い込まれるような黒色をしたフード付きのコート、その丈は長くひざ下までの長さがある。
その下には英字のロゴが入った赤色のTシャツ。鼠色のズボンの丈も長く、靴は戦闘には向かない革製のものだ。手には黒色の手袋、それ以外の装飾品は見えない。
対して女性側、膝裏までの髪の毛をしている。異様な長さだ、町中を歩こうともここまでの長さを見ることはない。それでも光沢はある、きちんと手入れをされているのだろう。
そしてこの女性の首元の花、花が開いている。どうやらすでに開花済みのようだ。
身長は159㎝ほどで、体系はスラッとしている。服装は男性と同じ、黒色のコート。
中に着こんでいるのは赤と白を基調にしたワンピース。丈は短い、膝上15㎝といったところか。それを覆うように、長い生地の薄い靴下がスカートから見える肌を隠している。
女性側は俺を見るや否や目を丸くする。そして組んでいた腕の片方をほどき、その腕を立てた。
そうして人差し指を立てたと思えば、片目を閉じ、「意外ね」と声を漏らす。
「本当だ、来るなんてびっくり。鼓(つづみ)、何で分かったの?」
鼓、確かにこの男はそう呼ばれた。噂に聞いていた男の名前だ。
天才の花言葉を持つプラタナスが刻まれた男。確かにその首元にはそれらしい花の入れ墨がある。この男がおそらく鼓で間違いのだろう。
通路の内部はいつからか下り坂になっていて、雨粒の反響音ばかりが響いていた。視覚情報はほとんどない。
四方は壁だ、真っすぐ先にある出口以外に見えるものはない。匂いもない、しいて言うならば服に染みついていた硝煙の匂いがするくらいのものだ。
耳には雨の音ばかり、そのくせやけに乾燥した空気は喉を張り付かせる。それでも俺はこの通路を抜けるべく足を止めない。硬く継ぎ目もない異様な建物の床を蹴り、真っすぐに進むだけ。
そうして通路を抜けた先、真っ先に口をついて出た一言があった。
「雨だ。冷たい雨」
周囲の環境を把握する前に、真っ先に思い浮かんだ言葉。小雨から本降りへ、先ほどに比べて雨脚は強まっている。
大きい雨粒、落ちれば跳ねるほどだ。バケツをひっくり返したような雨、この表現がここまで正しいこともそうあるまい。
当然傘など持っていない自分はその中へと飛び出ていく。迷っている暇などない。
身体に降り注ぐ雨、異様に冷たいそれは体を急激に冷やしていく。瞬く間に衣服はずぶ濡れになり、体に張り付き体温を奪う。
頬から顎へ、顎から首筋へ、順々に伝う水滴はどこまでも不快で、つい顔をしかめた。
通路を抜け立ち止まれば、周囲を見て自分の位置を把握する。
自宅からは若干離れている。しかしそう遠くはない。走れば三十秒と経たずに玄関に辿り着くだろう。
そこに待つ人、それが誰かはわからない。それでも、それを信じて俺は進むだけだ。
止まっていた足を動かす、地を蹴り上げる。
しかし直後だった、『敵』を目にしたのは。
一つ先の角を曲がった矢先、路地の待ち受けていた二人組。若年の男性、そして若年の女性。
十代だ、おそらく。理由のない『勢い』や『活力』があふれている。その様から見るに年齢は二十を超えていない。
男性の方は長髪をしている。肩までありそうな髪、どこかのモデルのように毛先は整えられている。
雨でもその髪型は大きく崩れず、整えられたままに顔に張り付いている。体系は自分とさして変わらず細身、身長は172㎝といったところか。
吸い込まれるような黒色をしたフード付きのコート、その丈は長くひざ下までの長さがある。
その下には英字のロゴが入った赤色のTシャツ。鼠色のズボンの丈も長く、靴は戦闘には向かない革製のものだ。手には黒色の手袋、それ以外の装飾品は見えない。
対して女性側、膝裏までの髪の毛をしている。異様な長さだ、町中を歩こうともここまでの長さを見ることはない。それでも光沢はある、きちんと手入れをされているのだろう。
そしてこの女性の首元の花、花が開いている。どうやらすでに開花済みのようだ。
身長は159㎝ほどで、体系はスラッとしている。服装は男性と同じ、黒色のコート。
中に着こんでいるのは赤と白を基調にしたワンピース。丈は短い、膝上15㎝といったところか。それを覆うように、長い生地の薄い靴下がスカートから見える肌を隠している。
女性側は俺を見るや否や目を丸くする。そして組んでいた腕の片方をほどき、その腕を立てた。
そうして人差し指を立てたと思えば、片目を閉じ、「意外ね」と声を漏らす。
「本当だ、来るなんてびっくり。鼓(つづみ)、何で分かったの?」
鼓、確かにこの男はそう呼ばれた。噂に聞いていた男の名前だ。
天才の花言葉を持つプラタナスが刻まれた男。確かにその首元にはそれらしい花の入れ墨がある。この男がおそらく鼓で間違いのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる