枯れない花

南都

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第二章 「主人公」と「憧れ」

第十一話

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 雨の音だ。次第に強まる雨の音。

 通路の内部はいつからか下り坂になっていて、雨粒の反響音ばかりが響いていた。視覚情報はほとんどない。
 四方は壁だ、真っすぐ先にある出口以外に見えるものはない。匂いもない、しいて言うならば服に染みついていた硝煙の匂いがするくらいのものだ。

 耳には雨の音ばかり、そのくせやけに乾燥した空気は喉を張り付かせる。それでも俺はこの通路を抜けるべく足を止めない。硬く継ぎ目もない異様な建物の床を蹴り、真っすぐに進むだけ。
 そうして通路を抜けた先、真っ先に口をついて出た一言があった。

「雨だ。冷たい雨」

 周囲の環境を把握する前に、真っ先に思い浮かんだ言葉。小雨から本降りへ、先ほどに比べて雨脚は強まっている。
 大きい雨粒、落ちれば跳ねるほどだ。バケツをひっくり返したような雨、この表現がここまで正しいこともそうあるまい。

 当然傘など持っていない自分はその中へと飛び出ていく。迷っている暇などない。

 身体に降り注ぐ雨、異様に冷たいそれは体を急激に冷やしていく。瞬く間に衣服はずぶ濡れになり、体に張り付き体温を奪う。
 頬から顎へ、顎から首筋へ、順々に伝う水滴はどこまでも不快で、つい顔をしかめた。

 通路を抜け立ち止まれば、周囲を見て自分の位置を把握する。

 自宅からは若干離れている。しかしそう遠くはない。走れば三十秒と経たずに玄関に辿り着くだろう。
 そこに待つ人、それが誰かはわからない。それでも、それを信じて俺は進むだけだ。

 止まっていた足を動かす、地を蹴り上げる。
 しかし直後だった、『敵』を目にしたのは。

 一つ先の角を曲がった矢先、路地の待ち受けていた二人組。若年の男性、そして若年の女性。
 十代だ、おそらく。理由のない『勢い』や『活力』があふれている。その様から見るに年齢は二十を超えていない。

 男性の方は長髪をしている。肩までありそうな髪、どこかのモデルのように毛先は整えられている。
 雨でもその髪型は大きく崩れず、整えられたままに顔に張り付いている。体系は自分とさして変わらず細身、身長は172㎝といったところか。

 吸い込まれるような黒色をしたフード付きのコート、その丈は長くひざ下までの長さがある。
 その下には英字のロゴが入った赤色のTシャツ。鼠色のズボンの丈も長く、靴は戦闘には向かない革製のものだ。手には黒色の手袋、それ以外の装飾品は見えない。

 対して女性側、膝裏までの髪の毛をしている。異様な長さだ、町中を歩こうともここまでの長さを見ることはない。それでも光沢はある、きちんと手入れをされているのだろう。
 そしてこの女性の首元の花、花が開いている。どうやらすでに開花済みのようだ。

 身長は159㎝ほどで、体系はスラッとしている。服装は男性と同じ、黒色のコート。
 中に着こんでいるのは赤と白を基調にしたワンピース。丈は短い、膝上15㎝といったところか。それを覆うように、長い生地の薄い靴下がスカートから見える肌を隠している。

 女性側は俺を見るや否や目を丸くする。そして組んでいた腕の片方をほどき、その腕を立てた。
 そうして人差し指を立てたと思えば、片目を閉じ、「意外ね」と声を漏らす。

「本当だ、来るなんてびっくり。鼓(つづみ)、何で分かったの?」

 鼓、確かにこの男はそう呼ばれた。噂に聞いていた男の名前だ。

 天才の花言葉を持つプラタナスが刻まれた男。確かにその首元にはそれらしい花の入れ墨がある。この男がおそらく鼓で間違いのだろう。
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